果たして漢和辞典と国語辞典の違いってなんなんですかね

実況「皆さまこんばんはー。 漢和辞典アワード実況のかげると」


解説「解説はたかぱしです」


実況「さて、今日も引き続き五十音順漢和辞典の五十音順について見ていくわけですが。……自分で言っておいてなんですが、『五十音順の五十音順について』って意味が分からないです」


解説「五十音順というのは、つまりあいうえお順に並んでいるわけですから、そこのところは変わらないわけですね。違いが出るのは、たくさんある漢字の読みのうち、どの読みで並べるかというところでした」


実況「漢字の読みには“音”と“訓”があり、かつ音も訓も複数持っている漢字があるんですよね。ところで、音訓合わせて一番読み方の多い漢字ってなんなんでしょうか」


解説「さっぱり分かりません。というわけでググってみました」


実況「ググるんかい。漢和辞典で調べられないんですか?」


解説「無理ですね」


実況「悲しい現実」


解説「本当かどうかは分かりませんが、日本一読み方が多い漢字は『生』らしいですよ」


実況「日本一。ということは、世界一の場合は?」


解説「知らんけど、たぶんそれも『生』でしょう。まあ、“音”はともかく、“訓”はぬるぬるを越えたぬめぬめ不定形で増殖可能なものなので。どれが一番多いとか決めつけるのは無理だと思います」


実況「ぬめぬめて。なんかヤですね」


解説「そんなぬめぬめした“訓”を使って五十音順に並べるのは……ちょっと想像がつかない。ということは、やはり使うべきは“音”の五十音順だろう、と考えられます」


実況「ところがどっこい。案外なことに五十音順漢和は漢字を主な“音”で並べた辞典ではなかった! というのが前回までのあらすじです」


解説「……改めて前回前々回の五十音順漢和辞典の解説を見返してみますと、あれですね。動揺しすぎて話が脈絡なくなっており、なにを言いたいんだか非常に分かりづらい! 大変お見苦しいものを晒しておりました。この場をお借りして陳謝します」


実況「脈絡なくしゃべりたいことをしゃべっているのはいつものことですが。仕切り直して、さくさく解説をお願いします」


解説「はい。はりきって解説していきたいと思います。今回エントリーしている五十音順の漢和辞典は4冊です」


実況「『三省堂 五十音引き漢和辞典 第二版』と『五十音引き 講談社漢和辞典』、そして平凡社の『常用字解』に『人名字解』ですね」


解説「このうち平凡社の『常用字解』と『人名字解』はシリーズもので、コンセプトが同じものです。ですのでアワードでは主に『常用字解』を取り上げます」


実況「ということは、実質3冊しか五十音順漢和辞典はないんですね」


解説「そしてこの3冊、いずれも五十音順の並べ方が違うんですよ。実に五十音順漢和辞典の可能性を感じます」


実況「おおー。それは期待値が上がりますね! それでは早速お聞きします。その違う並べ方とはどんなものなんでしょうか、たかぱしさん」


解説「はい。ひとつめは『漢字を主な“音”で並べる』、ふたつめは『漢字を“音”で並べる』、みっつめが『漢字を主な音で並べる』、という三つの方法がありました」


実況「…………おい。ほぼほぼ一緒なんだが?」


解説「いえいえ! よく聞いてください。まったく違います! 『漢字を主な“音”で並べる』と『漢字を“音”で並べる』と『漢字を主な音で並べる』です」


実況「よく聞いてもほぼ同じですが? まあ、じゃあ、詳しく解説をお願いします」


解説「まずひとつめの『漢字を主な“音”で並べる』です。これは平凡社『常用字解』が採用している五十音順です」


実況「それは最初にたかぱしさんが想定していた五十音順の方法ですよね?」


解説「そうなんです。漢字の読み方として、音訓のうち“音”を使って五十音順にしています。そして“音”が複数ある漢字の場合には、ひとつ主なものを選びます」


実況「気になるのは、主な“音”の選び方ですね。どうやって選ぶんでしょうか?」


解説「そこですよねえ。選ぶための明確な基準のようなものはないらしいんです。あえて言語化すれば、通例上その漢字の音として最も代表的に使われていると思われるもの、ということになりますかね」


実況「うーん。なんか曖昧ですね。たとえば『木』なら、主な音はなにになるんですか?」


解説「……『モク』……いや……『ボク』。『ボク』かな……たぶん『ボク』? どちらもよく使う読みなので迷いますね……」


実況「そんな感じで大丈夫なんですか、五十音順」


解説「そうですねえ。確認のために複数の“音”を持つ漢字を引いてみたところ、まあ概ね迷わず引けました。なので大丈夫だと思いますが。やっぱり迷って間違えて引けなかった漢字もいくつかありましたね。『分』とか『行』とか」


実況「えーと。『フン』と『ギョウ』でしょうか」


解説「『ブン』と『コウ』でした」


実況「ううーん、微妙~」


解説「引く人によって主な“音”に迷ったり迷わなかったりする、というのはこの『漢字を主な“音”で並べる』の弱点のひとつですね」


実況「まあ、部首引きで部首に迷うのと比べれば、かわいいものかもしれないですね」


解説「というのが『漢字を主な“音”で並べる』という方法です」


実況「そしてふたつめの方法が『漢字を“音”で並べる』でしたよね。……我々を惑わした『主な』が消えてますね?」


解説「そうなんです。この方法で並べているのは講談社の『五十音引き』です」


実況「いや、でも、複数の“音”を持っている漢字を並べるのに、『主な“音”』ではなく『“音”』で並べるって、え、それ、どういうことですか?」


解説「たとえば『行』で説明しましょう。『行』には『コウ』『ギョウ』『アン』という三つの“音”があります。このうち主な“音”は『コウ』です。なので従来の漢和辞典ならば『コウ』に『行』の解説を掲載します」


実況「それが『主な“音”』で並べた場合ですね」


解説「はい。そして親切な漢和辞典なら『ギョウ』や『アン』のところにも「→『行 コウ』(××ページ)参照」などと書いてあります」


実況「空見出しというやつですか?」


解説「そうです。一方、『講談社五十音引き』の場合は、『コウ』『ギョウ』『アン』すべてに『行』の解説が掲載されています」


実況「……ん? え、『行』という漢字が三回も載ってるってことですか?」


解説「そう、三回出てきます。つまり、漢字をすべての“音”で五十音順に並べているわけですね」


実況「それは……え、どうなんですか、それ??」


解説「メリットもデメリットもあります。まずメリットとしては、間違いなく“音”で引けるので分かりやすい」


実況「まあ、『主な音ってどれ!?』ってことはなくなりますね」


解説「次に“音”が変わると意味が変わる漢字について正確に調べられる」


実況「“音”が変わると意味が変わる漢字ってなんですか、それ」


解説「一番分かりやすい例は『悪』ですね。悪人あくにんなど『アク』と読む場合は「わるい」を意味します。嫌悪けんおなど『』と読む場合は「にくむ・きらう」という意味になります。『講談社五十音引き』では『悪』を『アク』で引いた解説と『オ』で引いた解説では意味の説明がちゃんと違います」


実況「へー。それはすごいですね」


解説「こういった読み方ごとに変わる意味の説明も、だいたいの漢和辞典でちゃんと区別して書いてありますが。なにせ小さくまとめられているので、注意していないと見落としがちです。『講談社五十音引き』なら見落とす心配がないですね」


実況「それは便利! なのか?」


解説「でもこれがデメリットになる場合も。『悪』という漢字の意味を調べたくて引いたとき、『アク』では「きらう」という意味が出てこないわけですから。漢字の意味を網羅的に調べるのには不向きな場合があります」


実況「あー、確かに。使い方に注意が必要ですね」


解説「さらなるデメリットとしては、どうしても解説が重複する、つまりやたら無駄が多い」


実況「まあ、同じ漢字を何度も説明すればそうなりますよね……」


解説「重複する説明が増えれば増えるほどページは増えてコスト増大。普通の辞書はできる限り重複は避けるものなので。ある意味、とても贅沢な仕様ともいえます」


実況「結果として辞書を使う人にとって便利になるのならいいと思いますが」


解説「そうですねえ。なんというか、『講談社五十音引き』はどことなく国語辞典に近いんですよね。“音”ごとに解説していること以外にも漢和辞典としては異例な特徴が多々あるように思います」


実況「確か『講談社五十音引き』は五十音順漢和辞典の先駆者パイオニアでしたよね」


解説「従来の漢和辞典からの脱却を図って国語辞典へ足を突っ込んだんでしょうかね」


実況「うーん、漢和辞典と国語辞典を二冊揃えなくても一冊で済む、と考えればありなのか」


解説「世間には『帯に短し襷に長し』という言葉もありますからねえ」


実況「それは、褒めてないですね?」


解説「五十音順の漢和辞典として、その特徴を最大限に活かした独創的かつ斬新な大変面白い漢和辞典だと思います」


実況「実質絶版であることが惜しいですね」


解説「まあ、純粋に漢和辞典として使うには微妙かなーと思いますが」


実況「やっぱり褒めてない! さて。それでは残る一つの並べ方『漢字を主な音で並べる』は、果たしてちゃんと違いのある並べ方なんでしょうか。次回をお楽しみにー」


解説「最大の問題児の登場ですね……」


実況「あー。たかぱしさんが遠い目になっているー(笑)」

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