② オファー

    お知らせ

    焼鉢やきばち神より、新たなオファーがあります。

    今すぐ確認してください。


焼鉢やきばち様から……?」


オファーとは、神から人間への依頼のことで、モノによっては神の格が上がることもあるようだ。


そういえば、昨夜そんなことを言っていた。


マイページのかたに促されるまま、オファーの欄を見る。


途端にお前から此度の件を釈明しろと、恐らくは遮断ブロックしきれていない神々から、ふざけたオファーが画面いっぱいに映し出された。


なんならお前が信者になるなら許してやる、までがセットだ。厚かましい。


(あー……これ、赤原のタコ坊主のとこの破壊神だ、確か。他も、なんとなく見覚えのある……お抱えのまほろポイント出稼ぎ要員が使い物にならなくて焦ってるなぁ)


これを全部断るのかとげんなりしたのもつかの間、ダイナマイトのアニメーションが投下されて跡形もなく消し飛ぶ。


    お知らせ

    神による恫喝を確認しました。

    通報、遮断ブロック済みです。


(仕事早!……一応事前に通報確認取るだけつた様には手心があったんだ?!)


そうして残ったオファーの中に、書き出しから丁寧な焼鉢やきばち様からのものがあった。


つまり避難中に外食ばかりになると塩分過多、高脂質で身体に悪く、事が済んでもしばらく引きずるだろうから、よければ3食こちらで出すとのこと。


即答しそうになる。


母親の借金で食べられるだけでありがたく、清掃途中の食事風景にクレームが入る千暁ちあきだったけど。(なお主にもやしを生で食うななど)


種込み蕎麦の至福は一晩経てもまだ鮮やかだった。


あんなに素晴らしい蕎麦をこしらえる神様の献立で3食。夢みたいな話だ。実現しないけど。


(……ぁあぁああんまりにもおいしかったけどなぁ!こんな条件、断るの辛い……!)


だが、絶対にただでそんなことまでしていただく筋合いはない。


まして、千暁ちあき自身がかなり危うい立場にある。


焼鉢やきばち様にも迷惑が、と思った瞬間、交換条件として挙げられた物に無意識にオファーを受けていた。


我慢が利かないあたりに堕落を感じる。


マイページのかたの指示にそって、倉庫から直接焼鉢やきばち様の元に豆星鉄の発送手続きを取ったが、その間まるで後悔がないのも酷い。


(でも私にとってはゴミみたいな素材で破格すぎるし……!)


なんせ、貸倉庫に溜めているへそくり代わりの迷宮ダンジョン素材だ。


他で数十万する素材も、加護なしノースキルが売れば足元を見て数百円。


馬鹿らしくて7年は溜め込んでいたうちのたった一個を、千暁ちあきの神様はご所望らしい。


焼鉢やきばち様のご飯を考えると、ただみたいなもんですね……)


むしろ貰いすぎではないかと不安だ。


   千暁ちあきさん、それって迷宮ダンジョン素材だよね?

   どうして豆星まめぼし鉄があるの?

   これ、一粒でも結構な価値があるよ?


「まだもう少し身体が動いた時は、神域ダンジョン案件にも手を出しましたからね。その時に非戦闘員にも、神から素材の下賜があったんです。社長の話では、ですけど」


なんでか直接は渡されず、帰宅したらベッドに置かれる形だったけど。


この豆星まめぼし鉄もその一つだ。


  〈千暁ちあきさんが窃盗の疑いを避けるために、

   下賜があっても無視をしていたせいです。

   貴方、神に関しては耳目を閉じていました

   から。

   つた神のバケツも、竜宮氏に言われるまで

   中々手をつけなかったでしょう〉


加護なしノースキルが大層なものを持っていても危険ですからね」


そのうちどこで聞きつけたのか、千暁ちあきの部屋に窃盗目的の侵入者も増えたから、月100円で社長の金庫を借りている。


今は直接そちらに贈られるそうで、社長がその都度リストを更新していた。


ほんとうに借金と入院で首が回らない時は、社長が適正価格の何倍にもして一部換金してくれてもいる。


   竜宮さんにはお世話になりました……

   ほんとうに、千暁ちあきさんが

   生きてるのは半分は竜宮さんのおかげ

   だからね……!今度ご挨拶に行きます!


「……」


   いやそうな顔してもだめ!


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