② 桃の花
取調室に、
字面に起こせば風流だが、花は散ってしまえばゴミだ。
清掃を
最初こそ驚いたし、呪詛の解けた故の変化と思えば嬉しかったけど。
ことが済めば消える保証のないそれが、事後の報酬のない労働に含まれると思えばげんなりしてしまう。
(しかも、視覚的に鬱陶しいな……有事に敵が見えなかったら、意味がないのでは)
「ちゃんと消えますよ。こちら側の身隠しも兼ねているので我慢しましょうね?」
「ハイ」
流石園原は鋭い。
「これ、が、
聞かれたって
「まぁ、効いているなら
丸の中に、簡略化された桃が描かれた紋である。
争いなき桃咲く異界、と紋により認定されたことで、概ね不可侵の結界を敷く。
非戦闘員である
社長にはまず真っ先に叩き込まれたし、即座に描けなければ死ぬと悟ってからは、毎日欠かさずタイムを計って練習している。
「……あの一瞬でこの規模で敷ける人は高橋さんぐらいですけどね」
「前に護衛した
「あー……はぁ、いますよね、はい」
紋は本当に残念なことに、安全上の理由で印刷では発動しない。
最大限効果が出るのが手描き、機械などの支援を受けて描くでも、本人が何か手を加える必要がある。
確か、ミニゲームをクリアすることで、効果にムラはあるが紋が描ける、なんて携帯アプリを使ってた他社の社員が1人死んでいたはずだ。
確かにこうしたアプリは多いが、何らかの不運に見舞われた一般人ならともかく、現場で使うような
「練習をサボって【
独創性もない記号を殴り描くだけで、そこまで言われると照れるより先に申し訳ない。
「で、そんなことより
「だめですねー……結界で通信が
「とろい。貸しなさい」
電話口から鳴り響く何だか不穏な呪文に、異様な様子の部下。
その全てを無視して、迷いなく携帯電話を
「あぁあああ園原さんが俺の携帯壊したぁああああ!!」
途端に泣き崩れる
「うるさい。泣いてないで職務を果たしなさい」
にじるように、ブーツの踵で更に粉砕していく園原。
(呪詛による精神汚染、始まってきたな。
己の思考も無闇に攻撃的になっている自覚はなく、
紋は緑に光ったが、今回は
ペン
2人はそれで少し正気づいたらしい。
耳まで赤い
園原が無言で煙草に火をつけた。珍しい。
「社長経由でもいいなら外部連絡できますよ」
基本こんな時しかない職業なので、備えはある。
「お願いします……」
園原の咥え煙草で、前髪を乱すようにかきあげる余裕のなさを見るに、本当に無自覚だったらしい。
2人が弁償がどうとか話すのを背に、社長との通信のために社長と直通連絡先である
「ほたてだ」「なぜホタテ?」
「発動!」
社長と行った居酒屋で貝焼き味噌にいたく感動したから、その場で盛り上がって決めた、なんてエピソードはこの有事に不要だ。
即座に社長と繋がる。
「おつか【あー、いい。挨拶はいらない。……で、あたしは何すればいいの?】
緊急時の紋だ。社長の話が早くて助かる。
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