旺文社『漢字典』

実況「続いては旺文社さんの『漢字典』ですね。旺文社さんは教育系出版社でしたよね」


解説「そうです、参考書や資格テキストをたくさん出してます。漢和辞典にも力を入れていまして、エントリーしている『漢字典』の他にも『漢和辞典』や『標準漢和辞典』があります」


実況「そんなにたくさん出してるんですか、すごい出版社じゃないですか」


解説「おおよそ『漢字典』が上級漢和字典、『漢和辞典』が標準漢和辞典、『標準漢和辞典』が初級漢和辞典です」


実況「『漢和辞典』が標準で、『標準』が初級って。ややこしいな」


解説「すいません。これについてはまじで反省してます。学研の出してる初級漢和辞典も『現代標準漢和辞典』なので、ネーミング失敗したなって思ってます」


実況「後の祭りですね」


解説「ちなみに、旺文社の中学生向け初級漢和辞典にはキラッキラホログラム仕様はありません」


実況「三省堂さんと学研さんのホログラム合戦には不参加なんですか」


解説「代わりに漫画『ちはやふる』などでおなじみの末次由紀先生書き下ろしパッケージ版がございます」


実況「おおおー。かわいいですねー。あ、でも、ちょっと男子には、どうなんでしょうかね」


解説「男子はホログラム買えばいいので。子供っぽいホログラムは嫌だという女子中学生を狙い撃ちする作戦でしょう」


実況「これは買っちゃいますね。まあ、それはともかく、エントリー辞書の『漢字典』の話してください」


解説「ふふふふふ。なんと、この『漢字典』には特筆すべきニュースがあります」


実況「え、なんですか?」


解説「旺文社『漢字典』第四版が新たに2023年10月出版されました!」


実況「へー…………えええええ!? 我々がもったりもったり漢和辞典アワードをしている間に新しい漢和辞典が出てたんですか!?」


解説「はい! 出ました! 9年ぶりの改訂です」


実況「ちょっと、たかぱしさん! なぜ出たときに言わなかったんですか!?」


解説「なぜって。今気づいたからです」


実況「今気づいた……今気づいたのかよっ!」


解説「いやあ。不覚です。こんな千載一遇の楽しいイベントをスルーしていたなんて」


実況「不覚すぎますよ……」


解説「ノーマークでしたね、旺文社。本屋で漢和辞典棚を定期的にチェックしてるのに、さっぱり気づきませんでしたよ」


実況「なんのための巡回……」


解説「言い訳させていただきますと、第三版と第四版の箱デザインが似ていまして。ぱっと見ではちょっと気づけないですよね、これ」


実況「まあもういいですけど」


解説「というわけで、エントリーしている『漢字典』第二版はずいぶん時代遅れになってしまいました」


実況「そう言って、また新しい版を買おうとしないでくださいよ」


解説「改訂で一体どんな進化を遂げたんでしょうね。特設サイトで観る限り、親字数が増えたとか紙面デザインが大きく変わったとかしているようには見えないんですが」


実況「見た感じ、特典で辞典アプリが使えるようになるというのが売りのようですね」


解説「ふむ。それと、見た感じ、もう一カ所パワーアップしているところがありますね」


実況「へえ、どこですか?」


解説「第二版のときは別冊で『名詩百選』がついてきていたのですが」


実況「ふむふむ」


解説「第四版ではアプリに『名詩百二十選』が収録されているとあるので、漢詩が二十首増えてますね」


実況「比較的どうでもいい変化ですね」


解説「そんな旺文社『漢字典』ですが」


実況「どんな特徴があるんでしょうか?」


解説「正直、掴み所がない漢和辞典です」


実況「掴み所がない、とは?」


解説「アワードではいろいろな観点から漢和辞典を紹介し、こんな工夫があるよ、こんな変わったところがあるよ、こんな珍しい辞書があるよ、とお見せしてきました」


実況「まあ、そうですね。変な辞書がいっぱいでした」


解説「ここまで通して『漢字典』はいつも多数派所属、変に尖ったところもなければ欠けたところもない、ノーマルかつ模範的漢和辞典の立ち位置をキープしています」


実況「確かに……『漢字典』が出てきたのって、いろいろな(使うか分からない)索引がついてる辞書として紹介されたときぐらいですね」


解説「『漢字典』は旺文社のなかでは上級漢和辞典の位置づけですが、他社の上級漢和辞典と比べると親字数が少なく、特にこれといって特筆すべき専門性もありません」


実況「ううーん、じゃあ『漢字典』にはいいところがない、ということですか?」


解説「まさかまさかまさか! そんなことはありません」


実況「お、いいところがあるんですね」


解説「そもそもノーマルな漢和辞典、というのは褒め言葉です。変なところがないから引きやすい、使いやすい漢和辞典で間違いありません」


実況「なんやかんや普通が一番ですもんね」


解説「親字数1万文字も一般使用では十分な漢字の量ですし。なにより『漢字典』には丁寧な語法解説や故事の原文・訳文掲載、中国古典知識を補うコラムが豊富です」


実況「ちゃんと特徴があるじゃないですか」


解説「高校生の漢文学習や漢文・漢詩初学者に参考書としてもおすすめできる漢和辞典です」


実況「シンプルなデザインも好印象ですね」


解説「しかし。だからこそ、旺文社と『漢字典』にはあと一歩がんばってほしい」


実況「え、がんばるって、なにをですか」


解説「こんなに漢和辞典を出している出版社なのに、どうにも裏ボスや四天王に後れをとってしまう地味さ加減。高校生に使ってほしい漢和辞典でありながら四大漢和辞典から漏れてしまうへなちょこさ。9年ぶりの改訂で特設サイトまで作っていながら本屋にポスター1枚貼られない非力感」


実況「いや、四天王も四大漢和辞典もたかぱしさんが勝手に言ってるだけですし、改訂に気づかなかったのもたかぱしさんがうっかりしてたせいですよね?」


解説「すべては『漢字典』のネーミングの弱さのせいだと思うんですよ」


実況「ええええー……」


解説「もちろん“漢字+典”のつもりなんでしょうけど、でもやっぱり“漢+字典”に見えてしまうんですよね。辞典なのに字典とはこれいかに。ちょっと漢字センス低くない? って思われてますよ、きっと」


実況「別に思われてないです」


解説「他の四大漢和辞典が『林』とか『海』とか言ってるんですから。やはりここは大きく出ましょう」


実況「仕方ないから聞きますけど。大きく、とは?」


解説「ずばり『漢字天』で五大漢和辞典時代へ突入待ったなしですね」


実況「旺文社『漢字典』待望の第四版は絶賛販売中です。お近くの本屋さんで是非!」



☆株式会社旺文社『旺文社 漢字典』

漢字充実度★★★☆☆

解説充実度★★★☆☆

読みやすさ★★★★☆

初心者おすすめ度★★★★☆

玄人おすすめ度★★★★☆

引きやすさ★★★☆☆

お値段★★☆☆☆

トータル23点

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る