④ 好きなもの
「だいたい、好きなものなら君の方がよく知ってるじゃない。生まれた頃から一緒のマイページならさ」
効果音じみた落胆の声が廊下に響く。
わかってねぇな、と言わんばかりに。
もちろんマイページの仕業である。
「おっ、やはり全然反省してないな」
生意気な若造のやんちゃも、いずれの酒の肴とまた好む
あからさまな妬心に気づかない
〈
なるんですよ。
どうせなら、彼女が自ら選んだ、好んだ
ものにちなんで、と書かれたい〉
機械音声ながら、熱を含んで重たい言い分に
似たようなことを言う連中が複数いるので、この手の熱量は受け流す癖がついている。
まともに聞くと、ろくなことがないので。
「なんか盛大なこと言いますね、マイページの方……」
「その辺はおいおい説明するが……自我の成長が、早すぎるな?この速度でまほろポイントを貯めた人間なんて、初めて見るから体感だが」
〈宿主が成人を迎えて、7年が
経過しましたので多少は。
つた神以前についた神も、
得て仕事に飽きて逃げましたから〉
あっ、だめ!そこはしー!
〈マイページには仔細を宿主に
開示する義務があります〉
都合が悪いとちょこちょこサボる
くせに!
つた様が口元と思しき場所に、一本だけ人差し指を立てて止めるのを、マイページがからかう。
どちらの神も生まれて二桁に足りない。
おまけに人間風情が聞かない方がいい話ばかりなので、詳細は気になるが追求はできない。
そっと廊下に目を向けた。
長い廊下の、随所に活けられた花の香気が心地良い。
(気持ちの良い空気だ。わからない花がほとんどだな……)
まほろには花が多い。
品種改良で新たに生み出した花を、神に捧げる人間も多いからまあ増える。
妹に花の名を聞かれても、わからないことが多かった。
その後、図鑑を引いたこども博士が一生懸命教えてくれるようになったから、多少わかる程度である。
かわいかった。あれはほんとにかわいかった。絶対わかってない花に、その場で考えた名前をつけてるのも最高だった。わかる花もなんだろ、と首を傾げて教えてもらったのは全く反省していない。
それでも薄青く花弁の光る花や、ふやふやと遊ぶように葉をしならせては、身を編むように動くのは見たことがない。
「普通の花だよ?……ああ、
「私ならそんな事態になれば、もっと念入りに呪いそうですけどね」
そう考えると、
〈あっ〉 あっ 「……あーあ」
三者三様に、天を見た。
「……え?」
見上げれば、赤く燃えるような薔薇が一輪、輝きながら降ってくるところであった。
まだ仕事に入る前に調べたばかりなので、覚えがある。
(……ああ、あのダンジョンの神は薔薇を好んでいたな)
恐らく、ちょうど話題に上がったから、加護を渡そうとしているのだろう。
合点した上で、そっと会釈して避ける
忘れがちだが、人は信じる神と受ける加護を選べる。
なんで、とか細い悲鳴を聞いた気がするけれど。
現状彼女の神様は
(あと単純に、今まで忘れてたけどあそこの信者に一時期当たり屋されてたからなー。連中がまだいるんだろな、と思うと普通に嫌だし。
視界にすらなかった人間だろうが、役に立つと思えば途端にこれかと、床に落ちた赤く輝ける薔薇を見た。
露骨に節操がないのは、はしたなくて単純に好みじゃない。
『えっ……そんなのし、しらない……』
〈加護を
「ありがとうございます、マイページの方」
当たれば簡単に吹き飛ばされる
園原がいるのも気にせず、その日も武器がたまたま当たったように見せかけようとした彼らは、
その後つつがなく現行犯逮捕された彼らが、どうなったかは知らない。
「……わっ!」
途端に、ごうごうと音を立てて赤薔薇が、薄明るい青い火に燃えた。
瞬く間に灰すら燃え尽きて、後に何も残らない。
「やれ。国家登録権能、ってのは凄まじいもんだね。薔薇すらここまで燃やすのか」
随分と激しい、と思いきや何となくこわばった声の、
「
「好きですよ」
かわいい妹の名前も
それを教えると自分と同じ名前の花を探して、スーパーのペットボトルに描かれた乾燥した茶葉に行き着いてこれと同じは嫌だ、と泣いたのは焦った。
(図書館で図鑑を見せてもなかなか泣き止まなかったな)
白く可愛らしく、香りのいい花だと根気強く教えたのは今となっては懐かしい。
「ならね、マイページの名前は花から取りなさい。君が一番、マイページに似合うと思うのを選べばいいよ」
「花を?」
「一番好きなもの、となると種込み蕎麦になりかねんよ、マイページ。お前だけのために、
「それの何が嬉しいんで」
言い切る前に、ファンファーレが鳴り響いた。
「いいって!」
いいんだ。
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