『五十音引き講談社漢和辞典』
実況「さて、エントリー辞書も最後の一冊となりました。『五十音引き講談社漢和辞典』です」
解説「なにげなく調べた講談社の漢和辞典が五十音順だったあのときの衝撃。忘れられませんね」
実況「ええ。突然エントリー辞書を増やされたあの衝撃、記憶に生々しく残っています」
解説「1997年に出た、初の五十音順漢和辞典ですからね。とんでもない逸材でした」
実況「きっと画期的な漢和辞典だったんでしょうね」
解説「しかも、ただの五十音順漢和辞典じゃないんですよ、『講談社』」
実況「そうなんですか?」
解説「親字が14,000字、熟語が44,000語という分量はハンディ漢和辞典トップクラスです」
実況「おお。親字数はエントリー辞書第三位で、『新漢語林』に次ぐ多さですね」
解説「その多い親字を音ごとにすべて項目立てしているわけですよ」
実況「よくこの1冊にまとまってますよね」
解説「その分、ちょっと文字サイズが小さめで、解説もシンプル、用例が少なめです」
実況「あとに続いた五十音順の漢和辞典が文字大きめになったのと対照的ですね」
解説「そうですね。他の五十音順は手軽に使えて読みやすい、をコンセプトにしていましたが、講談社は本格漢和辞典を五十音順で作る、をコンセプトにしてますね」
実況「ほぼ絶版が残念です。なぜ駄目だったんでしょうか」
解説「なんででしょう。まあ、なんやかんや、単漢字を音読みで直接引くのは面倒くさいからじゃないですかね」
実況「面倒くさいんですか」
解説「……まあ。ねえ。少なくとも『すごく簡単☆』ってことはない、と思います」
実況「これまでの“五十音引きできるから簡単”ってキャッチコピーはなんだったんですか……?」
解説「あれは、“簡単(な気がする)”ですね」
実況「(気がする)だけなんですか!?」
解説「はい。まずですね。“音訓索引を使って読みから引く”のと“直接読み引きする”のは、ぜんぜん違います」
実況「どういうことでしょうか」
解説「索引で引くときは、索引はページ数が少ないなかに一覧で漢字が出るので探すのが楽ですし、音読みでも訓読みでもページ数が出てくるのですぐに引けます」
実況「まあ、それが索引の役割なので。当たり前ですよね」
解説「直接読み引きする場合は、何ページもめくって本文の中から漢字を探さないといけませんし、音読みにしろ訓読みにしろ空見だしの可能性があるので、苦労して見つけてもページめくり直しかもしれません」
実況「つまり、直接読み引きよりも音訓索引引きの方がラク、ということでしょうか」
解説「そうなんですよ。初心者さんは“索引を使わないと引けないなんて面倒くさい”と思ってしまいがちですが、実は逆。索引はラクに引けるようにするためについてるんです。索引を使う方がラクなんです」
実況「なんてこったい……」
解説「ちなみに、“部首索引で引く”のと“直接部首引きする”のとでは、漢和辞典をかなり使い慣れた人なら若干直接部首引きの方が早いんですが、まあ普通の人なら部首索引を使う方が早いです」
実況「えー。直接引ける方が絶対ラクで早いんだと思ってました」
解説「気のせいです」
実況「でも、じゃあ、五十音順の漢和辞典の利点って、なんなんですか?」
解説「それはもちろん。索引を使わないで五十音引きできるので簡単(な気がする)、です」
実況「結局それか」
解説「でもほら、簡単(な気がする)なら漢和辞典を使うハードルが低くなりますよ」
実況「他にないんですか?」
解説「……ないですねえ。そんなわけで、本格漢和辞典を求めている人にとって“簡単(な気がする)”というメリットは特にメリットでもないので、それで売れなかったんじゃないですかね」
実況「切ない」
解説「親字数が多くなればなるほど直接五十音引きは面倒になっていくという特性を考えると、本格漢和辞典を五十音順でというコンセプトは裏目に出まくりですよね」
実況「そんなあ。なにか『五十音引き講談社漢和辞典』のいいところ、おすすめポイントとかないんですか?」
解説「コレっていうおすすめポイントはないですが。結局、使いやすい漢和辞典なんて人によりけりですからね。五十音順の本格漢和辞典が欲しい! という人にとっては唯一無二の漢和辞典なので、それだけで存在価値は十分じゃないでしょうか」
実況「唯一無二の漢和辞典が品切れ重版未定というのは寂しいですね」
解説「そうですね。でも、古書市場にけっこうな数が出回っているので、講談社は力を入れて刷ったんだと思います。今でも手に入りやすいです」
実況「余計切ないな」
解説「さて、ここからは五十音順漢和辞典に関する補足情報です」
実況「え。今ここで新情報ですか?」
解説「はい。アワードで五十音順漢和辞典を取り上げたその後で、手持ちの五十音順漢和辞典がちょっとだけ増えたので。それらを比較して入手した補足情報です」
実況「着実に漢和辞典が増えているようですが、いったい今何冊あるんですか?」
解説「ちょっと数えるのをやめちゃったので分かんないです」
実況「うわあ」
解説「それはさておき。五十音順の漢和辞典は、熟語の並べ方で二種類に分かれます」
実況「熟語の並べ方、ですか?」
解説「はい。部首順の漢和辞典で熟語は親字と一緒に並んでますよね」
実況「そうですね。普通はそうですよね。親字と、その漢字を使った熟語という関係ですから」
解説「五十音順の辞書も親字と一緒に熟語を並べているのがひとつ目です。三省堂の『五十音引き』や平凡社『常用字解』がこのタイプですね。ついでに『漢検漢字辞典』もこのタイプです」
実況「へー。そうなんですか。それで、ふたつ目の並べ方ってどうなってるんですか?」
解説「ふたつ目は、親字と関係なく熟語も五十音順に並んでいる、です」
実況「え、そんな並べ方が?」
解説「はい。この熟語も五十音順にはメリットとデメリットがあります」
実況「じゃあ、まずはメリットから聞きましょう」
解説「メリットは直接熟語を五十音引きできる、ですね。熟語の意味を調べたいときは国語辞典のようにさくっと引ける、はずです」
実況「でもさっきは直接五十音引きは面倒だって言ってませんでしたか?」
解説「はい、単漢字を直接五十音引きするのは面倒です。が、熟語はほんのちょっとだけ面倒さが軽減されます。なので、一応メリットですね」
実況「あんまりメリット感がないですね。じゃあ、デメリットというのはなんでしょうか」
解説「熟語の読みが分からない場合に引けない、です」
実況「え、引けないんですか?」
解説「難しいですね。親字と熟語が一緒なら、親字さえ見つけられれば熟語を全部チェックして探すことができますが。親字とバラバラになった場合は読みを間違えたら探す術がないです」
実況「なるほど。でもそれ、国語辞典のデメリットでもありますよね」
解説「そうですね。読めない言葉の意味を調べたいときは、部首順の漢和辞典を使いましょう」
実況「生粋の表音文字だけを使った言語では起きないアバンチュールですね」
解説「あとは、親字からその漢字を使った熟語を調べることはできないです。そういう熟語の調べ方をすることは少ないので大きなデメリットではありませんが」
実況「使い方によっては要注意、ということですね」
解説「この熟語も五十音順にするタイプの漢和辞典は『五十音引き講談社』ともう一冊、『角川現代漢字語辞典』があります」
実況「ここへ来て新顔の漢和辞典……」
解説「もし五十音順の漢和辞典購入を検討している場合は、親字数や文字の大きさだけでなく、熟語の並び順にもぜひご注目ください」
実況「五十音順の漢和辞典はみんなそれぞれ癖が強かったですね、たかぱしさん」
解説「使いやすいかどうかはともかく、その癖の強さがなかなか面白くて個性的な漢和辞典が多いので大変おすすめです」
実況「普通の人はそういう面白さで辞書を選ばないですね」
☆『五十音引き 講談社漢和辞典』
漢字充実度★★★★☆
解説充実度★★★★☆
読みやすさ★★☆☆☆
初心者おすすめ度★★★☆☆
玄人おすすめ度★★★★☆
引きやすさ★★☆☆☆
お値段★★☆☆☆
トータル21点
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