1.Lv.34 -3 戦闘

 すっと、手を伸ばして立ち止まる。


「また魔物か?」


「面倒なのが居るな……」


 俺の目線の先、なだらかに隆起を繰り返す草原の丘の影、草むらの中、身を隠して佇む姿が一つある。


「”キバトラ”だ」


「あん……どこだ……?」


 まっすぐ指をさすと、少女は肩を寄せ、片目を瞑り俺の右肩に頭を乗せる。彼女の小さな顔がすぐ脇にある。


「あぁ……居るな……かなり遠いじゃねぇか。よく見えんな、あんなの」


「あいつらは龍脈で位置を探るんだ、これ以上近づけば感づかれるぞ」


「倒せばいいだろ」


「え? いや……まぁ、そうだけど」


 戦闘は避けたいんじゃなかったんだろうか。俺の視線に彼女は答える。


「ここら辺にいるのは一匹じゃねぇんだ、こんな遠くから遠回りして進めるかよ」


 そう言って、彼女はずんずんと進んでいく。ぴくり、キバトラの肩が動く、ゆっくりと頭がこちらに向く……目が合った。


「おい、どうする気だ。ここらじゃ高レベルだぞ」


「あ? だから倒すって言ってんだろ」


 依頼書の対象よりかは、まだ勝機はあるだろうけど。キバトラの推奨レベルは最低でも30以上。確か、この子のレベルは22じゃなかったか? 俺は適正レベル以上あるが、その高い攻撃性のため、あまり相手をしてきてない。


 キバトラは立ち上がり、首をもたげて、そろり、そろりと動き始める。


「お前、倒せるのか? 俺はあまり得意な相手じゃ―」


「うるせぇな、黙って見てろよ」


 任せていいのか……? 俺は立ち止まったが、彼女は依然キバトラに向かって歩いていく。キバトラの方も完全にこちらをターゲットに決めたらしい、軽快な動きで駆け出す。素早くこちらに向かってくる。


 風のような獣が駆けて来る。


 ダンっと、草を飛び散らしキバトラは彼女に襲い掛かった。危ない! 


 思わず目を逸らしそうになった時、キバトラの胴体が真横に吹き飛ぶ。


「え?」


 きらりは身を屈めるとすぐさま追撃を繰り出す。素早い相手だ、なかなか当たらない、と思いきやキバトラは避ける一方で、やがて二撃目が当たる。


 そのまま待っていると、そのうちキバトラの首を引っ掴んできらりが帰ってきた。


「魔石とって」


「……いや」


 自分でやれよ。


「汚れるから嫌」


「倒したら消えるだろ……」

 

 まぁ、魔石の剥ぎ取りは慣れないと難しい、魔法体とはいえ、獣の肉の中をぐちゃぐちゃに荒らしながら魔石を探すのは心が折れる。

 

 力なく垂れさがる体から難なく魔石を取り出し、キバトラの肉体が消えていく。


「ほら、魔石」


 彼女は仏頂面に受け取り、懐の小袋にしまった。


「お前、本当にレベル22か?」


「は? オレが嘘付いてるっていいてーのか?」


 なぜ喧嘩腰。


「今のは推奨レベル30は下らない。実力は、それ以上にあると思った」


「……まぁ戦闘力はあるさ。足は引っ張らないって言ったろ」


 ふむ。少しだけ、今回の依頼の成功に少し光明が見えた気が……いや、無理か。彼女は一回目と二回目もいて、それでも失敗してるんだから。


「そうか。じゃあ対象相手の時もアテにしていいんだな」


 彼女は涼しく受け流す。


「ふん。偉そうに。お前は役に立てよ」

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