⑥ 冷たい布団
3階建ての女子寮で、
元々食うに困って迷宮清掃員を始めた人間は、すぐに辞めるなり、死ぬなりしていなくなるけど。
15部屋ある寮だが、基本的には仕事中の死亡事故などがあったときに、会社に後始末を頼むしかない境遇の人間でほぼ埋まっている。
時刻は夜3時。暗い廊下を息を殺して歩き、そうっと部屋へと入った。
嗅ぎなれた部屋のひんやりとした空気に、張り詰めた気が緩む。
そのまま座り込みたいのをこらえて、服を寝間着代わりのジャージに着替える。
毛玉の浮いたセーター、洗いざらしのジーンズ、黒くすり切れた靴下……
何か少しでも考えると、そのまま動けなくなる。
暖房もつけずにベッドに飛び込み、しっかりと布団を巻きつけた。
今日は、夜食を頂いたせいか、冷え切った布団がぬるむのが心なし早い、気がする。
(ああ、でも、つかれた……!)
結果としてご馳走になった数倍は、気力体力を振り絞った形である。
(なんで私みたいなのが聞いてしまったんだろう)
何せ現場仕事だけしかしてこなかった。
神々は人間に寄り添い、様々な恩恵を与えることで信仰を得て、より力を得る。
信者の立ち居振る舞いが、神の力に影響するとも聞いている。
ノースキル。
成人式の折、神の
普通、八百万の神々は、自身の存続のためによほど素行が悪くなければ、それを契機に【
神同士の力の差もあるので、多少ならば問題のある者にも、弾き出された神が殺到する。
スキルを得られないということは、いずれの成功も信用されず、神の名を貸し与えるには適さない人格と、このまほろでは判断される。
(バカみたいな話だ……)
実際にノースキルの
人となりを判断して関係を構築する時間を、明らかな問題人物に割けるほど、誰も暇に生きてはいない。
個人情報である来歴判定は、相当限られた立場の人間にしか使えない。
そもそも、
上の立場の人間からの取り成しも、根拠がなければやっかみの元だ。
……いずれ妹を連れて家を出たいと願っていたから、成人式で【
そんな
以前、それを告発しようとして失敗し、何故かそれについて伝えようとすればたちまちに窒息するようになったからだ。
でもこの10年、ただ手をこまねいていた訳じゃない。
図書館で原因を調べれば、呪われて親族の行いに対する償いを全て代償する、という何ともふんわりとした契約を結ばされているのもわかった。
つまり、こんな真似を平然とする親戚一同の悪事が、そのまま
簡単な解き方もあったが、ノースキルでは解けない。
誰かに依頼しようにも、まず誰にも助けを求められなければどうしようもない。
呪いは18歳で成人してから発動した。
最初の3年ほどは足掻いたが、そのうち身代わりがいると思って好きにやっているんだろう。
軽微だが確実に呪いのしわ寄せがきて、たちまちに体を壊したので、それどころではなくなった。
少しでも多く仕事をこなして、金を稼ぎ、見えぬ神に媚びを売り、なんとか命を長らえている。
(あれは、まだ43歳か?まだ生き延びそうだな……)
最近は少しおとなしく、しばらく慰謝料だの賠償だのの請求が
一番来てほしくない時に平然と送り付けられるので、今のうちに少しは余裕をもって稼いでおかなければ。
(つらい、胃が痛い、体が
でもまだ死ぬわけにはいかない。
後は、故郷の母が死ぬまでを生き延びて、少しでもかわいい妹に貯金でも残せれば、
眼鏡を外して枕もとに置き、携帯のアラームと充電を確認して目を閉じた。
明日は休みだ。
迷宮清掃員協会で、めぼしい依頼がないか確認して、少しでも……
あの母より、1日でも長く、今日をやり過ごせれば。
まともに考えられたのはそこまで。
ぬくもる布団に身を隠すように細い体を丸めて、
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
応援の♡、フォロー、☆など、大変うれしいです。
説明書きにもありますように、正直🍙の癖のみで構成された趣味の物。
何より睡眠が大事なので、このままのんびりと続いていきます。
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