③ 新しい【独自権能】

   〈あっ〉


「……どうかなさいましたか?マイページのかた


抑揚のない機械音声でも、あちゃー、といった雰囲気を感じた。


    お知らせ

    焼鉢やきばち神の力が増しました。

    御由緒に以下が追記されます。


   『清掃人払暁ふつぎょうの心を慰めたことを契機に

    深く信仰を受け、

    【独自権能ユニークスキル:そしらぬひばち】を

    開眼なされました。

    この御力をまほろに役立ててほしいと、

    救助活動において無条件に発動する

    国家登録【権能スキル】になりました』


国家登録【権能スキル】とは、特定組織、職に就く者に、たとえ信仰がなくても使用が許されるものらしい。


致命傷を負っても、即座に再生できる警察官の【権能スキル】もこれに当たるそうだ。


国家に登録されている限り、無条件に毎年500まほろポイントが、登録した神に付与される。


人で言うなら不労所得で税金が全て賄える上に遊ぶ余裕がある収入、とのことである。


迷宮を飛び回る探索者シーカーも、レンタルを考えずにいられないだろうから、きっと信仰する者も増えるだろう。


(さすが商売人、運用が手堅いし、実行までが早い……!あのかびたくあんの大火を一瞬で鎮められるんだ。消防隊員がたまたま通りすがるだけで、仮に設備がなくても火事がなんとかなるのか)


   〈そこじゃねえです〉


「えっ」


焼鉢やきばち様すごい、の他に何の情報が?


     千暁ちあきさんもすごいんだよ!見てみて!


    〈つた神、まずはこちらを参照する

     べきです〉


言うが否や視界にでかでかと、マイページのかたにより、来歴ページが開かれる。


二つ名:【青森の不憫モップ】

    (新)【払暁ふつぎょう

    (迷宮清掃員ダンジョン ジャニターとして)


二つ名の欄を、騒がしいサンバ隊のアニメーションが騒ぎ立て、無意味に紙吹雪が舞う。


「ふつぎょう」


呆然とお祭り騒ぎを眺めてから、慌てて御由緒を読み返す。


清掃員千暁ちあき、ではない。清掃人払暁ふつぎょうってなんだ。


    千暁ちあきさん、まともな二つ名が

    増えたんだ……!頑張ったねぇ……!


6本の小さな腕で、柔らかく抱きしめられた。そのままわしゃわしゃと背中だのをさすられる。


かわいい……かわいいけど。


(二つ名って何?って聞きにくい雰囲気)


何で褒められてるのかわからない。


    〈人生の功績について、端的に表す

     一つの方法であり、神の目印です。

     高名な人間を抱えて名を挙げたい

     神は多いので。

     神の来歴に深く関わった人間は、

     二つ名があれば記されることも

     あります〉 


「はぁえー……」


情報を咀嚼して、だからどうしたとの結論が出た。


何せ胡華丹堀こかたんぼり藻掬もすくいに先に出会ってしまい、コトの重要性がわからない。


だいたいその前の不憫モップもただの悪口では。


(ならそんな重要な話でもないか……?)


どうせまたいずれ汚れる場所の清掃で、そんな大層な話もないだろう。


    〈認められた功績がなくとも二つ名が

     ある。

     貴方の功績を一つずつ分けても、

     大人数が容易に二つ名を得られた。

     このことをよくよく考えてください。

     連中の詐称は暴かれ、今後は貴方が

     本来の名声を負います〉


「……あー」


会社で名を挙げた人間がどうなっていたか思い返して、うんざりと息を吐いた。


あんまりよくなさそうな効果までついてきそうだ。


(これは、社長もこのことを見越してたな……!)


傍目に見ていた宗教法人絡みのあの騒動、一個人が関わるには荷が重い。会社所属だから守られていた。


はっきりと加護なしノースキルと差別されていた千暁ちあきなら、尚更勧誘に手心を加えないだろう。


信仰をゆるしてやるから床に伏して感謝しろ、とでも言われかねない。


(まあその時は迷宮清掃員ダンジョン ジャニターなんて辞めるだけだけど!)


現状第一志望は紋の描き手だ。


あった方が信頼される免許を取るのに来年9月まで時間がかかるのが難点だが、単発の依頼を3件も受ければ間に合う。


まあなんの問題もないかと、たかを括る千暁ちあきである。


     〈あと、お知らせは最後まで

      読みなさい〉

     

    『開眼を寿いだ清掃人 払暁ふつぎょうにより、

     贈られた豆星まめぼし鉄に薫風を汲み上げ、

     団扇に鍛えられました。

     そして新規【独自権能ユニークスキル】の開眼に

     至られました。


     【独自権能ユニークスキル

     くんぷううちわ

     【常時発動/強制:消費ポイント0】

     確定効果:空気洗浄


     私の庭は常に心地良くあらねば

     ならない。庭に休む客のためにも』



豆星まめぼし鉄。


小粒の鉄だが、概念を一部記録でき、これを使用した装備の性能を変えるものだ。


千暁ちあきの壊れない箒にも用いられているし、恐らく社長に贈られた眼鏡もそうだ。


これが欲しいと言うから、何に使うのかと思ったけど。


(これ、10円で売れって言ってきた業者、本当にあり得ないよね。普通、信者向けに派手で強力な武器とか創る方が多いけど……快適な生活用なのが焼鉢やきばち様らしい、と言えるほど知らないな)


そしらぬひばちと合わせて、人体に有害な気体を除くのにも役立ちそうだ。


職種によっては、喉から手が出るほど欲しい組み合わせだろう。


しかし、いい話にしようと頑張っているが、贈ったのは今だし。なんなら祝いよりも飯に釣られているのだが。


(……私が焼鉢やきばち様のごはんにつられるのわかって、事前に用意してたんだなぁ。昨日初対面だったのに、スピードが早い)


なんだかちょっと面白くない。


散々世話になったし、欲しいと聞けば渡したのに。


途端に窓のないこもった空気の部屋に、今の時期にありえない。緑の爽やかさを含んだ、心地よい風が吹く。


     お知らせ

     遊び神 焼鉢やきばち(分類:享楽)より

     そんなつき合いは楽しくないでしょう。

     今日の朝食はあと30分で用意します。

     顔でも洗って着替えていらっしゃい。

     卵焼きも用意していますよ。


     【独自権能ユニークスキル:くんぷううちわ】

     の使用をゆるされました。


焼鉢やきばち神の名前が変わった、とか、分類も違う、とか。


大事なことだがそれ以上に。


「ええっ……!」


しばらく口にしてない好物の登場に、はっきりときめいた千暁ちあきである。


なんなら今日一番の喜びを感じている。


     千暁ちあきさん、汚名が晴れるより、

     【稀覯権能きこうスキル】貸与より、

     卵焼きの方が嬉しいんだね……!

     そうだよね……!


千暁ちあきの白い頬に、ほわほわと血が巡るのを見て、頭を抱えたつた様だ。

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