番外 -しずく

「みてみてふーくん! なにあれ! きれー!」


 陽も落ちた草原の夜。明かりを灯さなければ暗闇が広がり、生暖かい風が草をかき分ける。


 そんな夜の空に光が灯る。星々ではない、もっと近く、雲より近く、無数の光点が空を泳ぐ。


「準精霊種だな」


「じゅんせいれい?」


「呼ぶなよ、一匹でも手ごわい奴らだ。それがあの数、囲まれたら死だな」


 仲間か、同じ群れなのだろうか、精霊たちは似通った容姿、それぞれの色で空を自由に舞っている。


「準精霊ってなに?」


「龍脈の塊に、意識が芽生えたのが精霊種。準聖霊は、その中でも、体の一部が常に現象として放出されてる奴らだな」


「……?」


「火の龍脈なら火を纏う、雷なら雷を、風なら風をってな。面白いのは、現象として放出したそれらも体の一部ってことで―」


「えぇと……」


 明らかに付いていけてない顔だ。専門的な話はやめとこう。


「溶けかけた氷みたいなもんだ。溶けて、水になってる部分までが一体」


「なんとなく分かったかも……」


 空中を舞う光に目を凝らせば、それぞれが自分の個性を纏っているのが見える。

 彼女は見惚れたようにそれらを眺めていた。


「なんか、魔法の標本市みたい」


「そりゃ分かりやすくていいな。言葉が通じるなら頼んでみるといい」


「お話は出来ないの?」


「出来る奴は出来るんじゃないか? 失敗した時の腕っぷしは必要だけど」


 ふーんと、彼女は分かったような分かってないような返事をする。


「一体持って帰ってペットにしていい?」


「やめよう? 危ないよ?」


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