② 検査
「あー……高橋さん、ちょっといいですか?」
「はい」
もちゃもちゃと小さい手のひらに頬を揉まれながら、
「高橋さん、これから病院で精密検査です」
「は?」
そして、警察署内に置かれた自動浄化装置で文字通り丸洗いされた後、頭から爪先まで検査された
診察まで終わった今は、疲労に呆然とした表情と、貸し出された病院着、ぼさぼさに乾いた髪もあいまって、洗われた野良犬の風情で警察病院のロビーにいた。
散々検査に回された挙句、生活習慣の注意しか受けなかったのは何故なのか。
やんわり飯を食えと医者の話に出るたび、決心するように拳を握るつた様に、これからどうなっちゃうのか不安しかない。
おまけになんでか通り過ぎる人達が、パックジュースだの、飴玉だのをそっと添えていく。
添えるな。
眼鏡がないから、食べて大丈夫なのか判別がつかない。
「お疲れ様です」
「……?」
眼鏡のない人間に、同じ制服の警察官は見極めが困難である。
「
そう言った男が帽子をあげると、青白い光が瞬いた。
そっと指先で
何も起こらないので人間なのは確かである。
「うーん全然信用してない。流石ぁ」
差し出された警察手帳を信用する限り
警察手帳の偽造は神にできない所業だが、人はするので。
間違いなく添木さんだよ!
助かります、つた様。
「
散々後始末をしてきた側の
「
「それはほんと、なんなんでしょうね」
来歴はつた様がしてくれたことは明記してあるが、何故
そっと横にいるつた様をみる。
彼女は傷んで勝手にカールする
露骨なごまかしを見た。かわいい!
(……まあ、神とはわかるが来歴不明、っていうのはそれだけ警戒はするべき案件だ。文句はない)
片づける側は経験したが、自分が神に治される立場になるとも想定してなかったので、対処が遅れた。よくないことである。
この件に関しては警察が正しい。
新興宗教団体が発した、龍脈から得られる神力により怪我や病気が快癒する、という捏造神話を元に起きた連続怪死事件である。
これは傷病が完治するのは確かだったそうだが、その際に埋め込まれた虫によって脳を取られ、操り人形と化した連中が龍脈にて自死させられた。
死体は人知れず龍脈に飲み込まれたものの、時間が経てばもちろん腐る。その澱みに虫がわいて、付近の住民を襲い始めて事件が発覚した。
青鵜の龍脈は池水に
(死体は警察が全部回収済みだったけど、水に沈める虫除けのお
呪いの虫退治なら、陰陽師の案件である。
渋々頼んだ
他職種に依頼するなら、報酬から出せと言われたのである。単純に違法であった。
正直最初の見積もりの段階だったので、
念の為通報したら、集落一つ消えるような事態に、国からも要請されては難しい。
おまけに金はいらないが、功績の全てを己のものにしたい、というおかしな高校生陰陽師まで出てきてしまった。
これまで勝手にそうする連中しかいなかったから、むしろその申し出を清々しく感じて、すぐさま社長に確認して正式に書面に残したほどだ。
実際その陰陽師がいなければ、成し遂げられなかった依頼なので、正しく功績は彼のものである。
固辞されたが、報酬もきっちり等分した。
若い頃から、報酬なしとか馬鹿みたいな仕事の仕方を覚えたらダメだろ、と社長が説教していたのを覚えている。
その後は国により龍脈所有者の依頼主の怠慢も明らかにされ、報酬が倍額支払われた上で逮捕に持ち込めたので、随分胸のすく思いをしたものだ。
掃除するより調整が面倒な案件だった。もう2度とやりたくない。
(確かあの時、服に卵がついてたとかで。あとで検査で病院行くって言って、結局行かなかった高校生陰陽師くんが乗っ取られかけてやばかったんだっけ?よく生きてたよね)
そういう訳で、
しなくても構わないが、立ち入りに制限のある場所が出る。特に公共交通機関の利用は厳しい。
……まさか、自分が対象になる日がくるとは。
「マイページで慈悲設定、いじっておいた方が絶対いいですよ。加護の押し売り、断れるけど毎回そんな時間は使ってらんないし」
「その辺、全然わからないので、ご指導いただけません……?」
人によってこの認識が大いに異なるので、信頼のおける複数人から話を聞き、自分のスタンスを確立するのがいいらしい。
「教える代わりっちゃなんですけど、俺にもあとで
「
「は?」
「親は名づけた子どもに成人するまでに説明義務があり、破ると慰謝料請求可能です。この辺り、イカル事件に詳しい判決が出てますよ」
「……は?」
かけられた呪いを解こうとした時の知識だが、
一通り丁寧に教えてくれた
先程からお知らせが追いつかないほど、神からのオファーを知らせる通知がどんどん来ていた。
(……チェーンメールみたいだな)
だいたいこんな【
ただ、内容と来歴とマイページ担当の方による注釈を見る限り、ほとんどが安く使える掃除人が目当てらしい。
何を寝ぼけているんだか知らないが、加護を受けても依頼されたら絶対に金は取る。このオファー、信者をタダ働きの使用人と勘違いしてないか?
そう思った途端、オファーが3分の1程度に減少した。
残るはかつて自分の信者が迷惑かけたが死んだら招いてやるから水に流せ、とかのふざけた連中くらいである。
結果死んでまで加害者と鉢合わせになるのを、どう感謝しろと言うのか。
(そもそも、
傷害と暴行と脅迫、強盗は非親告罪だ。
すでに
確か、【
(きっと呪いが解けちゃったから慌てて詫び?を寄越したんだろうな……)
全てが程よく手遅れだ。
かつて
被害を受けた時点で詳細は手書きで記録して園原に渡していたし、複製もある。
園原は
かの女傑を止める者など、警察にはいないのである。
お知らせに低姿勢の懇願がなだれ込む。
(そこをなんとか、ってする訳ないじゃんね。誰にモノ頼んでんだか)
運悪く生き延びたのは、お前の信者に肉を裂かれ、髪を焦がされた被害者である。
この仕打ちは紋を描いて回避することを覚えても、今に至るまで忘れたことはない
そっと舌打ちをした
(こんな連中と、つた様と
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