ハナエムマホロニカ:迷宮清掃員は今日をやり過ごしたい。
潮 結(しお むすび)
わたしの神様 あたしが好きな子
プロローグ
おはようございます。はい、朝の会を始めます。
今日はちょっと嫌な話をしないといけない。
2分ほどの動画だが校内のTVで一斉放送になっているから、静かにみるように。
ただ、これから見る内容は、君たちも知っている人たちが被害に遭う動画だから。
具合が悪くなったら、いつでも教室外に出ていいが、動画が終われば呼ぶから。話だけは聞いておくように。
……………。
終わったぞー、出てた奴は教室戻れー。
はい。じゃあ、話の続きします。
この世界は、神々により成り立つけど。
一度もろもろの均衡を崩し、滅亡の危機に瀕したことがあるのは歴史でやったよな。
そこで花掬いの柄杓の方が、故郷である異界日本を模して【まほろ】を造られたと判明している。
しかし当然模しただけの別世界だから、
君たちはそのうちの一つ、ダンジョンを知っているだろう。
一神教信者が多いタイプの諸外国においては、神の敵対者が成した迷宮で、発見し次第、討伐すべき忌むべきもの。
なんだかんだ神が増える【まほろ】においては、迷宮に加えて、概ねが
この【まほろ】には、八百万と称するほど、数えきれないくらい神々が多い。
つまり、神のお気持ち一つで、あちこちが気楽にダンジョンになってしまうわけだ。
この神域は、神々にとってない方が心易くいられるが、それでもとっておきたいセンチメンタルな部分、と言い変えた方がいいかもしれない。
当然、見くびって馬鹿にしたり、迂闊に壊せば恨まれることもある。
だから【まほろ】のダンジョンはどんなものでも【破壊する】んじゃない。【
方法も当然、国外でスタンダードな方法と変わる。
それどころか八百万の神々それぞれに対処法が異なる。
諸外国ではダンジョンごと爆破するのも常で、それで何が起きても、得られた結果で万事ヨシという風潮だけど。
こっちでそんなことしたら、単純につき合いを断られて、まともな暮らしはできなくなるからやめろよ。
やらんでいいことやる人間が、周囲に危害を加えず社会生活を営めるなんて、信じる世間じゃないからな。
話がずれた。
ダンジョンというのはおよそ100年前から国際的に統一して用いられる呼び方であって、【まほろ】のダンジョンは
代々受け継がれた何の変哲もない手鏡。
どこぞの誰かが何となく賽銭を置いた謂われのない変な彫像。
草刈りでたまたま印象的に出来た軌跡。
そのすべてが、何の前触れもなく神域の入り口に変化する。
探索者による調査で、そこから得られる資源は、善かれ悪しかれ人と社会に多大な影響こそ及ぼすんだな。
さて、君たちが察している通り、今の動画に出てたB組の岩田、C組の田辺と斎藤がやらなくていいことをして入院した。
彼らが真似した該当動画は、先ほど見せた通りだ。
今後自分たちの子どもと同じ真似をする人間が出ないように、注意喚起のための教材にしてほしいと、彼らの親御さんが是非伝えてほしいと頼まれた。
まあ、そんな教材、うちだけでも10本分は動画があるんだがね。見たことあるだろ。
動画の元ネタは、神を称える文言が書かれた菓子を、モンスターに投げつけたらどうなるか?という海外発の危険なチャレンジ動画だな。
これが流行っている諸外国でも、モンスターが祓われたり、逆に力を持たせてしまったりと、効果はまちまちらしいがね。
今回の事件現場は元古物商だ。
店先に置いたヒグマの剥製が
ヒグマの剥製自体は、店先からどうやっても動かせなくなっていたから、すでに北海道から派生していた【
あちらさんではこことも違う形で、自然が神と扱われているらしいからな。
こうした事態に詳しいらしい。完全に秘匿されて、詳細は俺も知らないが。
で、今回神格化したヒグマは、観光客に餌付けされて人に慣れ、小学校で児童を負傷させ、果ては銃殺された来歴がある。
そのため、子どもとお菓子のキーワードが神域活性につながるとして禁忌とされていたが、こいつらはそれを知ったうえで、閉鎖された地域に侵入して仕掛けた訳だ。
で、連中が動画を真似して、神域主だったヒグマにチョコペンで書いたせんべいを投げたところ、まあ襲われた。
詳細は伏せるが、社会復帰するには義手とか車椅子が必要になる大けがだ。
爪で腹を裂かれて、人工肛門をつけることになった奴もいた。
さっきの動画のあれで、よく死ななかったと思うだろ。
入学時に任意でつける、月額500円の児童守りのお陰だよ。一命だけは取り留めた。
それにしてもバカやったもんだよ。
彼らが撮った動画には、一部始終が残っていたさ。
小学校の頃から聞いているよな。
神域は近寄らなければ、そもそも怪我すらしない。
神域の入り口も、見ればそれとしてすぐにわかる仕様になっている。
国から関わるのを許可されるのは、政府に登録された
それぞれの専門職は、入念な準備をもって、
たまたま紛れ込んだ人間じゃ、絶対にヒーローにはなれない。
いいか、多少なにか間違えて馬鹿な真似はしてもいいけど。
それが取返しのつかない事じゃないかは確認してからにしてほしい。
神々は、人間が法律としがらみからこらえる報復を、絶対にためらわないから。
捕まったら、きっと死ぬよりつらいよ。
だって運良く生き延びても、神域での法律違反による負傷だと、健康保険がつかえない。
数千万はする医療費がそのまま借金になるのでね。
彼らも、彼らの親も、これから先の人生、借金返済にどれだけ費やすんだろうね。
で、最後に。多分この後めちゃくちゃマスコミがくるが、インタビューには答えないように。
すでに、生徒への聞き取りを止めるように、学校側から声明はだしています。
このまほろで、同じ学校の生徒が犠牲になった凄惨な事件に、未成年にコメントを求める記者はろくなもんじゃないよ。関わりは持たないように。
そういうのは、
はい、朝の会を終わります。
高橋
それは、きっとこういう時のためだったんだろう。
「やだやだやだっ……やだっていってるでしょっ!!どうしてやめないの、ねぇっ!!やだって言ってるじゃん!!やだやだやだぁあああああ!!」
25年生きてきて、初めてちゃんと神を目にした。
黒い腕が、たおやかな女の細い腕が、正体も定かではない暗闇から何本も何本も延びている。
その先で、老齢の男が泣きわめいて、逃げまどっていた。
しかし彼を助けられる者は誰一人いない。
彼が自分でころしてしまったので、もういない。
「ねぇきいてよおおおおおお!!!」
とうとう捕まった。
肥えてやわそうな腹に爪が食い込む勢いで、全身を強く握りしめられて、少しずつ、少しずつ暗い方へと引きずり込まれていく。
あまりの光景に、何とは言わないけど神様ってすっごいんだなぁ、と感心していると、誰かに割れた眼鏡を丁寧に顔から外された。
汚れでもあるのか、柔らかく指の腹で頬を拭われる。
黒曜石を磨いたようにすべらかな黒い腕だった。
ひんやりと心地よい手が、何本も何本も。
一体何がそんなに嬉しいのか。
ただひたすらに、
………
あとがき
この話だと真っ黒な手だけの女神様が、小児から巨人くらいのサイズ変換と、腕めっちゃ増えるくらいはあります。
神様なので、普通の人間の見た目になることは今後も絶対にないです。
そして主人公
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます