文字サイズ:くっ、俺の老眼が疼きやがる……!

実況「誰が老眼じゃい。漢和辞典アワード実況はかげると」


解説「まだピチピチだもん。解説のたかぱしでお送りします」


実況「どうやら今日は文字サイズのはなしのようですね、たかぱしさん」


解説「ええ。なんだか少し前に文字サイズを測れと言われたので、とりあえず測ってみました。そのはなしですね」


実況「あ、本当に測ったんですか。別に特に知りたくはなかったのに」


解説「え」


実況「どの漢和辞典の文字サイズが何ミリで……とか言われても、まあ『へーそうですかー』としか言えませんし。だからなにってはなしじゃないですか」


解説「……大丈夫です」


実況「お?」


解説「ここまでの全てが『へーそうですかー』なはなしでした!」


実況「……まあ。確かに。今更ですね!」


解説「そして、辞書に限ったことではなく、文庫本も教科書も新聞も年々文字サイズは大きくなる傾向にあります」


実況「わざわざ大文字版で復活する名作文庫シリーズとかですね」


解説「現代人の目はお疲れ気味! 詰まった小さな活字を読む根気などないのです。というわけで、漢和辞典も紙面を工夫したり多色刷りにしたりしてきましたが、文字サイズも確実に大きくなっています」


実況「ただでさえ使われることのない漢和辞典の涙ぐましい努力ですね」


解説「とはえい、文字が大きくなればなるほどページ数は増加……値段を上げるか、掲載漢字を減らすかしなければなりません」


実況「大きければ大きいほどいいってわけでもないですしね」


解説「というわけで、漢和辞典の文字サイズは各辞書が悩みに悩んで導き出した答えなのです」


実況「文字サイズでここまで語る人も珍しいと思いますが」


解説「ちなみに。今回はあくまで文字“サイズ”のはなしとなっております」


実況「それは、どういうことでしょうか?」


解説「実は、漢和辞典における“文字”には、それはもう奥深くてねっちょねっちょした重要な分野もありまして」


実況「ねっちょねっちょ……ですか。それは?」


解説「文字の“字体”のはなしです」


実況「字体というと、どのフォントを使うかとかですね」


解説「ええ、まあ、フォントのはなしでもありますね。現代の活字となったフォントを含め、手書きの時代から漢字は字体によって形が変わるという特性がありまして」


実況「まあ、どの言語の文字にも大なり小なりあるだろうと思いますが」


解説「それが漢字に関しては大のほう、もうぬっちょぬっちょにあるんですね」


実況「わあ。ねっちょねっちょがぬっちょぬっちょに進化した」


解説「細かいはなしはすっとばしますが。日本において比較的きっちり定められている漢字に『常用漢字』というものがあります」


実況「お上が出した『現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安』の漢字ですね」


解説「常用漢字は読みや画数などがあまりぬるぬるしないよう、一覧表で定められているんですが。暇ならその一覧に添えられた字体に関する補足情報をぜひご覧ください。かなり緩やかに形の自由が認められています」


実況「形の自由、ですか?」


解説「字体の差でくっついてようが離れてようが止まってようがはらってあろうがはねてようが点が1個でも2個でも形も全然違っても向きが違ってもデザイン違っても同じ漢字だ! とお上がお墨付きを出しています」


実況「え、あ、はい」


解説「最終的に“形が違うが同じ漢字”が字体の違いなのかフォントの違いなのか異体字なのか俗字なのか手書きと活字の違いなのか書き癖なのか、あやふやでよく分かりません」


実況「あ、そうなんですね」


解説「なので、各漢和辞典は『己が使用している字体やフォントとそれによる形の傾向』なんかを説明していますが、まあこのはなしを始めるとぬっちょんぬっちょんです」


実況「なるほど……なんか、大変ですね」


解説「それでも『形が違っても同じ漢字は同じ漢字だ!』なわけですし、字体・フォントの違いで漢和辞典に優劣がつくことはありません。したがって、漢和辞典アワードではすっきり無視します!」


実況「わー。潔い」


解説「でも文字サイズはそれぞれが見やすい大きさの文字の漢和辞典を見つける参考になるかもしれないので、アワードしてみたいと思います」


実況「あ、やっと本題ですね」


解説「文字サイズはptで表記しますが、正確に1pt=0.35mmで測れているわけではないので、『なんか大体そんな感じの大きさ』と思ってください」


実況「たかぱしさんの解説はいつもなんか大体そんな感じです」


解説「出版年が古い漢和辞典ほど文字サイズは小さい!? という俗説の真偽も含め、お楽しみください」


実況「最近は『漢和辞典アワードはどこへ向かってるの?』ってよく聞かれます(笑)」


解説「さて。まずはエントリー漢和辞典の文字サイズを測り、平均値を出してみました!」


実況「なるほど、それで漢和辞典平均文字サイズは?」


解説「親字サイズ17.10pt、熟語サイズ7.15ptです」


実況「ほお。で。それってどのぐらいのサイズなんですかね」


解説「出版社によって異なりますが、だいたい文庫本や新聞の文字が9ptですね」


実況「ということは、7ptってちっさ! 小さいですね」


解説「ちなみに出版年ごとに見るとこんな感じです」


1950年代 親字 13pt 熟語 6pt

1960年代 親字 12pt 熟語 6pt

1970年代 親字 17.5pt 熟語 6pt

1980年代 親字 15.5pt 熟語 6.5pt

1990年代 親字 16.4pt 熟語 7pt

2000年代 親字 18.6pt 熟語 7.7pt

2010年代 親字 18.9pt 熟語 8.2pt


実況「うーん、確かになんとなく大きくなってはいますが。でもやっぱ小さいですね。漢和辞典の文字、小さい」


解説「ですね。ちなみに、今回エントリー辞書のなかで文字が一番小さいのは角川『新字源』でした」


実況「どのぐらいの小ささですか?」


解説「初版と改訂版の親字が12pt、熟語が6ptで最小です。2017年に出た最新の改訂新版でようやく親字が17pt、でも熟語は6ptのままです」


実況「6pt……。角川さんは老眼知らずなんでしょうか。うらやましい」


解説「正直一番使い慣れている漢和辞典なので、字が小さいと思ったことがなかったというか、今回比べてみたら一番小さくてちょっと笑いました」


実況「じゃあ、逆に一番文字サイズが大きい漢和辞典はどれだったんですか?」


解説「当然というかなんというか、小学生向けの三省堂『例解小学漢字辞典』が親字29ptでぶっちぎり最大でした」


実況「さすがに老眼のおじちゃんに小学生の漢和辞典をおすすめするのはどうかと思います」


解説「というわけで、第二位は『三省堂 五十音引き漢和辞典』です。親字は25pt、熟語に至ってはなんと『例解小学漢字辞典小学生向け』よりも大きい13ptですよ」


実況「おじちゃんに優しい辞書ですね」


解説「三省堂は全体的に文字サイズが大きい印象でした」


実況「漢和辞典を作りすぎて老眼になったんでしょうか」


解説「三省堂以外で文字サイズが大きいというと、大修館『現代漢和辞典』もおすすめです。親字が22pt、熟語も8ptで平均以上ですね」


実況「大修館といえば、これまでたびたびおすすめとして出てきた『新漢語林』の文字サイズはどうなんですか?」


解説「『新漢語林』は小さいですね。親字が15pt、熟語は7ptです」


実況「うわあ、『新字源』並みの小ささ」


解説「どうしても親字数や文字情報が多くなると文字を小さくする必要がありますからね」


実況「親字数も多くて文字も小さくない漢和辞典は難しい?」


解説「作れないことはないですが、ページが増えて重くなる、値段が上がる、1文字当たりの解説を減らすなどの工夫をすることになります。作る側も買う側もどこを重視するかで選ぶといいと思います」


実況「まあ仕方ないですよね。ちなみに、親字数が多い辞書の中で文字サイズが大きいのはどれでしょうか?」


解説「そうですねえ、学研『漢字源』と三省堂『全訳漢辞海』の親字が18pt、熟語が7ptです。熟語はともかく、親字は比較的大きいですね」


実況「なるほど。親字数が多くて文字の大きい漢和辞典がいい人はその辺りを選ぶといいんですね」


解説「……これは独り言ですが」


実況「え、はい?」


解説「その2冊、文字サイズは同じなんですが、文字色的な問題で『漢字源』は親字がなんだか見つけにくいので、超個人的な感想に基づくおすすめは『漢辞海』です」


実況「あー。読みづらい引きづらい『○字源』コンビ、健在ですね」


解説「読みづらくても引きづらくても売れてる漢和辞典だとも言えるわけで、ある意味すごいんですが」


実況「それより、ここまでほぼいいとこなしだった『漢辞海』がやっとおすすめ漢和辞典になって良かったですね」


解説「まじで良かったです。四大漢和辞典なんて呼んでおいて、ちょっと存在を忘れかけてましたからね」


実況「さて、佳境に近づいております漢和辞典アワード。果たして最高金賞に輝く漢和辞典はいったいどれになるんでしょうか」


解説「そうですねえ。風洞実験もしていませんし、まだまだ分かりませんよ」


実況「……風洞実験? というか、まだ続くのか……」



【文字サイズデータ】

親字サイズ 大きい順


27pt

☆『例解小学漢字辞典 第三版』[三省堂]2005年(親字3,000字)


25pt

☆『三省堂 五十音引き漢和辞典 第二版』[三省堂]2014年(親字8,000字)


22pt

☆『大修館 現代漢和辞典』[大修館書店]1996年(親字7,500字)


21pt

☆『新明解 漢和辞典 第四版』[三省堂]1990年(親字12,000字)


19pt

☆『新明解 現代漢和辞典』[三省堂]2012年(親字10,700字)


18pt

☆『全訳 漢辞海 第三版』[三省堂]2011年(親字12,500字)

☆『例解 新漢和辞典 第三版』[三省堂]2006年(親字7,000字)

☆『漢字源 改定第六版』[学研プラス]2018年(親字17,500字)


17pt

☆『角川 新字源 改訂新版』[角川書店]2017年(親字13,500字)

☆『旺文社 漢字典 第二版』[旺文社]2006年(親字10,100字)

☆『常用字解』[平凡社]2003年(親字2,744字)


16pt

☆『漢字源』[学習研究社]1988年(親字9,990字)


15pt

☆『新漢語林第二版』[大修館書店]2011年(親字14,629字)

☆『現代漢語例解辞典 第二版』[小学館]2001年(親字9,700字)


14pt

☆『漢語林』[大修館書店]1987年

☆『新釈漢和辞典 新訂版』[明治書院]1984年(親字6,600字)

☆『岩波 新漢語辞典』[岩波書店]1994年(親字10,300字)

☆『新漢和辞典』[金園社]1976年?(親字8,000字)


13pt

☆『五十音引き 講談社漢和辞典』[講談社]1997年(親字14,000字)

☆『明解漢和辞典』[三省堂]1959年


12pt

☆『角川 新字源』[角川書店]1968年(親字10,000字)



熟語サイズ大きい順


13pt

☆『三省堂 五十音引き漢和辞典 第二版』[三省堂]2014年


9pt

☆『例解小学漢字辞典 第三版』[三省堂]2005年


8pt

☆『例解 新漢和辞典 第三版』[三省堂]2006年

☆『新明解 現代漢和辞典』[三省堂]2012年

☆『大修館 現代漢和辞典』[大修館書店]1996年


7pt

☆『全訳 漢辞海 第三版』[三省堂]2011年

☆『新明解 漢和辞典 第四版』[三省堂]1990年

☆『漢字源』[学習研究社]1988年

☆『漢字源 改定第六版』[学研プラス]2018年

☆『新漢語林第二版』[大修館書店]2011年

☆『旺文社 漢字典 第二版』[旺文社]2006年

☆『現代漢語例解辞典 第二版』[小学館]2001年

☆『岩波 新漢語辞典』[岩波書店]1994年

☆『五十音引き 講談社漢和辞典』[講談社]1997年


6pt

☆『角川 新字源』[角川書店]1968年

☆『角川 新字源 改訂新版』[角川書店]2017年

☆『明解漢和辞典』[三省堂]1959年

☆『漢語林』[大修館書店]1987年

☆『新釈漢和辞典 新訂版』[明治書院]1984年

☆『新漢和辞典』[金園社]1976年?

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