熟語数:中文生におすすめの熟語もりもり辞書はどれだ

実況「大晦日にこんばんはー。漢和辞典アワード実況のかげると」


解説「解説はたかぱしです」


実況「前回の年仕舞いのご挨拶はなんだったんでしょうか、たかぱしさん」


解説「そうですねえ。幻聴でしょう」


実況「幻聴だったんですね。てっきり今年はもうアワードないのかと思いました」


解説「そう思わせておいて、まさかの更新。恐らくそういう作戦でしょう」


実況「そんな作戦でいったい何を得られるんでしょうか。さて、今日のテーマは熟語数、ということですが」


解説「はい、漢和辞典の漢字解説にはたいてい熟語や成句が載っています。その量を比べてみたいと思います」


実況「ちなみに、熟語と成句って違うんですか?」


解説「大して違わないですね。熟語は漢字で構成され単語化した言葉です。成句は熟語も含め、ことわざ・短文などの決まった言い回しのことです」


実況「成句に熟語も含まれるんですね。だったら成句とだけ言っておけばいいんじゃないですか?」


解説「そうなんですが。成句という言葉に馴染みがないので。漢和辞典ではまとめて熟語って呼んでます。ちなみに、漢和辞典に載っている熟語や成句は、ほとんどが漢籍や漢詩、古典に載っているものですよ」


実況「ということは、日常で使うような熟語は載っていないんですか?」


解説「全く載っていないわけではないですが、あまり多くはありません。日常用語は国語事典の範疇ですね」


実況「うわあ、漢和辞典の日常での使いどころがマジでない」


解説「逆に言えば、日常ではなかなか知ることのできない知識に出会える貴重な機会です」


実況「でも使えない知識じゃあねえ、と思います」


解説「あまり『使わない』かもしれませんが、『使えない』知識ではありません。とはいえ、確かに日常生活で漢和辞典の熟語の寡多はあまり関係ないかもしれませんが。中文生にとって漢和辞典の熟語掲載数は切実な問題です」


実況「そうなんですか?」


解説「白文を読みたいとき、漢和辞典の熟語と用例が頼りです」


実況「へー」


解説「漢字の意味は全部分かるのに文章にならない……どこで切れてるか分からない……なんだこれ? となったとき、熟語がないか調べます。見つかったらそこを手がかりに全文を解きます。熟語、大事! 熟語は大事です」


実況「そういうもんですか。ということは、今日の熟語数比較は、中文生におすすめの漢和辞典はどれかっていうはなしですね?」


解説「そうです。中文生そして漢籍好きにおすすめの、熟語がたくさん載っている漢和辞典です」


実況「ではさっそく熟語数の多い漢和辞典を教えてください、たかぱしさん」


解説「エントリー漢和辞典の公表されている熟語数がこちらです」


公表熟語数 多い順

☆『漢字源 改定第六版』 96,000語

☆『全訳 漢辞海 第三版』 80,000語

☆『角川 新字源 改訂新版』 65,000語

☆『角川 新字源 改訂版』 60,000語

☆『漢字源』 55,000語

☆『新明解 現代漢和辞典』 54,000語

☆『新漢語林 第二版』 50,000語

☆『現代漢語例解辞典 第二版』 50,000語

☆『旺文社 漢字典 第二版』 46,000語

☆『五十音引き 講談社漢和辞典』 44,000語

☆『新釈漢和辞典 新訂版』 36,000語

☆『岩波 新漢語辞典』 36,000語

☆『例解 新漢和辞典 第三版』 35,000語

☆『大修館 現代漢和辞典』 25,000語

☆『三省堂 五十音引き漢和辞典 第二版』 2,400語


実況「けっこう熟語数もそれぞれですね。しかし、さすが『漢字源』。親字数ダントツ一位に引き続き、熟語数もトップですね」


解説「ハンディ漢和辞典界きってのパワーファイターですからね。さすがです」


実況「では、熟語数で中文生におすすめの漢和辞典は『漢字源』ですね」


解説「違いますね」


実況「違うんかい。え、なぜですか?」


解説「そもそもの親字数が違うので。親字数が増えれば増えるほど熟語も多くなるのは当たり前です。が、『漢字源』はダントツで多い親字数の割には……熟語数はそれほどダントツではないですよね」


実況「まあ、言われてみれば、そうですね。じゃあ、いつものように親字数で熟語数を割ってみますか?」


解説「その方法でもある程度はおすすめ辞書を出せますが。あまりいい方法ではありません」


実況「なぜですか?」


解説「親字には異体字も含まれてるからですね。でも熟語が載っているは正字のみ。同じ親字数の辞書でも異体字が多い辞書と少ない辞書とがある場合、親字数で熟語数を割ってもあまり正確なデータは出ません」


実況「うーん、じゃあどうしますか、たかぱしさん」


解説「ならば、実際に比べてみましょう!」


実況「お、アワード調査班お得意のアレですね」


解説「はい。いくつかの漢字をピックアップして、主な漢和辞典で各字の熟語が何個載っているか数えて比較しました」


実況「ご苦労様です」


解説「で、さっそくですが。大変申し訳ございません」


実況「え、突然謝った? え、なんですか?」


解説「漢字をピックアップするに際して、教育漢字・常用漢字・人名漢字・その他の漢字から4字を選んだんですが。ぶっちゃけ選んだ漢字が悪くてですね」


実況「……え」


解説「でもやり直すのも面倒だったので、まあいっかということになりました!」


実況「まあいっか……」


解説「選んだ漢字が変われば結果も変わるかもしれませんが、まあでもご愛敬。漢和辞典アワード独自の熟語数調査ということでご覧ください」


実況「それで、ピックアップした漢字はなんなんですか?」


解説「教育漢字が『酒』、常用漢字が『酔』、人名漢字が『酉』、その他の漢字が『酊』です」


実況「……えーと。それはたかぱしさんが好きな漢字ということですね?」


解説「え、違います。別に好きだから選んだわけではなく、同じ部首の中でほどよく馴染みがあり、かつ開きやすい範囲にある教育漢字・常用漢字・人名漢字・その他の漢字を探したらこの4つになりました」


実況「ああ、すべて部首【酉】の漢字ですね」


解説「と思ったら、『酒』を【氵】に移動してるやんちゃな漢和辞典とかもいて、なかなかあれでしたけどね」


実況「それで、その4つの漢字はどの辺が良くなかったんでしょうか?」


解説「主に『酊』がですね。全辞書調べても、ひとつも熟語がない漢字でした。熟語の数を調べてるのに、熟語ゼロの漢字を調べちゃった」


実況「うっかりすぎるな。でも熟語がゼロってこともあるんですね」


解説「まあありますし、それはそれでいいサンプルかな、と納得していただければ」


実況「納得は致しかねますが、まあ仕方ないですね」


解説「今回は、漢字の意味説明の中に出てくる熟語は除き、熟語・成句として上げられている熟語数、難読熟語としてあげられている熟語数、逆熟語としてあげられている熟語数をそれぞれカウントする方法をとりました」


実況「逆熟語ってなんですか?」


解説「親字の漢字が下につく熟語です。例えば親字『配』の逆熟語には『軍配』『気配』『心配』などがありますよ」


実況「あー、なるほど。そんなものも載ってるんですね、漢和辞典」


解説「漢詩人ラッパーが韻を踏みたいとき言葉を調べるのに便利です」


実況「なんじゃそりゃ。ともかく、年明けが迫ってるのでさっさと結果にうつりましょう、たかぱしさん」


解説「それでは2023年年越し熟語数カウントダウン第三位!」


実況「『年越し』はいらないですね」


解説「第三位! 三省堂『新明解 現代漢和辞典』」


実況「おおー。ここまでほどよく親字数があって軽いことぐらいしか取り上げられなかった『新明解現代』が第三位ですか」


解説「はい、正直アワード調査班もちょっと驚きました。現代日本での日常使用を想定した漢和辞典がこのランキングで第三位になるとは思ってませんでした」


実況「完全なる伏兵ですね」


解説「とはいえ、単純な熟語数で見ても『新明解現代』は54,000語。これはかなりの数です。熟語に力を入れた漢和辞典とみて間違いないでしょう」


実況「なるほど。軽くて熟語に強い、これは学生さんにおすすめできますね」


解説「そうですね。載っている熟語がどちらかというと日常的なものなので、高校生や一般の方にもおすすめの漢和辞典です」


実況「では続いて第二位をお願いします」


解説「2023年年越し熟語数カウントダウン第二位! 三省堂『全訳 漢辞海 第三版』」


実況「三省堂が続いてのランクインですね」


解説「はい、ナメク字レースでもいいとこなしだったあの『漢辞海』が堂々の第二位です」


実況「文字サイズ比較ではちょっとだけいいところを見せていましたが」


解説「熟語数と逆熟語数ともにしっかり数を揃えていました。特に今回は『酒』の熟語・成句数が比較した辞書の中で一番多い61語でした」


実況「61語も酒熟語が? 酒好きでもいるんでしょうか」


解説「それは知らんけど。古典系熟語に力を入れた辞書としておすすめです」


実況「でもそれがランキング第二位なわけですよね。『漢辞海』を抑えた第一位はいったい誰なんでしょうか……?」


解説「それでは発表しましょう。栄えある2023年年越し熟語数カウントダウン第一位に輝いた漢和辞典は……第一位『角川 新字源 改訂新版』です!」


実況「KADOKAWA! おめでとうございます!」


解説「ありがとうございます」


実況「いや、なんでたかぱしさんがお礼言うねん。それにしても、やりましたね『新字源』」


解説「はい、久しぶりに『新字源』が登場しました」


実況「一位の決め手はなんでしょうか?」


解説「熟語・成句数が多い、難読熟語も多い、逆熟語も多い。すべてにおいて熟語数が比較辞書の中で一番か二番目に多い数を掲載していました。死角のない熟語でしたね」


実況「それはすごいですね。三省堂を越える酒豪のいる気配です」


解説「もちろん、今回調べた漢字がたまたま多い漢字だった可能性もないわけではありませんが。『新字源』の熟語力は間違いなく漢籍好きにおすすめです」


実況「以前に紹介されたとき、ややマニアックな辞書だと言ってましたよね。面目躍如ですね」


解説「ついでに23年の最後をアワードっぽく締めくくれてとても満足です」


実況「というわけで、漢和辞典アワード2023 熟語数おすすめランキングは『新字源』『漢辞海』『新明解現代漢和辞典』という結果となりました。大晦日にお付き合いいただきありがとうございました」


解説「ありがとうございました」


実況「来年も引き続き漢和辞典アワードをどうぞよろしくお願いいたします」


解説「どうせみんな年明けに読んでるのでは?」


実況「今年もよろしくお願いいたします!」



【参考データ】『酒』熟語数 多い順

※アワードの熟語数ランキングは『酔』『酉』の結果も合わせた総合評価のため、この順位とは異なります

☆『角川 新字源 改訂新版』

 104語(内訳 熟語成句57語 難読熟語15語 逆熟語32語)

☆『全訳 漢辞海 第三版』

 90語(内訳 熟語成句61語 難読熟語6語 逆熟語23語)

☆『現代漢語例解辞典 第二版』

 80語(内訳 熟語成句44語 難読熟語3語 逆熟語33語)

☆『新漢語林 第二版』

 72語(内訳 熟語成句53語 難読熟語5語 逆熟語14語)

☆『旺文社 漢字典 第二版』

 66語(内訳 熟語成句52語 難読熟語1語 逆熟語13語)

☆『新明解 現代漢和辞典』

 64語(内訳 熟語成句57語 難読熟語1語 逆熟語6語)

☆『漢字源 改定第六版』

 54語(内訳 熟語成句50語 難読熟語4語 逆熟語0)

☆『大修館 現代漢和辞典』

 41語(内訳 熟語成句23語 難読熟語4語 逆熟語14語)

☆『例解 新漢和辞典 第三版』

 37語(内訳 熟語成句29語 難読熟語2語 逆熟語6語)

☆『例解小学漢字辞典 第三版』

 19語(内訳 熟語成句8語 難読熟語3語 逆熟語8語)

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