たとえば君の幸せを考えたとして。
第1話 ワイドショー
眠るにも体力がいるものだ。
結局全身の重怠さと、にぎやかな頭痛に耐えきれず、朝8時にのそのそと起き出した
目がなかなか開かない。窓のない部屋は朝といっても暗いが、素知らぬ顔で火鉢を置かれたように温かい。
あと、なんだか左腕になにか、重みがある。
ちらりと布団をめくれば、小さな黒い腕が見える。
「…………ッ!?」
吸った息のまま、口元を空いた右手でおさえた。
どうもつた様を抱きしめたまま、眠ったらしい。
(ばかなことやっちゃったなぁ……!かえる、って言ってたのに、無理矢理引き留めちゃった……!)
火急的速やかに出頭を考えたけど。
布団を剥がして浴びた冷えた空気に、小さな腕が震えたので詫びは後だ。
つた様が起きるまではと、丁寧に布団で包む。
何せ眠るつた様に、きゅむきゅむと指を握られている。元より誰か起こさずに寝床から抜け出る技術は昔からない。
起きたらなんて詫びたものかと悩ましいが、小さな頭がすりすりとしてくるのを感じて
(……かわいい。
豆知識
神は割と狸寝入りをします
猛烈な勢いで黄色く明滅するマイページの一文が通り過ぎていったが、ぼやけた視界にはそうとしかわからない。
いったいなんと書いてあったのか。
表示速度にむらがある辺り、マイページの
食事は安全を考えて取り寄せでと園原に言われていたので、
それで今はつた様が目を覚ますまで、備え付けの小さなテレビをぼんやりと眺めている。
警察署へのテロが、どう報じられているのか気になったが、概ね予想通りに
(あの人数分の身代わりだったなら、呪詛返しでそこそこ死んだかな、と思ったけど。予想以上に未払い連中も死んじゃったな……タダ働きとか最悪だけど、神様側からしたら、それこそ知ったことじゃないか)
テレビは最低音量で、全国各地のお偉いさんと、著名な
ついでに長らく契約を無視して報酬未払いだった
多額の報酬を支払うことで、
無論、依頼を受ける前にこれらは念入りに説明する。
そしてこれまでも月ごとに催促した上に、ちゃんと裁判沙汰にもした挙句に踏み倒されたのだ。
それですぐには死ななかったせいで、未払い
一番古い案件で
それを一体なにがあったのかと詳細を知らずに、しゃしゃり出て空々しく驚くワイドショーの連中である。
ろくに現場を知らないなら黙ってろ、とは言えない場所で楽しそうにやっている。
昨日洗面所に眼鏡を置いたままなので、画面はおぼろげにしかみえないが。
呪いが解けて明らかになったらしい、清掃会社のサイトで公開された
『絶対このなに?モップ?ってひとがなんかしたんでしょ。たかだか掃除だけで、こんな料金とってさ、払いきれないひとを天罰で、とか。いくらなんでもやりすぎなんじゃないの?犯人のその家族や関係者まで被害に遭うって考えてないっていうか。
『
『そりゃ【
『この被害者の方が加害者全員と仲間だったとでも?【
『でもこの
『失礼、
結局顔もわからないコメンテーターたちは、それぞれの話を遮り合いながら、都会の流行についてのコーナーに流れていく。
読み上げられていた視聴者のコメントも、概ね
どうやら迷宮攻略配信中に、天罰を受けて死んだ人気
それでチームごと全滅したというのだから、金払いの悪い同業者のために気の毒に。これも運というやつだろう。
(……まあ、私一人で被害が済む方が、何人も死ぬより困らないものね。園原さんの報復がどうのって懸念もわかるけど……これは、最終的な落とし所が難しいな。どうせころされるなら、今までの犯人全員巻き込みたいのは変わりないし)
そう思った矢先、ワイドショーの司会者の全身が七色に発光し始めた。
司会者の頭上に、でかでかとネオンカラーに光る警告文が浮かぶ。
テレビ若葉『
司会者
これまでの報道が、被害者への
重大な名誉毀損に該当します。
放送倫理に基づき、早急の訂正と
謝罪を命じます。
なお、この報道による誤解が全て
解かれるまで、番組の放映を禁じます。
警告事由
・被害者の生命に関わる名誉毀損
・【
認識の流布。
『はぁ?!僕が何したって言うんです?!たかが
深刻な人権侵害を確認しました。
適切な対応があるまで、
テレビ若葉の放送免許を停止します。
「……え?」
そのまま画面が、それまでの経緯を書いた画面で止まる。
他のチャンネルも回したが、表示される経緯は違うが同様に違反があったために、放送停止となっている。丁寧に音声でも経緯の読み上げがあった。
これまでも何度か見たことあるが、まさか自分の関わるニュースでこれを見ることになろうとは。
(とりあえず、
〈やっておきますよ。あとで
確認だけしてください〉
マイページの
テレビを消すと、布団の中で、小さな身体がのびるのを感じた。
んむむむ……
あれ、
おはよぉ……
掌に、ふにふにとした頬をすりつけられた感触がある。
寝ぼけて布団に引き込んだのを、詫びた方がいいか一瞬考えたけど。
なんとなくつた様が、満足そうに笑っている気がしてやめた。
「おはようございます、つた様」
さて、朝食を考えなければ。
……おにぎりでいいだろうか?
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