画数順とか五十音順とか古いのだよ

実況「いつまで部首の話が続くのか!? 漢和辞典アワード2023、実況のかげると」


解説「解説はたかぱしでお送りします」


実況「今回は前回に引き続き、部首の中での漢字の並べ方に注目していくわけですね、たかぱしさん」


解説「そうです。部首の中ではまず漢字の部首内画数順で並べるのがトレンドだという話でした」


実況「それにしても、ほとんどの辞書が同じ部首内画数順で並べる方式ということで。アワードとしては優劣のある差異がないと盛り上がりにくいんですが」


解説「どの辞書も素晴らしいので優劣なんてつけられません」


実況「アワード全否定! それはさておき、部首内で画数順に並べるというのは分かったわけですが、他にどんな注目ポイントがあるんでしょうか」


解説「こちらもほぼすべての辞書が同じなのでただの紹介になりますが。部首内画数順で並べた後、同じ画数の漢字はどういう順番にするか、という問題ですね」


実況「なるほど。いま手元にある資料によると、三省堂『全訳 漢辞海 第三版』では【木】部首に所属する漢字が異体字なども含めておよそ666個あるそうです。そのうち部首内画数5画の漢字は69個。6画が59個。7画が60個で8画に至っては78個も漢字があります。それだけ漢字があると、適当に並べるというわけにもいかないですね。引きづらくなります」


解説「そこで多くの辞書が採用しているのが“漢字の主な音で50音順”です」


実況「おおー、ここでとうとう五十音順」


解説「前回も使ったフリップを用意しました」


再利用フリップ「0画『水』、3画『江』、5画『河』『泉』『泰』、6画『海』、9画『港』『温』、10画『漢』」


実況「適当に挙げた【水】部首の漢字を部首内画数順に並べたものですね」


解説「5画の『河』『泉』『泰』と9画の『港』『温』に注目しましょう。それぞれの漢字の“最も代表的”と言える“音”をふってみてください」


実況「最も代表的と言える音、ですか。なんかちょっと引っかかる言い方ですね。ともかく、難しい漢字ではないのでフリガナぐらいふれますよ」


書き込まれたフリップ「5画『』『セン』『タイ』、9画『コウ』『オン』」


実況「お、5画の『』『セン』『タイ』はすでにあいうえお順に並んでますね」


解説「そうですね。9画の方は辞書の並びにするなら『オン』『コウ』の順序になるというわけですね」


実況「問題なくできましたが?」


解説「とまあ、こういう感じですよという話です」


実況「とんでもない肩透かしでした」


解説「まあ、突き詰めると「代表的な音ってナニ!?」みたいな話になるわけですが、どうせ五十音順漢和辞典でうるさいくらいそういう話になると思うので。今回はスルーします」


実況「嫌な感じの予告ですね。多くの辞書がこの同じルールを採用ということは、これはこれ以上深掘りした話題はないんでしょうか」


解説「細かい話をすれば」


実況「うわ、来た、細かい話」


解説「さらにそれぞれの辞書で細かいルールがあります」


実況「と言いますと?」


解説「国字は音に関わらず最後に出すとか、常用漢字は優先して先に並べるとか、国字も音があるものは五十音順で訓しかないものは最後とか、常用漢字は同画数同音の中で優先とか、訓しかない国字は訓で並べるとか、んまあ細かいルールが、でもちゃんと各辞書あります」


実況「辞書によって並び順は意外と違うということでしょうか」


解説「僅かな差ですが。やはり違うといえますね。こういった細かいルールも漢和辞典の最初についている“凡例”や“使い方”にちゃんと説明されていますので、使いこなしたい方は一度ご自分の辞書の解説を読んでみると面白いと思います」


実況「正直まともに読んだことないです」


解説「まあ読まなくても別に問題なく辞書は引けると思います」


実況「ということで、今回は肩透かしに終わりました、漢和辞典アワード2023は」


解説「ここからが本題です!」


実況「久しぶりに2,000字以下で締めくくれるかと期待しました」


解説「ただ漢和辞典の説明しただけで漢和辞典アワードが終わるわけないじゃないですか。なんのためにここまでつまらない説明をしてきたと思ってるんですか」


実況「ぶっちゃけたかぱしさんが説明したいから説明してるだけだと思ってました」


解説「ちっがーう! 言ったじゃないですか、『辞書が部首の中ではまず漢字の画数順で並べます』と。ということは?」


実況「部首内で画数順で並べているわけではない漢和辞典が、と?」


解説「そう! その辞書のために、ここまでつまらないただの説明を続けてきました!」


実況「ということは、かなり画期的な辞書ということなんでしょうかね。でも「画数順ではない」と言われてもじゃあ「まず五十音順?」とかしか思いつかないですね」


解説「そう、それが我々一般人の限界です。でも世の中には、どうしたら漢和辞典をもっと引きやすく工夫できるだろうかと、日夜思考を巡らせている賢人がたくさんいるわけです」


実況「いるかもしれませんが、それほど多くはないと思います」


解説「そんな中で生まれた、部首の分類に挑戦した漢和辞典、それが小学館の『現代漢語例解辞典』です」


実況「えーと、部首立てのところで【氵】などの新部首を立てている辞書としてちょこっと紹介されていた漢和辞典ですね。そこではあまり深く触れては来ませんでしたが。“部首の分類”ってどういうことでしょうか」


解説「そもそも部首ってなんですか?」


実況「話がえらく戻ってますが!? 漢字をグループ分けするための形ですよね」


解説「でも、こういうのも聞いたことがあるんじゃないですか? 「へん」「つくり」「かんむり」「あし」「かまえ」「たれ」「にょう」」


実況「あー。部首になる形がどの位置にいるかで微妙に名前が変わるやつですね。まあでも、一部の例外を除いて、だいたい部首で位置って決まってるじゃないですか。【門】は【もんがまえ】って感じに」


解説「そう。だいたいは位置が決まっています。だからあまり気にしてこなかった。でも。よく考えるとちょっと不思議じゃないですか? 『札』や『机』の部首は【きへん】と呼ぶのに、『杏』や『査』の部首は【きかんむり】と呼ばない。『条』や『果』は【きあし】とか【したき】と呼ばない。ついでに言えば『條』が【きつくり】とも言わない。これいかに?」


実況「うーん、『森』の部首になってる木って、上のか下のか、どこのやつなんですかね」


解説「びっくりするぐらい話聞いてもらえてなかった」


実況「うん、どこにあっても【きへん】は【きへん】でよくない?って思いました」


解説「まあいいんですけど。結論だけ言えば、【きへん】とか【さんずい】とか【しめすへん】とか、我々が部首だと思っているものは、実は部首ではないのでは?ってことです」


実況「でも小学校では部首として習いました」


解説「そう。問題はそこ。部首として教えられ、部首として認識しているものは、例えれば「犬・猫・カマキリ・ポメラニアン」みたいなもんだってことなんですよ。ちなみに「犬・猫・カマキリ・ポメラニアン」の中で一番好きな脊椎動物はどれですか?」


実況「いろいろおかしい! 好きな動物の選択肢がおかしいです。カマキリは虫だし、ポメラニアンは犬ですもん。ちなみに一番好きな鶏は手羽先です」


解説「とまあ、こういうことになってしまってるわけです」


実況「じゃあどうすればいいんでしょう」


解説「生物であれば「界・門・綱・目・科・属・種」など分類に階級が存在してますよね。部首も階級のある分類をすればいいんです」


実況「動物界の脊椎動物門・哺乳綱・食肉目・イヌ科・イヌ属とかいうやつですね。部首も大分類と小分類なんかで分けられる、と」


解説「そこを整理したのが小学館『現代漢語例解』です」


実況「なるほど!」


解説「部首の説明を引用してみましょう」


小学館『現代漢語例解辞典』「ある意味またはある形を目印に集められた漢字群を「部」と呼び、その部の先頭に置かれる、共通要素そのものだけからなる文字を「部首」と呼ぶ。部首およびその変化した形で各文字の構成要素となって所属の部の目印となっているものを「部標」と名付け、部内の分類の柱とした。」(「この辞典の内容」P8)


実況「……つまり?」


解説「部首とひとくくりにしていたものを、「部」-「部首」-「部標」の三段階で分類したわけですね」


実況「部標というのが新しい概念ですね」


解説「【人】部首で説明しましょう。「人部」-「部首【人】」-「部標『人』『𠆢』『亻』」となったわけです。まあ、言葉だけでは分かりづらいかと思うので、『現代漢語例解辞典』を実際に見て確認していただくことをおすすめします」


実況「よく分からんけど、なんかすごい。ということは、ここまでずっと「部首内での漢字の並び順」と言っていましたが、正確には「部内での漢字の並び順」だったということですか」


解説「そういうことですが、厳密に話すと面倒くさいので今後もぐちゃまぜに「部首」という言葉を使っていきたいと思います!」


実況「なんてこったい。それで、『現代漢語例解辞典』の部内漢字順はどうなっているんでしょうか?」


解説「まず部標ごとに分けて並んでいます。【水】部でいえば部標「水」「氵」「氺」ごとに項目が分かれているわけです」


実況「それで【氵】部首を独立させている漢和辞典として登場したわけですね」


解説「そうです。正確に言えば『現代漢語例解』は【氵】などを「部首として独立させた」わけではなかったんですが。あそこで説明するとややこしいので黙ってました」


実況「グッジョブです。部標ごとに分けた後、部標の中ではどういう順番で並んでいるんでしょうか? やっぱり画数順?」


解説「画数順では他と変わらないですから。ここからが『現代漢語例解辞典』の本領です。部標の中では次に「部標の位置」順に並んでいます」


実況「部標の位置順!? 初めて聞くワードです」


解説「言葉そのまま。部標『木』なら、木が真ん中にある漢字『木』『本』『東』、次に木が上にある漢字『杏』『査』『鬱』、そして木が下にある漢字『条』『栗』『楽』。続いて木が左にある漢字『杉』『柚』『梱』、最後に木が右にある漢字『條』『しょう』って感じです」


実況「斬新!」


解説「くどくど説明しても分かりづらいと思うので、やはり本物の『現代漢語例解辞典』を己の目で見ていただきたいです。ちなみに、位置の後は「部標の画数を除いた画数」順、その中では五十音順に並んでいます」


実況「最後は他の漢和辞典と同じになるんですね」


解説「そうですね。小学館『現代漢語例解辞典』はとにかく部首引きに特化して索引も用意したりしていますし、部首引きで簡単に漢字を見つけられるように考え抜かれた漢和辞典、と言えます」


実況「いやあ、最初に説明を聞いていたときは、こんな面白い話になると思ってませんでした。ついでにこの話が4,000字超えるとも思ってませんでした」


解説「サービスしすぎちゃいました☆」


実況「サービスじゃなくて。もっと的確かつ簡潔に解説できるようになってほしいです。それでは皆さまごきんげよう!」




【データ】

部首内の漢字配列が部首の位置順という希有な漢和辞典

☆『現代漢語例解辞典』(第二版)林大 他[小学館]2001.1

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る