画数を数えるのって結構めんどうですよね
実況「全国1億の漢和辞典ファンの皆さま、おはようございます。漢和辞典アワード2023、実況のかげるです。では本日もはりきって始めていきましょう」
解説「……解説たかぱしです。下調べのために漢検をググったらWeb広告が漢検の黄色に染まってしまいました。心折れそうです」
実況「いやあ、一度ページを見ただけなんですけどねえ。見事に漢検一色の広告! つぎ込まれた広告宣伝費はどれほどなんでしょう」
解説「どうせなら漢検ではなく漢字文化理解力検定の広告が入ったら面白いのにと思います」
実況「それは例のあれですね? 『諸橋轍次博士生誕140周年記念 第6回 諸橋轍次記念漢字文化理解力検定』」
解説「主催は『大漢和辞典』編纂に尽力した諸橋先生の「諸橋轍次記念館」です」
実況「いったいどんな検定内容なんでしょうかね。たかぱしさんは受験しないんですか?」
解説「ええ。受験資格を満たしていないので」
実況「そうなんですねー。ちなみに、どんな資格が必要なんですか?」
解説「公式サイトによると受験には『諸橋轍次博士と博士編纂の『大漢和辞典』に象徴される漢字文化に関心を持つ者』である必要があります」
実況「ええと?」
解説「残念ながら『大漢和辞典』は持っていないので。とても『関心を持つ者』は名乗れません」
実況「受験者全員『大漢和』持ってると思ってる!?」
解説「当然持っているでしょう。毎日熟読して検定に備えているものと思います」
実況「そうなんですね……。ともかく、漢字文化理解力検定は申込期限7月31日です。興味のある方はぜひ来年チャレンジしてください」
解説「きっと「『大漢和辞典』の部首【臣】の漢字は何巻何ページから何ページにわたり掲載されているか答えよ」みたいな問題が出ると思われます」
実況「間違いなくそういう検定ではないです。さて、よく分からない前置きに圧迫されて本題が疎かになるとサービス残業が発生しますので、ホワイト目指してさくさく行きたいと思います」
解説「よろしくお願いしますよ」
実況「なぜたかぱしさんが被害者ヅラしてるんでしょうね。それで、今日のテーマはなんでしょうか?」
解説「辞書の部首が決まり、漢字の部首が決まり、その次は部首の中の漢字をどうやって並べるか、というポイントですね」
実況「なるほど。しかし、それってアワードで取り上げるようなテーマなんですかね。思うにめちゃくちゃ些細なポイントなんでは?」
解説「些細でも結果面白ければオーライです」
実況「面白いという自信があるわけですね」
解説「………………。」
実況「いや、そこは自信を持てよ。それで、部首の中で漢字はどうやって並んでいるものなんでしょうか。どこに着目すればいいのか、たかぱしさん解説をお願いします」
解説「実はほとんどの辞書は同じ並べ方を採用しています」
実況「違いはない、と?」
解説「ほとんどが、です。一般的な並べ方は、部首の中ではまず漢字の画数順で並べます」
実況「まずは画数順、というのがポイントになるわけですね」
解説「まあ、慌てず。例として適当に【水】部首の漢字を挙げてみてください」
実況「今日は水のはなしですか」
解説「ちなみに【
実況「【
解説「『酒』は【水】じゃなくて【
実況「おっと失礼。じゃあ『海』『港』『江』『河』『漢』『温』とか?」
解説「他にも『泉』『泰』なんかもあります。では、この9個を総画数順に並べてみますか」
実況「面倒ですね」
解説「そう言われると思って、はい、こちらが総画順に並べた後の漢字です」
実況「お、3分クッキング方式ですね。ちなみに「キューピー3分クッキング」は日本テレビのご長寿番組です」
用意されていたフリップ「4画『水』、6画『江』、8画『河』、9画『海』『泉』、10画『泰』、12画『港』『温』、13画『漢』」
実況「なるほど、辞書にはこういう順番で並んでいるわけですね!」
解説「いえ、違います」
実況「え。でも画数順でと言ったのはたかぱしさんですが」
解説「この総画数順で並べる、というのは実は古い並べ方です。近年出版された漢和辞典で総画数順に並べている辞書は、ほぼありません」
実況「えっと。画数順で並べるが総画数順で並べないって、なに言ってるのか分からないんですが」
解説「トレンディな並べ方と言えば。そう、部首内画数順です!」
実況「部首内画数順!? なんですか、それは」
解説「部首内画数とは、つまり部首の画数を除いた画数です」
実況「部首の画数を除く? ということは?」
解説「『水』は0画。『江』は3画、ということになります。まあ、部首内画数という言葉を使用しているのは一部の辞書で、別に正式名称ではないんですが」
実況「そんなものがあるんですね。でもなにか変わるんですか?」
解説「では、先ほどの漢字を部首内画数順に並べてみてください」
実況「面倒ですね」
解説「というわけで、並べたものがこちらです」
用意されていたフリップ2「0画『水』、3画『江』、5画『河』『泉』『泰』、6画『海』、9画『港』『温』、10画『漢』」
実況「画数の数字は減りましたが、そんなに大きな変化は……あっ。『泉』と『泰』の位置が変わってる!?」
解説「そうなんです。【氵】は3画、【水】は4画、【
実況「なるほど。それで、これにはどんな意味があるんですか? トレンディということは、総画数順よりなにか利点があるんですよね?」
解説「さっぱり分かりません。一体なんの利点があるんですかね」
実況「分かんないのかよ」
解説「漢和辞典で部首引きするときには、その辞書が総画数順なのか、部首内画数順なのか知っていないと困るとは思いますが。どっちだったからといって、そこまで大きな違いはないというのが、正直な感想です」
実況「うーん、なんなんでしょうね」
解説「総画数を数えるよりは、部首を除いて数えられる部首内画数の方が楽、と言えなくもないです。しかし、漢字によっては部首を除いて画数を数えるのが面倒なものもあります。『與』を部首【臼】除いて数えるって、なにそれパズル?ってなりますからね。総画数を数えてからわざわざ部首の画数を引いて計算することもしょっちゅうです」
実況「本末転倒感が半端ない」
解説「さらに部首として【氵】などを分けて立てている漢和辞典ならば、もう総画数順でも部首内画数順でも結果として漢字の並び順は変わんないわけですし」
実況「これはマジで分からんですね。でも近年の辞書がほぼすべて部首内画数順を採用しているのなら、きっとなにか理由があるんでしょうね」
解説「というわけで、部首内画数順採用がトレンディな理由、を皆さまから募集します」
実況「特に謝礼も賞品もありませんが、じゃんじゃんご応募ください。いやあ、それにしてもたかぱしさん、部首の中で漢字をどう並べるか問題、結局そんなに面白くなかったですね」
解説「? まだこの話続きますが?」
実況「またこのパターン!? どうぞ見捨てず次回も漢和辞典アワード2023をよろしくお願いいたします!」
【データ】
部首の中で総画数順を採用
☆『漢字源』[学習研究社]1988.11
☆『新漢和辞典』[金園社]1976?
部首の中で部首内画数順を採用
☆『角川 新字源 改訂新版』[角川書店]2017.10
☆『全訳 漢辞海 第三版』[三省堂]2011.2
☆『明解漢和辞典』[三省堂]1959.3
☆『新明解 漢和辞典 第四版』[三省堂]1990.12
☆『例解 新漢和辞典 第三版』[三省堂]2006.1
☆『新明解 現代漢和辞典』[三省堂]2012.1
☆『例解小学漢字辞典 第三版』[三省堂]2005.1
☆『漢字源 改定第六版』[学研プラス]2018.12
☆『新漢語林 第二版』[大修館書店]2011.4
☆『大修館 現代漢和辞典』[大修館書店]1996.11
☆『新釈漢和辞典 新訂版』[明治書院]1984.1
☆『旺文社 漢字典 第二版』[旺文社]2006.10
☆『岩波 新漢語辞典』[岩波書店]1994.1
実況「こうしてみると、以前から部首内画数順が優勢だったようにみえますね」
解説「そうですね。気になるのは、初版では総画数順だった『漢字源』が改訂第六版では部首内画数順になっているところです。一体いつの改訂で変更されたのか」
実況「分からないですね」
解説「『漢字源』は初版と第四、第五版辺りは古書でよく見かけるのですが。二色刷新版(たぶん第二版?)や改訂新版(これが第三版?)って出回ってないんですよね。見つけたら即買いがおすすめの漢和辞典です」
実況「改訂された版をすべて揃えさせようとするのはやめてください」
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