番外 -ゴールド・シープ
「ふぇぇ……ずいぶん高い所に来ましたね……」
見下ろすと、足がはじいた小粒の石が、壁と平行に遥か遠い地面まで落ちていく。木々は一つ一つが皿の上に乗せられた野菜ほどに小さく見えており、青々とした樹海が崖下に広がっている。
「落ちんなよー、死ぬからなー」
「あの……もうちょっと重い感じで言ってくれます?」
「心配するな、もう少し先に進めば開けた場所に出る。ここまで何も無かったんだ、残りだって何の問題もなく進めるさ」
「わざと言ってますよね? 気を抜くなって言うのがいつものはやてさんの役目じゃないですか?」
崖の壁を削るように作られた、狭い足場をじりじりと足を滑らせ進んでいく。
「この行程が終わったら俺、あったかいスープを作るんだ……肉の塊をゴロゴロ入れて、香りのいい野草や、味のする根菜を沢山入れて、あったかいスープを作るんだ……きっと美味しい、こんな極限下で食べられる、あったかいスープなんだ……」
「やめてくださいはやてさん。先の話をするのは縁起が悪いですよ」
「余裕なさそうだなーお前」
「こんな所で何言ってるんですか? 一歩足踏み外せば下まで真っ逆さま、固い地面にぶつかって人生終わりです。助かる余地なんてないですよ?」
「うむうむ。ちゃんと危険性を理解しているようで安心したよ俺は」
「私ははやてさんの態度に安心出来ないんですけど!?」
「あ! 見えた! 目標地点だ!」
どうにか無事に、二人とも狭い道を抜けられた。壁に丸く掘られた、穴のような空間がそこにある。奥にさらに小さな穴があり、階段状に作られた傾斜が上へと続いていく。
「はぁ……はぁ……。何とか、切り抜けられましたね」
「さー食おうぜー」
かちゃかちゃと食器を取り出し、小さな鍋に火をつける。
「……もういいです、はやてさん。私とあなたで気持ちに温度差があるのが悲しいです、私」
「なんだお前、高い所苦手なのか? そりゃ残念だったなー」
「死ぬのが怖いんですよ、私は! さっきの道なんて安全器具なんてありませんでしたよ!? 死と隣り合わせでしたよ!? 文字通り!!」
「あはは」
「何がおかしい!」
「あー、お前空は飛べないタイプか」
「なんですかそれ! はやてさんは空が飛べるんですか!? だから怖くなかったとでも言いたいんですか!? そんなの、はやてさんだけずるいですよ!」
小鍋にぽとぽとと水を注ぎながら答えを返す。
「いやいや。人間が空を飛べる訳ないじゃん」
「なんなんですか先輩!」
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