⑧ 要請
【ちなみにダンジョンで手からビームを飛ばせる【
そんなの出してどうするの?
【巨大ロボをダンジョン限定で呼べる【
【望む者は多かれ、未だかつて使用者のない高レートすぎるお遊び【
でもちょっとだけ気持ちはわかる。
ただ、
そんなことより。
(……迷宮清掃が本来複数人で当たる業務だったとか、すっかり忘れてたさね!!)
慰謝料か?と鼻白んでいたが、単純に過剰に過酷な現場で働いた故とはつゆほど思わなかった。
就職初期にはもちろん何人か連れ立っての作業だったのを、
それから社長に教わりながらも、死なないで依頼を完遂する方法を考えて、それでも何度か死にかけて今に至る。
(まあ、確かに誰も手伝ってくれないから、掃除をひとりでこなしました!なんてね。小学生だとしても自慢にならない。事情がどうあれ、単純に周囲と協力して作業できない典型なんだよね)
危険だからあたしは辞めさせたいんだよ?
つた様はかわいいが、流石に自身の進退を神に委ねるつもりはない。
辞めるにしても、軽い案件を何件かこなしていくばくかの貯金くらいは作りたい。
……もちゃもちゃと、ちいちゃい手に頬を揉まれているが、委ねるつもりはない。決して。
(でも、ここ数年で
たかが雪かきだって安全のために、もし事故にあって倒れても通報できるよう、複数人での対応が理想とされる。
その他の例に挙げられた職種だって、組織だってチームを組んでの行動が容易に想像できる。
いわんや、清掃道具を負って死地に挑む
いくら命がけの作業だからって、一人死んだら次を送るより、最初から数十人がかりが本来だろう。
(就職希望者がいない、いてもすぐに辞めるって点を除けばね。成り手不足が響いてるのかな……)
そりゃ数年前に口を滑らせた、単独完全手作業も本と化すはずだ。
本来そこそこの人件費がかかる、【
(でも逆に考えると、あんな作業を複数人での対応だと、打ち合わせで拘束時間も延びて、料金も頭割りで安く……?借金あるうちにワンオペできてよかった!!)
そうでもなければ呪いで死ぬ前に、借金を苦に母の首をくくりに行っていたかもしれない。
流石にそこまで行くと、手を汚さない自信がない。
(でも、ワンオペ以前に、あの業者のリストの中に、騙りじゃなく手作業での清掃ができる人、いるのかな……いつもの病院の、私以外に頼めない、って言うのがお世辞じゃなくて、本当に技術的に可能な人がいない、って意味だったら?)
そして、その後の文字にそれを騙る人間の名前も載っているけれど。
(どんなちいさな案件にも、逃さずいるな……同じ会社のやつは社長に怒られては辞めてったけど、同業他社がほとんどか)
警察の思惑がなんなのかはわからないけど。
おそらく直接片づけた経験のない連中ばかりだ。
そんな連中を寄せ集めてどうするんだか。
(……仕方ないな)
そっとつた様を、膝からベッドに下ろした。
もう夜の8時だよ?
「……まぁ、ほんとには呼ばれないとは思いますが、準備だけはね」
嘘だ。今日中に呼ばれると確信している。
それがわかってか、憤懣やる方なし、といった調子で腕を組んでから、見えない足も使って
後ろから、小さな腕が首に回り、ふくれたようなほっぺたが、首筋に当たる。
そのままぷにぷにとすりつけられて、こそばゆさに悶絶した。
おっきかったら、無理にでも
止められたのにぃい……!
軽い身体だ。
これで妨害してるつもりだったのか。
止めようとしたつた様に、なんとも言えない気持ちになる。
こそばゆい。
「……いります?ポイント」
いりません!
貴方は目に見える形で精算したが
最後ですからね!
わかってるんですからねー!
笑って誤魔化すのやだ!
つた様はかろやかに跳躍してベッドに飛び込んでいる。小さな子の形でシーツが沈んだ。
「ごめんなさい。あれがまだ残ってるか思うと、よく眠れないので……」
他の血縁ならどうでもいいが、まだ母の胎を同じくした妹がいる。
間違っても彼女への脅威にする前に、後始末を済ませたかった。
先程こっそり用意したつなぎの作業着に着替え、パジャマを丁寧に畳み、購入したばかりのワックスでふわふわする髪を固めた。
社長はろくに服をよこさなかったが、普段の仕事道具だけは揃っていた。
検査待ちの間に、売店で仕入れたメモ帳とボールペンで、浪費した防衛用の【紋】も大量に描き足してある。
(……こんな準備きっと無駄になる。私の心配なんて、必要ない、と思いたいけど。)
痕跡を何一つ残さず、綺麗に拭い取って消し去るまでが、
本来、犯罪者の身内が現場に呼ばれる訳ないけれど。
呼ばれないと思うなら、
ちゃんと眠って……!
とたん、初期設定のままの着信音が鳴り響く。
もー!やだー!
園原だ。
『夜分遅くに申し訳ありません……高橋さん、今お時間よろしいでしょうか?』
出れば珍しくしょぼくれた園原の声が聞こえる。
この人はいつ休んでいるのか不思議だ。
「迷宮清掃の依頼なら、報酬が少しでもあるならお受けしますよ。こちらの準備は済んでいます」
『えっもう準備を……?ええ、報酬は用意してあります。身内だなんて関係ありません、そもそも被害者に後始末を頼むのがおかしいんですから!……ありがとうございます、今お迎えに参りますので』
慌ただしく切れたかと思うと、即座に部屋のチャイムが鳴った。
静かになった一室で、
【しかし、私の生前はまだ迷宮清掃員など、専門の血筋が大層な儀式としてやることでしたが、まあまあどうして彼らの家が潰えたのかもわかる気がしますね。適当に安く使える代替品が多いなら、そちらが本流となるのは至極当然】
清掃用具の重みで、少し曲がった背中を見送って、
【それで、非力なるつたかずらの貴方。あの分からずやが帰ってきたら、どう懲らしめてやりましょう?】
………………
正味2日の話で10万字を超えました。
たった2日で人間の性根が変わるはずもないんですよね。
いつも応援などありがとうございます。
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