番外 -きらり

「きらりー居るかー?」


 扉が開いた、顔を出したのは別の少女で。


「うわ……はやてさん。なんですか? ストーカーですか?」


「きらりに用があって来たんだよ」


「はー? きらりちゃんにー? 私には? 私には無いんですかー?」


 用があって欲しいのか欲しくないのかどっちだよ。


「今日用があるのはきらりだけだ、すまんな」


 彼女は若干不貞腐れた顔になる。


「また面倒見てくださいよー」


「自分が面倒だという自覚があるのはいいことだな」


「定型句です」


「また今度な。んで、きらりは? 今居ないのか?」


「ちょっと出掛けるって言ってたので、もうすぐ帰ってくると思いますが」


 どたどたっと隣で音がした。廊下の先を見れば、階段を上ってきていたきらりの姿が。


「おぉきらり、実は―」


「なっ……おっ、女の部屋に予告もなく来るんじゃねぇ!」


「何かあればここにってお前が言ったんじゃなかった?」


「い、いろいろ準備とかあるだろ、人に会うってなると!」


「今出掛けて来たばかりじゃないの?」


 ぐいーと、部屋の中からゴールドシープが押し出してくる。


「はやてさーん、すみませんが少々お時間をー」


「お、おう。突然押しかけて済まなかったな」


 待つことしばらく。扉の前で待っているといいですよーと声が掛かり、ドアが開いた。


「お待たせしてすみませんね。ささ、中へどうぞ」


「いやまぁ、用を伝えに来ただけだから外でもいいんだけど」


 一応彼女らはここで暮らしてる訳だし、ずかずかと入り込むのもあれかと思ったが、彼女はさほど気にしていない様子で言う。


「別に入っていいですよ、どうせはやてさんだし」


 それは良い意味悪い意味、どっちで言っているのか。うながされ、部屋の中へと足を踏み入れる。


 やわらかい、甘い匂いがする。何かお香でも焚いているのか、それとも女の子の部屋は大体こんな感じなのか。何はともあれ少し居心地の悪さを感じながら部屋を歩いていく。


「立たせて待たせてしまって申し訳ないです、そこ座ってください」


「お、おう。ありがとう。気が利くな」


 ゴールドシープが待たせたわけじゃないのに、この子は礼儀正しいな。

 きらりはというと、髪をくしくしとしきりに触りながらベッドに座っていた。


「待ったけどさっきとなんか変わったの? ごぶぅっ!!!」


 腹を抑える。ご……ごるし……なぜ殴る……!


「それではやてさん、きらりちゃんにご用って?」


「あ、あぁ……今度受ける依頼で、きらりが居てくれると助かるなって思って、誘いに来たんだが」


 ゴールドシープがぱっときらりの方を見る。


「どうだ? なんか予定とかあったか? 無いなら他を当たるんだが」


 きらりも、驚いたように俺を見ていた。


「オレを?」


「あぁ」


「オレが、必要? お前が?」


「まぁ、そうだな」


 別にいなくてもどうにかなるけどな。言わなくてもいいことは黙っておこう。ふん、ふんと鼻を鳴らし、彼女は嬉しそうな顔をする。


「はやてがそこまで言うんならまぁ、行ってやってもいいぞ」


 まだそこまで言ってないけどな。黙っておこう。


「いいのか?」


「はやてがどうしてもって言うんならな!」


 黙。


「どうしてもきらりに来て欲しいなー」


「そ、そうかー? 仕方ないなー」


 顔を逸らすと、ゴールドシープも嬉しそうにきらりを見ていて。俺の目線に気づくとこちらを向いた。


「へー、うちのきらりちゃんを持ってくんですかー。この私を差し置いて。私は置いていくんですかー?」


「レベルが足りない」


「さっき面倒見てくれるって言いませんでした?」


「それはまた今度。今回は無理」


「つまり二人きりってことですか? はやてさんと、きらりちゃんで?」


 二人きり……どうするかな。


「ちょっと遠征するし、補助要員一人二人入れてもごはぁっ!!」


 脛を抑える。ごるし……なぜ蹴った……。


「まぁ、二人でもなんとかなる……」


「ふーん。二人きりですかー」


 にやにやとゴルシが俺を見る。これで満足か……?


「ほ、本当にオレでいいのか……? その……他の奴らとか、連れてかなくて……」


 まぁ、きらりには色々と足りない要素はあるが、俺は補える方だ。

 

「え、いや、うん。別に単発の依頼だし、そこまで重く受け止め」


 隣で奴の目がキランと光る。


「俺ときらりの二人ならどんな事があっても大丈夫だよ」


「そ、そうか……? えへ、えへへ」


 なんか面倒な方に話進んでないかなぁ……まぁいいや。


「そんなわけだから。また今度、よろしくな」


「おう!」


 彼女のかわいい返事が返ってくる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る