1.Lv.34 -6 動機

「ふぅ……ふぅ……」


「はぁ…………はぁ」


 遠い丘の陰に身を隠し、息を整える。


「どうだ……? 何か、分かったか……?」


「あぁ」


「……っ! 本当か!」


「あれは俺たちじゃ無理だな」


 きらりが乗り上げた体を落胆させる。


「……紛らわしい言い方すんじゃねーよ」


 彼女は吐き捨てるように毒づく。


「根っこに対する俺たちの対処は防戦一方だ。近づけば魔法で強引に吹き飛ばされる、それを突破してもあの巨体だ」


 何度か奴の体に上ることには成功した、だが。


「魔石の場所が分からない、少なくとも花の表面には見当たらなかった」


 魔石さえ奪えれば奴の生命を止めることが出来る。逆にそれだけが奴の見える敗因であり、向こうが警戒してないわけがない。


「例え、位置が正確に分かったとして、だ。あの膨らんだ胴体の、中央か下部、もしくは見えてない地下のどこかにあるんだとしたら、届かない。そもそも、俺たちの攻撃が」


 気を緩めることなく周囲に気を配りながら手短に話す。奴の巨体は逃げるこちらを追ってこれない、今襲われるとしたら騒ぎを聞きつけた他の魔物だが、奴が蹴散らしたのだろうか、周囲には魔物一匹見当たらない。


「お前はどう思うよ」


「……」


「反論が無いようなら帰るぞ。これ以上は時間の無駄だ。依頼を放棄して逃げるのは悔しいが、この足りない戦力でよく頑張ったさ。より高レベルの冒険者が集まるのを待とう、なに、ここに来るまでに成果が無かった訳じゃない」


 きらりが、重く口を開く。


「高レベルの冒険者ってのは、どれくらいで来る」


「あれが相手なら、レベル40以上の冒険者が最低でも三、四人は欲しいな。山塊も失敗すれば危険度も報酬も吊り上がるだろう、待ってればそのうち来るさ」


「どれくらいで来る」


「……高レベルの冒険者は数が少ない。数週間は掛かる」


「……帰りたいなら、あんた一人で帰ればいい」


 きらりは地面を暗く見つめながらそう言った。


「無理に付き合わせて悪かったな、腰抜け」


 お前俺に悪いと思ってないだろ。


「どうせあんたは受付の野郎に言われて来たんだろ? 子守りに飽きたなら帰ればいい」


「残念ながら、子守りはお家に返すまでが仕事でな。泣きじゃくって暴れてでも持ち帰れと言われてるよ」


「お前の腕力じゃ無理だよ」


「そろそろ、アレの討伐にこだわる理由を、話してくれてもいいんじゃないか?」


 きらりの、濡れた瞳が俺の方を向いた。


「そんなもん、聞いてどうすんだよ」


「聞いてから考えるさ」


「理由が気に入らなけりゃ、送り狼か?」


「羊には見分けが付かないか? 俺は番犬の方だ」


「帰れ犬っころ」


「話さなきゃどちらにしろ実力行使だ。あれと再戦する前に、俺と争って体力使いたくなけりゃ、出来るだけ可哀そうに話してみせろよ」


「……お前の言い方が気に食わない。聞かせてください、だろ?」


「あ? ”私の話を聞いてください”、だろうが」


 ふん、と彼女はそっぽを向く。こいつ……。こんな所にこだわっていても仕方ない。ここは大人な俺が折れてやる。


「きかせてください」


「心がこもってない」


 ……。


「……聞かせてください」


「……別に、大した理由じゃねぇよ」


 そう前置きして、彼女はようやく語りだす。

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