五十音順辞書のはなし

それにしても、なぜ五十音順漢和辞典はレアなんでしょうか

実況「お待たせしました。とうとう漢和辞典は五十音順辞書のはなしですね」


解説「待ちくたびれました」


実況「いやいや。ここまで長く時間がかかったのは、たかぱしさんが部首順辞書のはなしをぺらぺら喋り続けたせいですよ」


解説「それは致し方ないですね」


実況「そこは致し方あってほしかったです。さて、漢字を五十音順に並べた漢和辞典はとても珍しいということでしたね、たかぱしさん」


解説「はい、非常に少ないです。今回エントリーしている漢和辞典では三省堂『五十音引き漢和辞典』と講談社『五十音引き漢和辞典』、それから平凡社の『常用字解』『人名字解』の4冊のみですね」


実況「エントリー辞書以外ではどうなんでしょうか」


解説「確か、日本漢字能力検定協会『漢検漢字辞典』が五十音順です。で、それ以外に存在するかどうかというと、実は聞いたことがない」


実況「たかぱしさんをして、たった5冊しか知らないというわけですね!?」


解説「『たかぱしさんをして』とか言われるほど、実は漢和辞典に詳しいわけではないんで。そこのところは単に知らないだけのような気がしないこともないです」


実況「おやまあ。実は漢和辞典に詳しくないんですか、たかぱしさん」


解説「そうなんです。つまり五十音順の漢和辞典というのは、ちょっと漢和辞典をかじったぐらいでは5冊しか見つけられない、そういう辞書です」


実況「珍しいのか珍しくないのか、よく分からなくなってきました」


解説「ちなみに、この五十音順漢和辞典のはなしに入る前に、なんとか『漢検漢字辞典』を手に入れようと古本屋を巡ったりフリマアプリを巡回したりしましたが、奮闘むなしくとうとう入手までは至りませんでした」


実況「いや、本屋で定価で買えよ。というか、なにまたしれっと増やそうとしてるんですか」


解説「あれですね、『漢検漢字辞典』は流通数が少ないんでしょうね。ぜんぜん手頃なやつが見つからなかったです」


実況「うーん、あんまり売れてないんだろうか。それはさておき、なぜ五十音順の漢和辞典は少ないんでしょうか……という疑問については、さっぱり分からないんでしたよね、たかぱしさん」


解説「そう、はっきりしないんです。いろいろ仮説立てたり推測したりしてみましたが、納得のいく説明はできそうにもありません」


実況「これから先、五十音順漢和辞典が増えていく可能性はあるでしょうか?」


解説「うーん、ないと思います。まず、現状の漢和辞典出版事情を鑑みるに、新しい漢和辞典の出版はかなり厳しい状態です。新しく五十音順漢和辞典を作って出そうという動きは、ほぼないで……ん?」


実況「えっと、どうかしました、たかぱしさん」


解説「いえ、ちょっと待ってください」


実況「新しい漢和辞典の出版情報でも掴みました?(笑)」


解説「そうじゃないんですけど。2013年に出版された三省堂の『常用漢字辞典』という辞書がありまして」


実況「エントリーはしていない漢和辞典ですね」


解説「詳しいことは分かりませんが、これ五十音順の漢和辞典ですね」


実況「え」


解説「なんか分かんないけど、6冊目がいました(笑)」


実況「いや、まじでたかぱしさんが漢和辞典に詳しくないだけで、他にも五十音順の漢和辞典いましたね」


解説「三省堂は辞典系が多すぎて把握しきれない……」


実況「本屋さんで実際に見たことないですしね、『常用漢字辞典』」


解説「どうやら常用漢字に特化した漢和辞典らしいです。しかも“各漢字に漢検出題級数を明記”で漢検学習に対応!とのことなので。これは三省堂が漢検ビジネスにぶち当てるために出した漢和辞典では?」


実況「特効武器か……三省堂、恐ろしい子」


解説「まあ、常用漢字の知識だけで合格できるのは2級までで、準1級や1級を狙うなら漢字が足りてないんですけど」


実況「第6の五十音順漢和辞典が登場したところで、話を元に戻します。とにかく、新しい漢和辞典出版の見込みは薄いわけですね」


解説「薄いでしょうね。どちらかといえば、絶版してますからね」


実況「ほんと厳しいですね」


解説「他には、現存の漢和辞典が五十音順に改訂される可能性ですが、こちらもかなり低い」


実況「え、なぜですか? 五十音順になりました!って大きな改訂として売れそうですが」


解説「そうですねえ。売れるかもしれません。が、売れないかもしれません。それほど『漢和辞典といえば部首順』の固定観念は固いです」


実況「固定観念に負けるんですね」


解説「負けるというか、売れるか売れないか全く見通しが立たない、んです。漢和辞典を作るにしろ、改訂するにしろ、とんでもないコストと時間がかかりますから。現状である程度売れている漢和辞典を五十音順に改訂するなんて、今より売れるという確信がなければできないでしょう」


実況「逆にある程度売れてない漢和辞典ならどうでしょうか」


解説「改訂せずに絶版、一択ですね」


実況「うわあ、厳しい。まあ、五十音順にして簡単に売れるなら、漢和辞典はとっくに五十音順が主流へ変わってるだろって話でしょうしね」


解説「もうひとつ五十音順への改訂が行われづらい理由がありまして。実は、部首順辞書と五十音順辞書には特徴から見た大きな違いがあるんですよ」


実況「特徴の違い、ですか。なんです、それ」


解説「漢字を部首順に並べた辞書と五十音順に並べた辞書って、辞書として違いが出ると思います?」


実況「え、うーん、内容は並び順が違うだけで一緒ですよね。なにか変わるんですか?」


解説「もちろん中身は変わりませんし、索引を使えば引きやすさにも大きな違いはでません。最も大きな違いは、『直接引きの方法』です」


実況「直接引き? というのは、あれですか、索引を使わないで直接部首で引くとか、そういう」


解説「それです。部首順の漢和辞典は直接部首引きはできますが、直接音引きはできません。逆に五十音順の漢和辞典は直接音引きができますが、直接部首引きはできません。直接部首引きと直接音引きは絶対に両立しないんです」


実況「じゃあ、直接部首引きをしたい人は五十音順漢和辞典ではダメなんですね」


解説「そうです。直接引きにこだわりのある人は気をつけましょう」


実況「でも、この直接引きの方法の違いが、辞書としての大きな違いになるんですか?」


解説「なるんです。直接部首引きと直接音引きそれぞれの特性の違いから、部首引きは掲載漢字が多いときに便利で、音引きは掲載漢字が少ないときに便利な引き方なんです」


実況「え、そうなんですか? ということは」


解説「掲載漢字が1万字を超える漢和辞典を五十音順に改訂したとしても、直接音引きは使いづらい。しかし直接部首引きはできない。索引を使うしかない。索引を使うなら何順で掲載されてても変わりない。特に便利じゃない。そういう漢和辞典になります」


実況「わああ。意味がない」


解説「逆に6,000字とかの小さい漢和辞典をわざわざ部首順にした場合、直接部首引きは大変です。細切れになった部首を見つけないといけないですからね。五十音順の方が簡単に引けるでしょう」


実況「なるほど」


解説「各出版社(三省堂除く)が掲載漢字の多い漢和辞典を優先して生き残らせている現状、それを五十音順に改訂するというのは、あまり合理的ではありませんね」


実況「そういうことですか。それにしても、いったい三省堂さんはなんなんでしょう」


解説「だから四天王ですってば」


実況「他の四天王(ただし残り二人)が霞みそうですね」


解説「え、そうですか!? 個人的には四天王の中で一番影が薄いのが三省堂だと思ってたので。それはよかったです!!」


実況「そんな、またまた〜。……え、冗談ですよね? え? え? え?」

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