意味②:品詞はセンシティブ?
実況「今宵も物好きなみなさま、こんばんは。漢和辞典アワード2023+1、実況のかげると」
解説「解説はたかぱしです」
実況「アワードがふらふら寄り道している間に、はやくも2024年は3月ですね」
解説「はい、漢和辞典の季節がやって参りました」
実況「え、漢和辞典の季節って、なんですか、それ」
解説「卒業と同時に多くの漢和辞典が古書店へ売られたり、入学前に買おうと本屋や古書店で漢和辞典が売れる季節です」
実況「では、我々も『おすすめ漢和辞典』の検索に乗っかれるよう、がんばって更新していきましょう!」
解説「え、でも、古書店巡りしないと」
実況「さっそくですが、漢和辞典の漢字の字義解説を比べているところでしたね」
解説「マメに行かないと買われちゃうので」
実況「前回は特に字義の量を見ましたが、今日はどんなポイントでしょうか? 終わるまで行かせないからな?」
解説「漢字の意味をどう説明しているかという部分にどんな違いがあるかご紹介したいと思います!」
実況「なるほど。同じ意味でも説明の仕方で分かりやすさが変わるわけですね」
解説「ぶっちゃけ分かりやすさはそんなに変わらないですが。大きく分けますと、漢和辞典の意味解説にはフラットタイプとツリータイプがあります」
実況「フラットとツリーですか」
解説「はい。まあ、まずは例をご覧ください」
☆フラットタイプ(『新明解現代漢和辞典』より引用)
『午』
①十二支の七番目。方位では南、時刻では昼の十二時およびその前後の二時間。月では陰暦の五月。動物ではウマにあてる。うま。
②たてよこに交わる。十文字に交わる。
『隙』
①物と物の間の小さなすきま。われめ。すき。
②あいた時間。ひま。
③仲たがい。いざこざ。
④つけこむこのとできる機会。
実況「ふーむ。よく見かける辞書の解説って感じですね?」
解説「フラットタイプはざっくり大きな意味でまとめて説明するスタイルです。全体的にシンプルかつ要点を掴んだ解説になっていることが多いです」
実況「読みやすいし分かりやすいと思います」
解説「そうですね。一方で、様々な意味のある漢字の場合、やたら解説が長文になってしまったり、①②……⑨⑩と大量に似たような意味が並んでしまったりして、読みづらくなる場合もありますね」
実況「10個も意味が並んでいたら全部読むのが大変ですね」
解説「続いてツリータイプがこちら」
☆ツリータイプ(『漢字典』より引用)
『午』
①うま。十二支の第七。
ア動物では馬。
イ方位では南。
ウ時刻ではひるの十二時、および、その前後二時間。
エ月では陰暦五月。
オ五行では火。
②縦横にまじわる。
③さからう。
『隙』
①すき。ひま。
ア物と物の間のすきま。さけめ。
イ続いている物事のきれめ。あいだ。
ウひま。間暇。
エおこたり。ゆだん。つけこむ機会。
オきず。欠点。
②なかたがい。あらそい。
③つづく。境を接する。
実況「大きな意味のなかでさらに意味を分けて解説していくのがツリーですね」
解説「そうなんです。より詳しい意味や整理した説明になっていることが多いです。また、たくさんの意味がある漢字でも、まずは大きな意味だけをざっくり拾って読むことができるので、字義全体を把握するのに向いています」
実況「ふーむ。こっちも読みやすいし分かりやすいですね」
解説「でも、場合によっては一と①とアとⅰみたいな複雑ツリーを読み解かないといけなくて面倒くさい、改行が入ってないのでせっかくのツリーが見づらい、という難点があったりしますよ」
実況「改行が入ってない、というと?」
解説「スペース節約のために詰めてるわけですね。上の例では改行してありますが、実際はちっさい文字で『①うま。十二支の第七。ア動物では馬。イ方位では南。ウ時刻ではひるの十二時、および、その前後二時間。エ月では陰暦五月。オ五行では火。②縦横にまじわる。③さからう。』と書いてあるわけです」
実況「うわ、見づらい。なるほど、フラットタイプもツリータイプも一長一短ということですね」
解説「そうですね。結局は好みかなーと思います」
実況「うーん、どっちでもいい気がしてきた。フラットタイプの解説を採用している漢和辞典はどれなんでしょうか」
解説「フラット最推しなのが『常用字解』ですが、まあそれはさておき。学研『漢字源』や三省堂『新明解現代漢和辞典』、『例解新漢和辞典』がフラットタイプ多用派です」
実況「ではツリータイプと言えば、どれでしょうか」
解説「一番ツリー解説を愛しているのは明治書院『新釈漢和辞典』かと思います」
実況「愛してる?」
解説「愛してますね。他にも三省堂『漢辞海』、旺文社『漢字典』、大修館『新漢語林』、三省堂『新明解漢和辞典』がツリー好きのようです」
実況「好きとか嫌いとかいう問題なんですね。ちなみに、たかぱしさんだったらどちらをおすすめしますか?」
解説「どちらかといえば、」
実況「どちらかといえば?」
解説「やたらめったらフラットだったり、やたらめったらツリーだったりする漢和辞典より、解説したい字に合わせて柔軟にフラットもツリーも使いこなしてる漢和辞典がいいと思います」
実況「そりゃそうだ。じゃあ、そういう漢和辞典でおすすめと言えば?」
解説「あえて一冊あげるなら、小学館『現代漢語例解辞典』ですかね」
実況「というわけで、アワードがおすすめする字義解説がほどよい漢和辞典は『現代漢語例解辞典』です。ぜひご覧ください」
解説「フラットとツリーという2大解説スタイル以外にも、字義解説の仕方には違いがありますよ」
実況「おっと、話が締め括られると見せかけて、まだ続くんですね……。で、どんな違いなんですか?」
解説「実は根の深い問題……品詞を明記するかしないかという問題があります」
実況「品詞、ですか? 品詞って、名詞とか動詞とか形容詞とかの、あの品詞ですか?」
解説「その品詞です」
実況「うーん。英和辞典とかでは品詞が書いてあるのが普通ですよね。漢和辞典では品詞は書いてあったりしなかったりする、ということでしょうか?」
解説「いえ、漢和辞典には基本、品詞は書いてありません」
実況「書いていない辞書が一般的、ということですか。え、なんでですか?」
解説「ざっくり説明すると、漢字そのものに品詞はない(ということになっている)からです」
実況「品詞がない? そうなんですか?」
解説「どうなんでしょうね。品詞というのは『語を文法的な基準で分類したグループ』です。漢字は文字であり言葉である、とは言いますが、単漢字を単純に“語”として分類することができるのかどうか、微妙なところです。一方で、単漢字は語彙素だと考えれば分類してしまっても問題ない気もします」
実況「すみません、なに言ってるか分かりません」
解説「とりあえずセンシティブそうな話だなーと思っていただければOKです」
実況「分かりました、触れるのはやめましょう。でも、『品詞を明記するかしないか問題』があるということは、もしや、品詞を書いている漢和辞典もあるということですか?」
解説「あります。品詞を書くことで生まれるメリットもあります」
実況「メリットですか」
解説「漢和辞典における品詞は、漢字そのものがどの品詞に分類されるかを示しているものではなく、その品詞で漢字を使ったときどんな意味になるか知るためのもの、です」
実況「??? その品詞で漢字を使ったとき? どういうことですか?」
解説「たとえば『孤』という漢字があります。漢文のなかで名詞で使われている場合の意味は『みなしご』」
実況「孤児とかの『孤』ですね」
解説「代名詞なら王様が謙譲して言う『わたし』。動詞で使われていれば『叛く』や『顧みる』という意味になります」
実況「品詞からどの意味か判別する、と。でもそれ、文法の知識がないと、そもそも品詞が分からないのでは?」
解説「そうですねえ。しかも、漢籍を読むときに使えるテクニックなので、現代日本語ではあまり出番がありません」
実況「微妙なメリットですね……」
解説「そんな、あえて品詞を明記した漢和辞典が、三省堂『漢辞海』と学研『漢字源』の2冊です」
実況「2冊だけですか。レアですね!」
解説「品詞を明記していなくても、品詞を意識した解説をしている漢和辞典はありますよ」
実況「意識って、どういうことですか?」
解説「フラットタイプでもツリータイプでも大きな意味の違いで説明を分けていましたよね。その分け方が、品詞ごとに分けられているんです」
例)『辱』の場合
品詞関係なくざっくり意味を分けるタイプ
①はじる。はずかしめる。はじ。
②かたじけない。かたじけなくする。
品詞で意味を分けるタイプ
①はずかしめる。恥をかかす。
②はじ。はずかしめ。
③かたじけない。
④かたじけなくする。
実況「おおー。同じ意味しか書いてないのに、品詞で意味を分けるタイプは増えてますね」
解説「品詞に関係なく分ける場合、漢字の字義をコアイメージで掴むことができます。一方、品詞で分けてあれば、品詞・状況による使い分けがよりはっきりしますね」
実況「しかし、なぜ例が『辱』?」
解説「字義解説をフラットタイプにするか、ツリータイプにするか? 品詞を書くか、書かないか? 品詞で分けるか、分けないか? こういった違いは地味で小さなものですが、漢字の字義を理解してもらいたい!! という熱い熱い思いが込められているような気がしますね」
実況「熟語の意味ならともかく、なかなか単漢字の意味を調べることってないですが。ちょっと見てみたくなってきました」
解説「普段なにげなく使っている漢字の意味を、どうやって解説されているかも含めてぜひ調べてみてください」
実況「今日は話がきれいにまとまりましたね(笑)」
【参考】フラットタイプとツリータイプ・チャート
※独断と偏見による
↑フラット推し
☆平凡社『常用字解』
☆『三省堂 五十音引き漢和辞典 第二版』
☆三省堂『例解小学漢字辞典 第三版』
☆『岩波 新漢語辞典』
☆三省堂『例解 新漢和辞典 第三版』
☆三省堂『新明解 現代漢和辞典』
☆学研『漢字源 改定第六版』
☆『大修館 現代漢和辞典』
☆小学館『現代漢語例解辞典 第二版』
☆『五十音引き 講談社漢和辞典』
☆金園社『新漢和辞典』
☆大修館『新漢語林 第二版』
☆『角川 新字源 改訂新版』
☆『旺文社 漢字典 第二版』
☆三省堂『新明解 漢和辞典 第四版』
☆三省堂『全訳 漢辞海 第三版』
☆明治書院『新釈漢和辞典 新訂版』
↓ツリー推し
【参考】品詞どうしてる?一覧
品詞が書いてあって品詞ごとに意味を解説
☆三省堂『全訳 漢辞海 第三版』
品詞は書かないが、品詞ごとに意味を解説
☆『角川 新字源 改訂新版』
☆三省堂『新明解 漢和辞典 第四版』
☆大修館『新漢語林 第二版』
☆『旺文社 漢字典 第二版』
☆明治書院『新釈漢和辞典 新訂版』
☆金園社『新漢和辞典』
品詞は書いてあるが、品詞に関係なく意味でまとめて解説
☆学研『漢字源 改定第六版』
品詞書かないし、品詞に関係なく意味でまとめて解説
☆三省堂『例解 新漢和辞典 第三版』
☆三省堂『新明解 現代漢和辞典』
☆『三省堂 五十音引き漢和辞典 第二版』
☆三省堂『例解小学漢字辞典 第三版』
☆『大修館 現代漢和辞典』
☆小学館『現代漢語例解辞典 第二版』
☆『岩波 新漢語辞典』
☆平凡社『常用字解』
☆『五十音引き 講談社漢和辞典』
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