【アワード幕間】右手と左手の謎が解け……なかった

実況「なんですか、唐突に。右手? 左手?」


解説「筆順のはなしといえば……思い出しますよね」


実況「え、なにをですか? 特になにも思い出さないんですが……」


解説「いつだったか、筆順についてこんなことを口走ったことがあるんですが」


リプレイ解説「そもそも『右』の一画目を縦棒にしてるのに、『友』の一画目を横棒にしてるのはおかしいわけですよ。そこは縦棒やろ」


実況「え、いつの話ですか?」


解説「たぶん『奥が深いぞ、部首分け漢和辞典』とかのころです」


実況「そんな前のこと、覚えてません」


解説「じゃあまあ思い出さなくていいです。今日の幕間は、この“『右』の一画目を縦棒にしてるのに『友』の一画目を横棒にしてるのはおかしい”の謎が解けたけど解けなかった、というはなしです」


実況「また迷宮入り案件ですか」


解説「事件概要についてご説明しましょう」


実況「名探偵の登場に期待が高まります」


解説「現場となったのは漢字における『横棒と縦左はらいの交差した字形』です」


実況「横棒と縦左はらいの交差した字形???」


解説「ぶっちゃけ『ナ』ですね。該当漢字には『右』『左』『友』『有』『布』などがあります」


実況「はあ。どれも小学校で習う漢字ですね」


解説「推奨書き順では、横棒から書く漢字と縦左はらいから書く漢字とに分かれています」


実況「小学校で習ったけど、みんな忘れちゃうやつですね」


解説「調べてみると、『ナ』が“左手の象形”だと横棒から、“右手の象形”だと縦左はらいから書くようなんですが」


左手の象形→『左』→横棒から

右手の象形→『右』『有』『布』→縦左はらいから


実況「が?」


解説「『友』は右手の象形であるにも関わらず、横棒から書く漢字になっています」


右手の象形→『友』→横棒から ???


実況「……なんで?」


解説「これが『『右』の一画目を縦棒にしてるのに、『友』の一画目を横棒にしてるのはおかしいわけですよ。そこは縦棒やろ』です」


実況「確かにちょっと不思議ですね」


解説「でもまあ、書き順なんてどうでもいっか。と思って放置してきました」


実況「どうせ誰も気にしてないですしね……」


解説「ところが今回! 書き順についていろいろ調べているうちに、大いなる誤解であり別におかしくともなんともないという事実が明かになりました」


実況「大いなる誤解?」


解説「大修館書店の(運営してるっぽい)サイトで見つけた記事に、まさにこの点をとりあげたものがありました」


実況「ググったらすぐ出るやつじゃん」


解説「その解説によると、横棒から書き始めるか、縦左はらいから書き始めるかは象形文字による違いではなかったのです」


実況「じゃあ、なにによる違いだったんですか……?」


解説「それは文科省推奨書き順のルール原則8にあります。それによれば、『横画が長く左はらいが短い漢字は左はらいから、横画が短く左はらいが長い漢字は横画から書く』ことになっています」


実況「長さの違い……があったわけですね。ぜんぜん知らんかったけど」


解説「いやあ、初めて習ったときに教わったんでしょうかね。遥か昔すぎてまったく記憶にありません。ここでもう一度漢字を見比べてみましょう」


横画が長い→『右』『有』『布』

左はらいが長い→『左』『友』


実況「……分からないですね……」


解説「ここで別の疑問が生じます。横棒と縦左はらいの長短の違いはどこに由来してんの……?」


実況「文字のバランス……的な問題にも見えませんね……」


解説「誰が決めたんの……?」


実況「そもそも字体によって変わりそうですしね」


解説「もとの象形の違いちゃうのん……?」


実況「それだとやっぱり『友』がおかしいことになりますよ」


解説「というわけで、右手と左手の謎はめでたく迷宮入りいたしました」


実況「右左の文字の長短を決定した心当たりのある方は可及的速やかにご連絡をお願いします」


解説「だれや……もうほんま書き順とかどうでもいい……」


実況「どうでもよくないです」

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