索引のはなし

こちらの索引事情はなかなかに奇怪です

実況「……思えば、いろいろなことがありました」


解説「はあ。」


実況「急な寒さにびっくりとか言った端から夏日なったり。慌てて暑いって挨拶したら大雪降ったり。本体が風邪を引いたり」


解説「……本体? とは?」


実況「突然の訃報に打ちのめされたり」


解説「ああ……酒見さん……」


実況「テンションど底辺でおおくりします、漢和辞典アワード実況のかげると」


解説「解説はたかぱしです」


実況「えー。前回までで五十音順の漢和辞典の漢字の並び方は概ね見終わったと思うのですが。今日はどこに注目していくんでしょうか」


解説「そうですねえ。五十音順漢和辞典についてはそれほど言いたいこともないので」


実況「ないんかい。最初はすごく話したそうだったのに」


解説「とりあえず五十音順の漢和辞典は索引がどうなっているのか見たいと思います」


実況「索引ですか。部首順漢和辞典では最後が索引の話でしたよね。五十音順の漢和辞典では引きやすさの話とかはないんですか?」


解説「特にないですね」


実況「ないんかい」


解説「敢えて言えば、『三省堂五十音引き』は漢字が大きくてすごく読みやすいですよ」


実況「それ引きやすさじゃないですね。確かに文字の大きさは重要ですが」


解説「小学生向けの『例解小学漢字辞典』並みに大きいです。老眼に優しい」


実況「じゃあ、文字の大きさを全部測って比べておいてください」


解説「……ぇぇ」


実況「ともかく、今日は五十音順の索引の話ですね。部首順の漢和辞典のときと違うんでしょうか?」


解説「そうなんです。部首順漢和辞典では『部首索引』『音訓索引』『総画数索引』の三つが必ずついていましたね。その上で、さらに工夫を凝らした索引があったりなかったり、でした」


実況「そうでしたそうでした。必須の三つ以外の索引は滅多に使わないとかたかぱしさんが言い出したんでした。必須の部首・音訓・総画数索引は五十音順漢和辞典でも変わらないんですかね」


解説「それが、そうでもないんです」


実況「え、そうなんですか? 部首順漢和辞典のとき、たかぱしさんは『これがない部首順漢和辞典というのは、なんというか、かなり手抜きなアレです』と言ってましたよ。もしや五十音順の漢和辞典はアレということですか?」


解説「いえ、たぶん、決して手抜き的なアレではないと思うんですが」


実況「ではどういうことでしょうか」


解説「それぞれの漢和辞典がそれぞれの特色に合わせて索引を最適化したらイロイロになっちゃった、というイメージです」


実況「なるほど。五十音順の漢和辞典のじゃじゃ馬ぐあいは索引にも現れているわけですね。具体的にはどんな索引があるんでしょうか」


解説「そうですねえ。まず、部首順漢和辞典と比べて一番大きく違うのは部首索引ですね。部首順の部首索引がどんな形式だったか覚えてますか?」


実況「ええと。見開き1ページを使って、部首と先頭ページ数を一覧にしたものですよね。索引というよりも目次みたいなスタイルなので、確かに部首順でないとこの形式は使えないです。五十音順ではどうなってるんですか?」


解説「全漢字を部首ごとに並べることによって、部首で漢字を探してページ数を調べられるようにしてあるのが、五十音順漢和辞典の部首索引です」


実況「確かにそれなら五十音順の漢和辞典でも部首で漢字を引けますね」


解説「部首索引を採用しているのは『五十音引き講談社』と『三省堂五十音引き』です」


実況「その二つの部首索引はほぼ同じなんでしょうか。使いやすいとか使いにくいとかあるんですか?」


解説「索引として使いやすいのは『講談社』の方ですね」


実況「お、言い切りますね。どうしてでしょうか」


解説「『講談社』の部首索引には、まず部首一覧と索引の中での部首ページ数が載っているからです。部首索引の中での部首の並びは、だいたい部首順の辞書と同じで部首画数や『康熙字典』に準拠しているんですが、部首一覧がない状態で部首の並び順が分かる人なんてあまりいないでしょう?」


実況「まあ、いないですね。そもそも部首がいくつあるかさえ知らなかったです」


解説「部首一覧が載っている『講談社』に比べ、『三省堂』の部首索引はどこになんの部首があるか分からずほぼ手探り。使うことを想定してないんじゃないかとさえ思いました」


実況「五十音引きができる!が売りの漢和辞典ですし、五十音引きして欲しいんですかね」


解説「だったらなぜ部首索引をつけた……」


実況「第三版へ改訂するときにはぜひ索引に部首一覧をつけていただきたいところです」


解説「あるいはもしかすると『三省堂五十音引き』はとにかく読みで引くことにこだわった漢和辞典ですね」


実況「というのは?」


解説「通常の音訓索引も付いていますが、それ以外になんと漢字の中国語読みで引ける『ピンイン索引』と韓国語読みで引ける『韓国漢字音索引』が付いています」


実況「日本語での五十音引きだけでなくて外国語の発音でも漢字が引けるんですか。それはすごい」


解説「まあ、誰がどう使うのかは分からないですが。三省堂の部首順漢和辞典の索引が非常にシンプルだったことと比べると、とにかく読みで引けることにこだわったんだろうなあと思います」


実況「きっとどこかで誰かの役に立ってるんでしょう」


解説「一方で、『漢字の読みすべてで直接引きできるから音訓索引はいらない』という、あまりにも大胆な方向へ突き進んでいるのが『五十音引き講談社』です」


実況「え、まさか『講談社』には音訓索引が付いていない、ということですか?」


解説「はい、音訓索引がないです」


実況「確か、『講談社』は漢字の全ての音読みで漢字が引けるんでしたね。でも、訓読みで引きたい場合は……どうすれば?」


解説「どうするんでしょうねえ。一応、訓読みで引くと言葉の説明は出てくるんですが。訓読みで漢字を引くことはできないので。どうすればいいのか分かりません」


実況「訓読みで引くと言葉の説明が出てくるというのも不思議なんですが。どういうことですか、それ」


解説「なんというか、訓読みで引くと国語辞典みたいな言葉の説明が読めます。まさに漢和辞典と国語辞典の融合」


実況「だめだ、意味が分からない」


解説「気になる方は実際の『五十音引き講談社漢和辞典』をご覧ください」


実況「ともかく、訓読みでは漢字を引けないということですね」


解説「頑張って音引きするか、部首索引や総画数索引を使ってください」


実況「それにしても、確かに五十音順の漢和辞典の索引はクセが強いですね」


解説「ちなみに、もうひとつの五十音順漢和辞典である平凡社『常用字解』は音訓索引のみで、別冊の形で総画数索引がついています」


実況「これはまたシンプルですね」


解説「そもそも『常用字解』は掲載漢字が主に常用漢字+αしか載っていない字書なので。いろいろな索引をつける必要はなかったんでしょう」


実況「なるほど、それが『それぞれの漢和辞典がそれぞれの特色に合わせて索引を最適化したらイロイロになっちゃった』ということですね。……あまり最適化に成功していないような気がしないでもないんですが」


解説「そうですねえ。五十音順漢和辞典は、部首順以上にまだまだ試行錯誤の段階なんだと思います」


実況「果たして正解の見つかる日は来るんでしょうか。というわけで、五十音順漢和辞典に関する選考アワードは以上ということになりますが、最後にたかぱしさん、なにか付け加えることなどありますでしょうか」


解説「『漢検漢字辞典』がすごく気になるので欲しいです」


実況「まだ諦めてなかったー! ひとまず皆さま風邪にお気をつけて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る