【アワード幕間】剣菱うまいぜ

実況「えー。終業後に呼び出しをくらいました、実況のかげると」


解説「終業後に呼び出しをかけた解説はたかぱしです」


実況「はたして残業代はでるんでしょうか、たかぱしさん?」


解説「分からないですねえ」


実況「実にブラックです! で、こんな夜更けになんのご用でしょう? まさかまた辞書を増やしたとかですか?」


解説「いえ、今のところ増えてません」


実況「それはよかった。“今のところ”というのが不穏ですが」


解説「フリマで古い貴重な漢和辞典を大量出品している人を見つけてしまいまとめて取引すれば4,000円ぐらいで7冊手に入れられそうなのにまとめて取引できる条件が満たせていなくてまとめられないから手動で同梱してもらえるか交渉していいかどうか悩んでるんですけどどう思います?」


実況「……それは、“古く”て“貴重”の度合いによりますね……」


解説「古本屋でもみたことない辞書です。漢和辞典出版全盛期に出された、今はなき漢和辞典たちだと思うんですが」


実況「それは魅力的な」


解説「同梱不可だったらちょっと賄いきれないほど費用がかかるんで諦めますけどね。どっちにしろ、手に入れても古い漢和辞典すべてを有効活用してやれるわけもなし、ただコレクションになってしまうのも申し訳ないんで、すっぱり忘れようかとも思うんですよね」


実況「ひとまず声だけかけてもいいと思います」


解説「というか、そんな古い漢和辞典が増えても漢和辞典アワード2023には関係しないので、呼び出しの本題ではないんですが」


実況「え、じゃあなんでこの話した?」


解説「突然辞書がどっさり届いて増えたらびっくりすると思って、いちおう前振りしとこうかと」


実況「買う気満々じゃねえか。それで、肝心の本題というのはなんなんでしょうか」


解説「部首決めの話で、すこし補足しておかないと誤解が生まれるかもしれないな、と急に思いたちまして」


実況「なんだかんだ前回の「そもそも部首って誰が決めたんですかァ」は字数が3,300文字を超えてしまいましたからね。細かい解説を抑えて切り上げたんですよね」


解説「というわけでアフターファイブですし、剣菱でもやりながらちょっと聞いてください」


実況「剣菱はおいしいお酒ですが、残念ながら読者の皆さんのところまでお届けできません。大変お手数ですが各人でご用意をお願いします」


解説「剣菱は熱燗がまたたまらない」


実況「夏なのでひやで勘弁してください」


解説「で。なんの話でしたっけ?」


実況「お土産でもらった“のしいか”に賞味期限が書いてなかった話ですね」


解説「そうそう。もらってからうっかり食べ損ね2ヶ月。まだ大丈夫だろうか」


実況「干物なのでいけるかと」


解説「おっしゃ。じゃあ開けちゃうぜ」


実況「そろそろ実況と解説の人格及び口調に一貫性がないとのご指摘を賜りそうです」


解説「安心してください。酒が入ったたかぱしはだいたいこんな感じです」


実況「いや、のしいか炙ってないで、さすがにそろそろ本題をお願いしますよ」


解説「そうそう。この炙るための「火」の話なんですよ。【れっか】はつまり【火】なわけですが、「灬」がついてるからって「火」と関係のない「為」が【火】部首にいるのはおかしくない?みたいな話をしたじゃないですか」


実況「『「為」って火と関係、ある?』とか言ってましたね。はっきり覚えてます」


解説「話の流れ的にああやって振るしかない状況だったので、なんかすいません」


実況「突然謝られても意味がわかんないんですが?」


解説「簡単に言ってしまえば、別に【火】部首に所属する漢字全てが「火」に関係するわけじゃあない、という当たり前な話です」


実況「あー、そうなんですね。剣菱うまし」


解説「たとえば「烏」って漢字あるじゃないですか」


実況「鳥のカラスですね」


解説「意味で言えば【鳥】部首にしたいところですが、見た通り「鳥」には一本足らない。だから【れっか】として【火】部首に分類されるのが一般的です」


実況「確かにカラスと火は関係ないですね。焼き鳥になっちゃう」


解説「あえて意味を重視して部首わけするなら、【鳥】部首のマイナス1画数とかですが。そんなことしてる辞書見たことないです」


実況「そういえば、のしいかのイカも「烏賊」でカラスですね。まさか伏線だったとは」


解説「ともかく、【火】部首のような意味を持つ部首でも、意味に関係ない形だけの漢字も内包しますよ、おかしくないですよ、という補足です」


実況「なるほど、おいしい剣菱とのしいかをありがとうございました」


解説「よし、残業代は相殺ということで」


実況「まじかー」


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