④ 顔
「もとより神が見えれば誰にも言わず、即座に警察に連絡を、とのことでしたが、今回はそれ以上にまずい案件になりそうでして」
成人して【
不可解な事件が起これば、該当する【
(弊社職員も度々連れてかれていたな……)
成人してからも神に見込まれて、強力な【
事情聴取に連れて行かれた内、3人くらいそのまま退職としていた。
「ええ、予想はついてましたよ」
「えっ」
「成人になった時から、貴方がノースキルである意味が解らない。……未成年で神から見放されるようなおいたをする子どもは、まほろだとすぐに惹かれて死にますから」
園原はまぁ、全然元気に生き延びている例外もいますが、と締めくくり、こつりと人差し指で机を叩いた。
「ノースキル。人により神から【隠された】子たち。愛する子どもを神に盗られまいと、隠す分にはよくありますが……」
苦く笑って、
彼女を愛してくれたのは、かつての妹だけだ。今は……会わせる顔がない。
「こうした呪法を用いる理由で、一番よくあるのが何者でもない命を洗脳し、【神造り】の土台にすること。二番目が、身代わりとして扱うこと。……高橋さんは、どちらでした?」
「私は二番目でし、た……」
気楽に聞かれた質問に、滑らかに舌が動き、呼吸が途絶えることもない。
これは。
「……呪いは、解けたようですね。質問されたこともわかっている」
ちゃんと洗脳もセットだったらしい。しっかりとしている。
毎回園原から謎におにぎりや、サンドイッチの好みを聞かれるのはこの質問と置き換えられていたか。
「いえ、それは普通に気になるので聞いてましたが……呪った相手の心当たりは?」
「母方親族。ですが、対象は彼らが顧客にしている連中ですかね。掃除用品入れに隠しているのですが、取調室内に物品の召喚許可を頂けますか?」
「ええ、許可します」
指先で机をなぞり、掃除用品入れを召喚した。
その中に収めていた証拠を渡すと、園原の表情が華やいだ。
「これは……!完璧ですね。ありがとうございます、高橋さん!」
「いえ、こうした物の取り扱いを教えてくださったのは、園原さんですから」
そっけない黒い鞄の中には、みっちりと人面を模したマスクが詰まっている。
宴会芸に用いるような、芸能人などを模した代物じゃない。どこの誰とも知らない他人のそれだ。
朝起きたら、床一面に人の顔を精巧に模したそれが散らばっていたのだ。
老若男女問わない、総数13枚のマスクに、流石の
素材は一切わからない。こんなものをつけていて、気がつかなかった意味もわからない。
警察への連絡後、手袋をはめて一枚一枚、丁寧に袋詰めして証拠を保全する中でかみさまが起きたのだ。
助けてくれたのかと聞けば、右手で影絵の狐を作り、それを使って何度もうなずいていた。かわいい。
「高橋さんをノースキルにしていた呪いが解けたのは別要因でしょう。肩代わりさせられていた不法行為による天誅から、解放してくださったのは確実にこちらの
「そんなことまでわかるんですか!?というかずっとそばにいたんですか?!」
そだよ、と言いたげに、
「……はー、しかしこんな13名を、よくぞ……一日でまほろポイント、どれだけ稼いでるんです……?」
「さっきからどこ見て何言ってるんです……?」
初めて聞いた庶民じみた名称に面食らう。
宙を睨んでいる園原は呆れ顔だが、度々社長もよくやるので、何か浮かんでいるんだろう。
「本来、スキルを得た人間のみ説明する事項ですので、こちらを……」
「これは……」
初めての【
若木のような黄緑の表紙から、よくわかんないゆるきゃらが立場をわきまえて正しく扱おう!と気さくに話しかけてくる。
成人式の際に、皆が謎に持っていた白表紙の冊子はこれだったか。
「未成年者に見せるとよろしくないので、スキル持ちのみ見える、と術式で括っているんですよ」
ぱらぱらとめくる中に、マイページの記載があった。
マイページ、と念じれば出るそうである。何が?
「まあ、自分に関していろいろなことがわかる幻覚です。神の加護、神からのオファー、まほろポイント……」
「まほろポイント?」
「人生を頑張っていると何となく増えるポイント、です。通常【
いわゆるサブスクリプションサービスですね、と園原が言うが、普段利用したことない、わからないものということだけはわかる。
「なんと、言えば、いいのか……」
「はい」
つやつやした紙の冊子。
【
「たかが、こんなことができなくて、そこそこに迫害受けてたんだなぁ、って」
「そうですよ。たかがこんなことです。ただ、貴方は安全が保障されていない者への忌避感を、よく理解していた。……だから、信じます。呪いを解いて、おそらくは今後、あらゆる神からオファーがあるだろう貴方が、その力に溺れて、周囲に復讐とかを考えないように」
普段微笑みで細められた園原の目は、真顔になると蛇のように用心深い印象である。
人を殺して呪う。
そんな人間の迎える末路を、何度後始末したことか知れない。
だから、卑屈に否定ができる。
「なんもですよ。ことが明らかになれば、ちゃんと警察に捕まるなりするでしょう?復讐とか、おっかないこと言いますね」
「もし、妹さんにまで手を出されていたら?……はい、わかりました。そんなときに高橋さんが、迂闊に神に頼るはずがありませんね」
「い、や、はは……何を知ってるんです?妹に何か、あったんですか?」
ずり落ちた眼鏡を直すふりをして、目元を隠した。
妹は、
……刑事というものは、追い込まれた人間の狂気をよくわかっている。
部屋の片隅にいる警察官が、用紙に記載するスピードが跳ね上がった。気がする。
「では、一緒にやってみましょう?マイページ。そこに、貴方をたすけたかみさまの名前もきっと載っているでしょうから」
「……この流れでよく教える気になりますね」
「だって、高橋さんが成人した折にちゃんと家庭に監査が入って、児童虐待の恐れがあると、妹さんは7年前に児童相談所に保護されて無事ですからね。そもそもが杞憂というか」
「それって……」
「毎回、必ず教えてましたが、きっとそれも聞こえてなかったでしょう?」
聞こえてなかった……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます