まつろわぬ日々。。。

藍染クロム

1.Lv.34 依頼”継の花討伐”

1.Lv.34 斡旋

「なぁあんた、暇ならこれ受けてやってくんねぇか?」


「あ?」


 稼ぎの良い依頼を探していると、受付のお兄さんから一枚の依頼書を見せられる。なになに……、


「レイド討伐”継(つぎ)の花”、対象レベル推定44、定員七名……」


 すでに一名の氏名が書かれているが、それは一名の参加が決定されているということだ。

 ”レベル44”か……回してもらって悪いが、きついな。


「すまんが俺のレベルは34なんだ」


「それくらいならまだ何とかなるだろ?」


 確かに、レイド戦は自分のレベル以上とも戦えるのがメリットだ。だが、このレベル差だと俺の役割は補助一辺倒、すでに他が適正帯で埋まってるのなら謝り倒して入れて貰う、って感じだが。


「頼むって。何とか付いて行ってやってくれよ。女の子が一人でも行くって聞かねぇんだ」


 ……付いていく? 依頼を受けるときに使う表現じゃないな。


「女の子?」


「ほら、既に名前が書いてあるだろ?」


 まぁ、書いてある。流暢な筆記体で……なんて読むんだ? 

 女の子……もし、その子が適正レベルなのなら、わざわざ受付の彼が声をかけて集めてる必要もない。つまりその子も適正レベル以下。


「なら猶更付いていけねーよ。他の高レベルを当たってくれ」


「それが……集まんねぇんだって」


「あ? なんで」


 依頼書からは読み取れない。先客に女の子は居るが、一人くらいならまぁ、華がある程度で歓迎されるだろう。人が集まらないのはなぜだ?

 

「すでに二回……失敗してんだ」


 もう一度依頼書を見直す、確かに再発行の印はある。だが珍しくはない。人員の不足だったり、必ずしもマイナスの要因とは限らないが。


「理由は?」


「分かんねぇ……ただ、二回とも、この女の子が行っててさ」


 ……戦犯か?


「その子のレベルは」


 彼は気まずげに顔をそらす。


「……22」


「やってられるか」


 掲示板に目を戻すと彼は必死になって引き留めてくる。


「なぁ頼むって! 他の誰も受けちゃくんねぇんだよ! このままじゃ一人でも行っちまう!」


「死にたい奴は勝手に死なせときゃいいだろ。自殺に付き合う趣味はない」


「なぁ!」


 服を掴まれ、ゆさゆさと、簡単に離してくれる気配はない。


「……それだけ心配なら、そいつの参加を取り消せばいい話だろ」


「それが出来るならやってる……その子、たぶん報酬が出なくても行く気なんだ」


 よっぽどその個体の討伐に執着しているらしい。


「なぁ……頼むよ。その女の子が死なないよう、付いてってあげるだけでいいんだ……」


「……」


 なんで俺が、お守りなんか。


「まだ若い子なんだ……自分の実力も、分かっちゃいない……でもお前にもそんな時期があっただろう? 最初は腕の立つ先輩方に助けてもらったはずだ……でも、この子は。一回目と二回目に来たメンツも全員諦めちまって、その子だけが頑張らなきゃって意思で残ってる……」


「そいつが足手まといだったんじゃないのか?」


「そうかもしれない……けど、でも」


「その子さえ入ってなきゃ、他の冒険者が依頼を受けてくれるかもしれない。そう言って諦めてもらったらどうだ?」


 彼は重くため息をつく。


「誰も来なかったんだ……」


 まぁ、二回バツがついた依頼書だ。俺なら触らない。軽く人が集まるようなレベル帯でもない。


「今日、その子が来て、まだ誰も受けてないのを確認して、それから名前を書いた。これはオレの責任だって……。締め切りは今日で決行は明日。このまま誰も来なかったら、あの子は一人で行っちまう……だからよぉ! なぁ……頼むよ」


 最後は掠れるような頼み方だった。


 はぁ……ったく、厄介なのに掴まっちまったな……。


「貸せ」


 依頼書を引っ手繰って自分の名前を記入した。


「……え、え!? 受けてくれんのか!?」


「貸し一つ。今度割のいい依頼でも融通しろ」


「お前……いい奴だなぁ!」


 感激したように俺の手を掴み、上下に振ってくる。暑苦しい。


「言っとくが補償はしないぞ。本来なら俺の手に負えるレベルじゃない」


「それでいいよ! お前も気ぃ付けろよ! 成功しなくていい、なんて言える立場じゃねぇが、一番大事なのはお前らの命だからな!」


「おう」


 仕事が決まればもうここに用はない。意識が他の場所にずれ始める……と一つ忘れていた。


「おい」


「え、な、なんだ……? やっぱやめた、なんて言わない……よな?」


 貰った依頼書の写しを突きつけ、指をさす。


「これ、なんて読む?」


「これ……? どれだ?」


「この子の名前だ。分かるよな?」


 あぁと、彼はすんなり教えてくれ


「その子の名前は、”あるとはいどきらり”」


 あるとはいどきらり。響き的にハーフか。

 

「黒いローブをまとった金髪の女の子さ。負けん気は強いけどかわいい子だ、見ればすぐに分かるよ」









「誰だテメェ」


 負けん気が強いっていうか柄が悪いな。


 ”鳴きの草原”。人里にほど近い未開域に位置する、隆盛がなだらかな草原地帯だ。当然、魔物の支配する土地でもある。


 依頼書の指定の場所に来てみれば、前評通りの少女が立っている。


「お前がきらりか?」


「あ? 気安く名前で呼ぶな」


「名前?」


 ……あぁ、”アルトハイド”の方が姓か。紛らわしいな。……ん、アルトハイド?


「てめーも依頼を受けてきたのか?」


「あぁ、冒険者の秋月だ。呼び名は、アルトでいいか?」


 俺の問いかけは聞こえたのか、少女は周囲を見渡す。誰も居ないなだらかな草原の上だ、丘の頂部に置かれたマーカーを除けば他に特徴もない。


「他には? 来たのはあんただけか?」


「時刻までに誰も来なければ、俺とお前の二人だろうな」


 俺も依頼所に訪れたのは早い時間だったが、最終日である。これ以上の援軍は期待できなさそうだ。少女は嫌そうな顔をする。


「秋月、レベルは?」


 聞こえていたらしい。


「34」


「雑魚じゃねーか」


「じゃあお前のレベルも言ってみろよ」


「……22」


 これも聞いていた通り。よくも俺に雑魚だとか言えたな。


「でも実力は足りてる、足は引っ張らねぇ……つもりだよ」


 どうだか。自覚がないのか、はたまた実績が足りないのか。どちらにしろこの二人では、推定45の討伐対象とは戦えまい。戦力は足し算ではないのだ。


「どうする? 諦めて帰るか?」


「あ? 来たばっかなのに何言ってんだお前。やる気がないなら一人で帰れよ」


「お前が諦めりゃ俺も帰れるさ」


「はぁ?」


 まぁ、ここは彼女の方が正しい。来たからにはやる気の下がることばかり言っていても仕方がないだろう。まずは現状把握から、諦めるのは情報が足りてからでもいいだろう。


「対象の情報は? 知ってる限りで教えてくれ。お前は見たんだろ?」


 少女はまだ不服そうだったが、俺が目的地の方へ歩き出すと渋々語りだす。


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