② 警察

訳の分からないことが起きた時、原因の判別が困難なまほろでは警察に相談するに限る。


最寄りの警察署は今日も混雑していた。


事前に予約を入れていたためか、千暁ちあきを担当する刑事はすぐに来てくれる。


普段通り、身に着けていた監視デバイスの提出に合わせて、呪い、ないし誓いに関してのチェックを行われた。


どういう仕組みなのか、神の見えない千暁ちあきにはわからないけれど。


成人した際にノースキルで神の目がない千暁ちあきは、自然と記録されるはずの犯罪歴が記録されないらしい。


加害者側でも、被害者側でもだ。


警察も、当然捜査するけれど。


いざ裁判で揉めたとき、裁判員からの心証悪しく、疑わしいのはだいたいろくでもなきノースキル、という風潮があった。


それを狙って、冤罪をかける犯罪者も多いのだ。


千暁ちあきとの相性が悪いのか、監視デバイスに受けた被害は一切記録されないけど。


彼女の潔白を、最大限証明する手立てが他にない。


「本日もご協力ありがとうございます……!問題ありませんでした!」


「お手数おかけしています」


にこやかに笑う刑事、園原 まどかは、青森に来てから担当してくれる刑事だ。パンツスーツを着こなす、ベリーショートな56歳女性である。


彼女の追う事件に一番近いとかで、時間の取られる監視役を全面的に請け負う、敏腕刑事であった。


この7年で、5~6件の冤罪を救ってもらった恩がある。


うち、3件ほどがもともと狙っていた犯人だったので今後もご協力を、と。怜悧な風貌に似合わず、いつもおっとりとほほ笑んでいた。


よくも得体の知れないノースキル相手に、と千暁ちあきは恐縮しきりだけれど。


就職してから7年間。馬鹿正直に監視デバイスを提出し続ける人間を疑うほど、警察は決して暇じゃない。


園原に迷宮清掃員ダンジョン ジャニターとして、強力な伝手と認定されて頼られているのを、千暁ちあきは社交辞令と判じて流していた。


「さて、お電話の件でしたが、場所を変えましょう。伝えることもありますし」


聞き耳を立てる者がいる、と淑やかに口元に当てる指先は、雪に沈む松葉のような傷が多い。


「……何せ皆さん、初めて高橋さんがお連れになったかたに、興味津々ですから」


でしょうねぇ、と言葉なくうなずいた。


たん、たんたん、たん。


先程から千暁ちあきの足元では、小さく音が響いている。


コンビニのおにぎり(鮭)を両手に抱え、小さな腕だけ見える神様が、最高にもの言いたげに地団太を踏んでいたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る