求ム!『音訓索引』の使いやすい辞書の情報

実況「今日も今日とて大漢和辞典で筋トレに励む皆さま、こんばんはー。漢和辞典アワード実況のかげると」


解説「解説はたかぱしです」


実況「代わり映えのしないメンツで本日もお送りいたします。いやあ、たまには美女に解説してもらいたいですね、たかぱしさん」


解説「いえ、読者が期待しているのは美少女の実況だと思います」


実況「……」


解説「……」


実況「いいでしょう。今回は美少女の実況と美女の解説に変更しましょう」


***


美少女の実況「ということで、今日も漢和辞典の『引きやすさ』のお話の続きということですね?」


美女の解説「はい。ここまで『自分に合った漢和辞典の選び方』、『部首索引を使って楽に引ける漢和辞典』を見てきました」


美少女の実況「じゃあ今日のみどころはなんですか」


美女の解説「『音訓索引が使いやすい漢和辞典』を探してみたいと思います」


美少女の実況「わあ、音訓索引! 部首順の漢和辞典でも必ず音訓索引はついてるし、重要な要素ということですよねー」


美女の解説「なにか漢字を漢和辞典で調べたいというとき、まず音訓索引で探そうと思われる方も多いようですね。音訓索引の使いやすさはとても重要です」


美少女の実況「漢和辞典アワードにとっても重要な評価点ですね! では、まずは音訓索引の使いやすさというのは、どんなところに違いがあるものなんでしょうか?」


美女の解説「……ええと」


美少女の実況「? 使いやすい音訓索引というのは、どういう索引なんですか?」


美女の解説「ごめんなさい。読むようにって渡されたこのメモに具体的なことがなにも書いていなくて」


美少女の実況「え。」


美女の解説「よく分からないんです。私はなにを解説したらいいんでしょう?」


美少女の実況「ごめんなさい、私も分からないですー。笑顔で座っていれば高額時給をくれるって言われて来ただけで。漢和辞典とかイミわかんないし」


美女の解説「ですよね。そもそも漢和辞典アワードってなんなの? って感じですよ」


美少女の実況「イマドキ漢和辞典とか使う? ってねー」


美女の解説「つまりこの空白のメモは、使うわけもない漢和辞典の音訓索引に使いやすいもなにもない、ということを暗示しているのでしょう」


美少女の実況「素晴らしい名推理だと思います!」


美女の解説「というわけで、『音訓索引が使いやすい漢和辞典』はない。これが漢和辞典アワードの総意です」


美少女の実況「それでは皆さま、ごきげんよう」


***


実況「いまどきルッキズムは流行らないということを痛感させられる一コマでしたね、たかぱしさん」


解説「いやあ、素晴らしい目の保養でした」


実況「これでいいんかい。それにしても、なんで具体的なメモを美女の解説さんに渡さなかったんですか。おかげでぐだぐだです」


解説「いつもなにも考えず構想も立てず、思いつくまま適当に話してるので。毎回メモは空白です」


実況「適当ですね。で、今回の結論は『音訓索引が使いやすい漢和辞典はない』でいいんですか、美女ではない解説のたかぱしさん」


解説「そうですねえ。正直、今まで音訓索引の使い勝手とか、考えたこともなかったんですよ」


実況「考えたこともなかったんですか!?」


解説「まったくありませんでした。音や訓で漢字を探してページを開く、そんな音訓索引に使いやすさの違いなどというものが果たしてあるのかどうか。これは調べてみるしかない、と我々漢和辞典アワードは動きました」


実況「具体的にはどう動いたのでしょうか」


解説「まずは音訓索引で同じ漢字を引いてみました」


実況「実践あるのみ、ということですね。で、違いはありましたか?」


解説「ほぼないですね。せいぜい、索引の文字が大きいか小さいかで見やすさが違うぐらいでしょうか」


実況「まあ、文字の大きさも重要ではありますが」


解説「大きい方が見やすいんですが、そうすると今度は索引のページ数が増えるので探すのがちょっと大変になります」


実況「大きければ大きいほどよい、というわけではないと。いやまあ、当たり前の話ですよね」


解説「次に、音訓索引を使うとき重要になるのは訓読みではないか、という点に着目しました」


実況「訓読みが重要、というのはどういうことでしょうか」


解説「たとえば『商』という漢字を音訓索引で引いてみようと思ったとします。音読みの『ショウ』で探すと同音漢字がおよそ400個ほどありますので、その中からがんばって見つける必要があります。しかし訓読みの『あきない』で探した場合、同訓漢字はせいぜい2個! 探すまでもなく見つけられます」


実況「音読みより訓読みの方が漢字が見つけやすいということですね」


解説「すべての漢字がそうではありませんが、傾向として訓読みの方が同訓漢字が少ないです。訓読みが分かっている場合は訓読みで探すことが多いですね」


実況「なるほど」


解説「さらにいえば、音読みの音は数が限られているのに対し、訓読みは無限大。音索引は各辞書で大きな違いが出にくいと思われますが、訓索引は辞書によって大きく異なる可能性がある、と踏みました」


実況「訓読みは無限大とかちょっと意味がわかんないですが、とにかく訓に着目すれば音訓索引の違いが見えてくるかもしれないわけですね」


解説「というわけで、数えました」


実況「……え。なにを?」


解説「音訓索引に並んでいる漢字の総数、見出し語の総数、音読み見出し語の数、それ以外の見出し語の数をそれぞれ数えました」


実況「え。」


解説「いちにいさんしいってコツコツ数えました。数え始めて3ページ目で死ぬほど後悔しました……」


実況「いや、それは……そうでしょうね」


解説「さすがにエントリー辞書全部は数えられなかったです」


実況「ええと。何冊数えたんですか……?」


解説「今回音訓索引について調べたのは、角川『新字源』改訂新版、学研『漢字源』改訂第六版、三省堂『漢字海』第三版、大修館『新漢語林』第二版、そして旺文社『漢字典』第二版の5冊です」


実況「それで、結果はどうなったんですか?」


解説「一部を除いてあんまり差はありませんでした」


実況「空振りの予感(笑)」


解説「ちょっと詳しく見てみましょう」


実況「ちなみにすべての数字は酷暑の中でたかぱしさんがえっちらおっちらアナログに数えたものなので、相当数の誤差があるものと思われます。ご了承ください」


解説「そもそも漢和辞典としての漢字掲載数にも差があるので単純比較に意味はないんですが。音訓索引に並んでいる漢字の総数はこんな感じでした」


『新字源』 25,233字

『漢字源』 90,872字

『漢辞海』 33,372字

『漢語林』 24,634字

『漢字典』 26,123字


実況「おおよそ25,000字から30,000字なんですね……って、『漢字源』だけ3倍ぐらいあるんですけど!?」


解説「びっくりですねー。続いて見出し語の数です。見出し語というのは『ショウ』とか『あきない』とかですね。この見だしが多いほどいろいろな読み方で索引を引けることになります」


『新字源』 4,180語

『漢字源』10,358語

『漢辞海』 3,527語

『漢語林』 4,166語

『漢字典』 3,838語


実況「掲載文字数の多い『漢字源』が見出し語も多いのは分かりますが……それにしても多すぎませんか。ひとつだけ桁が違う」


解説「『漢字源』の音訓索引がやたら多いのにはちゃんと訳がありまして。『漢字源』の音訓索引は現代仮名遣いだけでなく歴史的仮名遣いでも掲載されているから、なんです」


実況「歴史的仮名遣い!?」


解説「現代仮名遣いの音読み『オウ』の漢字は、歴史的仮名遣い『アウ』でも引けます」


実況「それはすごいですね。いったい誰が歴史的仮名遣いで漢和辞典を引くんでしょうか?」


解説「えーと。たぶん日本史や日本古典系の人? ですかね。分かんないですが、歴史的仮名遣いで音訓索引を引きたい人は『漢字源』一択です」


実況「もしそういう方がいらっしゃいましたら『漢字源』です。ご参考までに」


解説「続いて、見出し語の音読みとそれ以外の読みは次の通りです。表記は『音読みの見出し語の数/それ以外の見出し語の数』です。『それ以外』というのは訓読みだけでなく、外来語の当て字など音読み以外のすべてを含むという意味です」


『新字源』 364語/ 3,816語

『漢字源』 605語/ 9,753語

『漢辞海』 372語/ 3,155語

『漢語林』 336語/ 3,830語

『漢字典』 358語/ 3,480語


実況「音読みは350語前後ですね。それ以外は3,000語から3,800語という感じでしょうか」


解説「音読みの差は、微妙な表記の違いなどで生じたものじゃないかと思います。『漢字源』はさておき、単純に比較した場合は『新字源』と『漢語林』が訓読み見出しの豊富な漢和辞典と見ることができます」


実況「ということは、音訓索引でおすすめの漢和辞典は『新字源』と『漢語林』ですか?」


解説「そうですねえ、訓読みが豊富であるというのはひとつのおすすめポイントです。しかし、そもそも親字数(漢和辞典の掲載漢字数)が違います。掲載漢字が多ければ多いほど訓読みが増えるのは当たり前とも言えます。重要なのは、親字1文字当たりに対して音訓索引がどれほど豊富に対応しているか、ではないでしょうか」


実況「えーと。つまり親字数で上の数字を割ってみる、ということでしょうか」


解説「そうすると、実は掲載漢字当たりの索引豊富度数は、『漢字典』『漢辞海』の方が上という結果になります」


実況「えぇー。結局どれがおすすめなんですか、それ」


解説「音訓索引が充実している漢和辞典は旺文社『漢字典』。けれどまあ、僅差でしかないので……」


実況「『ので』?」


解説「ぶっちゃけ音訓索引の使いやすさで選ぼうとか、ムリ」


実況「おい」


解説「ムダな検討なので、文字の大きさが見やすいやつを選べばいいと思います!」


実況「なんというムダな時間!!」


解説「まあ、音訓索引の使いやすさは大差ない、という事実がはっきりしたことに意義があるかと」


実況「ところで、途中から無視スルーしてしまった『漢字源』の音訓索引はどうなんでしょうか」


解説「ちゃんと数えてはいないんですが、たとえ『漢字源』の音訓索引の半分が歴史的仮名遣いだったとしても、他の漢和辞典とは比較にならない驚異的物量を誇る音訓索引だと言えます」


実況「数字を半分にしてみてもダントツの数字ですからね」


解説「そもそも『漢字源』の漢字掲載数がダントツに多いので、索引がダントツに多くなるのも道理ですが。それにしても多い。多すぎる。というわけで『漢字源』の音訓索引を読んでみたんですよ」


実況「音訓索引って読むものなんですね」


解説「なぜ『漢字源』の音訓索引は多いのか。歴史的仮名遣いだけでは説明できない原因を追及したところ」


実況「したところ?」


解説「同じ読みも複数の活用形で掲載しているとか、他の漢和辞典では音訓索引に掲載していないような人名特有の読み方だとか、漢数字の現代中国語読みだとか、とにかくあらゆる『読み』を集めてありました」


実況「それは、すごいですね」


解説「すごいんですが。たとえば『漢字源』索引の中にこんな行が」


ごとき

 如

ごときは

 如

ごとく

 如

ごとくす

 如

ごとくする

 如


解説「見だし変えて何回『如』一文字を続けんねん!!って感じじゃないですか?」


実況「……うーん。ちょっと、くどいですね」


解説「こういうのが結構あるんですよ。あと、ちょっと変わった訓読みとかですね」


実況「変わった読みというと? たとえば?」


解説「皆さんご存じ、『肛』という漢字ですが。訓読み分かります?」


実況「ううーん。音読みの『コウ』以外にあるんですか?」


解説「『漢字源』の音訓索引では『しりのあな』という訓読みで『肛』の字が引けます」


実況「それは、“訓読み”なんですか……?」


解説「まあ、訓読みは無限大なので。訓読みではないとは言いきれないですが。果たして『しりのあな』で引く人が世界に何人いるのか……!?」


実況「少なくとも日本人でしょうね」


解説「というわけで、逆に見出し語が多すぎる『漢字源』の音訓索引が音訓索引として使いやすいかどうかは非常に微妙だと思います。でも、索引として使うのではなければ、これが非常におすすめです!!」


実況「え? 索引を索引として使うのでなければって、どういうおすすめですか」


解説「ものは使いよう。というわけで、小説を書いている創作者のアナタ!! 登場人物の名前に迷う、漢字にルビ振りでカッコいい技名を考えたい、異世界のそれっぽい創作語を作りたい、そんなときは『漢字源』の音訓索引」


実況「えええ。どうやって使うんですか、それ」


解説「こんな意味の漢字はないかな、こんな読み方の漢字はないかな、というふわっとしたイメージで音訓索引を読んでみると、なんか知らないけどカッコいい漢字に出会えます」


実況「斜め上の使い方」


解説「どうぞお試しあれ」


実況「というわけで。音訓索引の使いやすさでおすすめはないけど創作者におすすめな音訓索引は学研『漢字源』という結論となりました。これでいいのか、漢和辞典アワード」


解説「これで『漢字源』はバカ売れ間違いなしですね」


実況「買わないですけど。『しりのあな』はちょっと見てみたいですね」

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