1.Lv.34 -2 遭遇

「来たのはあんただけか」


 待ち合わせ場所にいた少女は、ガラの悪い目つきでこちらを見ていた。


「名前は」


「秋月」


「レベルは」


「34」

 

 彼女は俺から目を逸らし、小さく悪態を付いた。顔は可愛いが、そんなことを思える雰囲気じゃないな。


「本当に行く気なのか?」


「あ?」


 彼女は不審な表情を向ける。


「てめーは冷やかしに来たのか?」


「集まったのは二人だろ。それでも行ける相手か?」


「ここまで来て、尻尾巻いて帰るって?」


 やはり帰る気は無いようだった。まぁ、先に聞いていたことだが。

 仕切りなおすように、切り返す。


「水を差すようなことを言って悪いな。半ば押し切られるように受けたんだが、二回も失敗してるって聞いてな」


「……あの男。余計なことしやがって」


 嘘は言ってない。


「てめぇもてめぇで受けてんじゃねぇよ」


「やる気はあるんだろ? さっさと行こうぜ」


 俺がそう言うと、肩透かしを食らったように少女は口を噤む。


「こっからは遠いのか?」


「……しばらく歩く」


 爽やかな涼風が草原を吹き抜ける。人が支配を手放して久しい土地だが、無心で歩くには悪くない。

 

 しばらく歩いていると、影が見え、立ち止まり背後の彼女を制止する。


「……なんだよ」


 無言で指をさす、そこには、一匹の魔物が歩いている。

 

「雑魚じゃねーか」


「模様がここらで見ない。きっと珍しい魔石を持ってる」


「……寄り道する気はねーぞ」


 少女は消極的だ、目的地まで極力消耗を抑えるつもりなのだろう。

 だが失敗すれば手ぶらなんだよなぁ……見逃すには惜しい。


「雑魚なら余裕なんじゃないか?」


「……弱い癖に時間掛かるだろ。手間掛けたくねぇ」


 手間? ……あぁ、もしかして対処を慣れてないのだろうか。


「待ってろ、すぐに終わるから」


「あっおいっ……長いようなら置いてくからな……!」


 魔物、通称”マリガエル”。その名の通り、毬のような形をした四足軟体の生き物だ。大きさは人の頭ほど。

 弾力のある肉体で地面を飛び跳ね動き回り、分厚い肉質のせいで剣が中まで通りにくく、貫こうにも弾いてしまう。内臓の自由が利くのか魔石の場所も不定であり、普通に倒すにはぼこぼこに殴り倒した後で中の魔石をはぎ取るしかない。殺傷性は低いが突進にもなかなか威力がある。総じて初心者には面倒な相手となる。


 だが所詮は雑魚、魔法も使えないような小さな魔物だ。倒す手段は確立できる。


 きょろきょろと草むらの中で周りを見ていたそいつだったが、ある程度近づいたところでこちらを向く、すぐに後ろ足を屈め臨戦態勢となる。

 俺は剣を構え、息を潜めながらじりじりと距離を詰める……来た!


 土を巻き上げ蛙が飛び跳ねた、それはまっすぐ俺の顔に向かって飛んでくる、明らかな敵対の意、容赦は要らない!

 剣を振りかぶり、飛んできたそれを、俺は思いっきり……打ち上げた。


 鈍い金属の衝撃にマリガエルは体をひしゃげて吸い付き、空中へと為すすべなく飛んでいく、と言っても軽い生き物じゃない、すぐに落下へと切り替わり真下の俺の元へと落ちてくる。


 跳ねる直前、俺はそれを足で押さえつけた。じたばたとカエルは藻掻く。強靭な後ろ足が俺の足を捕らえようと懸命に蹴り付けてくる。


 逃がさないうちに足でその腹を踏みにじる、少しだけ球の向きが変わり、マリガエルの口が真上に来る。今だ。

 振りかぶった剣を、今度は真下に突き刺した。それは深々と地面に突き刺さり、もがくマリガエルはもはや逃れることは出来ない。


 小刀を持ち、口から手を入れ内臓を切り裂く、カツンと何か固いものが当たり、反対の手でそれを掴む、強引にもぎ取る。


 魔石を失ったマリガエルは、ほろほろと、その体を崩していく。


「終わったぞー」


 ぼーっとこちらを眺めていたきらりに手を振る。五分も掛かっていない、これで魔石が手に入ったなら上々だろう。

 彼女は、半ば不服そうな声で俺を迎える。


「……早いな」


「慣れたらこんなもんさ。ほら、やっぱり珍しい魔石だったぞ」


 手のひらを開いて見せる。

 透明、アイスグリンの魔石だ。まだ特定は出来ないが、ここらのマリガエルの魔石は青。魔法を使わない相手から、希少な魔石を手に入れられたのはでかい。押し隠してはいるが内心ほくほく顔だった。


「……オレには真似出来ない」


「そうか? まぁ人には得意不得意あるしな。それより待たせて悪かったな、改めて目的に向かうか」

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