③ かわいくないふたり
病院の事務長からの、今日の謝罪と、院長の安否を添えたメールに返信しながら、
まだ少し時間に余裕があったので、今月の寮費の支払いのために、一件軽めの適当な案件をこなしたら、時刻は1:00となっていた。
ここまでの時間を働いてしまえば、むしろ疲労で空腹もわからなくなるので、食費が浮くのがいい。その分、金も貯まる。
風呂は……妙に緊張した同業他社の女に、まだ話したいと誘われて断って結局銭湯をおごられたが、後はベッドに飛び込むだけでいいのが最高だ。
こんな夜更けに人に風呂を奢ってまで仕事の話をしたいだなんて、どこにでも変人がわくものである。ほかに、寮の共用スペースなどが例として挙げられる。
達観した心地で、寮の共用スペースのドアノブをひねる。
ふんわりとした暖気と共に、案の定二人、簡易キッチンのテーブルにいた。
避けて部屋に帰っちゃだめだろうか。一銭にもならないし。
「あっちあさん!!お疲れ様です!!」
単純に意味が解らなくて恐怖を抱いた記憶も生々しい。
こんな夜更けというのに。どうして彼女は完璧なメイクと、何故バレッタで黒髪の一筋も落とさぬ堅苦しいまとめ髪に、スーツなんぞ着ているのか。
正直あんまり興味はないが、当事者なのでもうその理由も聞かされている。
先輩の時間を割いて教えを受けるんだからこれくらいは至極当然、という彼女の持論らしく、
勤務時間内に収まる、常識的な範囲内でお願いしたいところだ。
会社は非番だが、明日も仕事の予定である。
協会に行けば、何某かの任務が得られるから、少しでも稼いでおきたい。
「……おつかれさまでーすー。流石に完全手作業だし、たった2件だけでも遅かったですね」
もう一人は
こちらは冬の青森に相応しく、橙色の半纏とパジャマである。
これが深夜一時の装備として普通なんだよな、と余計に疲れた心地だ。
井守を大変慕っていて、1年遅れで元の職場から追いかけてきたらしい。
職場でも井守に引っ付いて回り、あまり周囲とは打ち解けていない。
きらきらしい先輩がやたらと構う、しょぼくれた
まぁ、これもどうでもいい。
真っ暗な廊下の中、すでに消えているはずの暖房と、ドアから薄く漏れる明かりに嫌な予感はしたが、やはりこの2人がいたか。
寝る前に水くらいは飲んでおきたかったが、真っ先に撤退を選んだ。
「おつかれさまです。おやすみなさい」
「ちあさん~!あたし、ちょっと仕事でお聞きしたいことが……」
そうして見せてきた
「私は寝ます」
「そこをなんとかぁ!!」
「なんで君って勤務中に質問しないで、寮で話したがるんです?」
「だってちあさんの仕事の仕方も勉強になるから観察を……」
そう言って健気に頬を染める
この
井守は元々東京にある大手迷宮清掃企業のホープ、だったらしいが、詳細はどうでもいい。熱心なことだ。一人でやっていてほしい。
ましてや勤務時間外で、無償で他人のスキルアップに費やすほど、この仕事に熱意は燃やしていないのだ。
だいたい、何らかの神のいとし子とも噂される井守が、売りが完全手作業というだけの
教えたところで、実践している形跡もないのに。折に触れてこうしてやたら絡んでくるので面倒…………
「夜食と朝食と間食をおごりますからぁ!!」
………………。
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