2.Lv35 依頼”飛び級試験補助”
2.Lv.35 押し掛け
「先輩!」
掲示板に向かう途中、背後から声を掛けられる。周りにこれといった人影は居ない、ちらりと後ろを見れば、その子と目が合った。
「先輩!」
再び前方を向くが俺越しに誰かを呼んでいるわけでもない。立ち止まり、そちらに体を向ける。
「金なら無いぞ」
「なっ、いきなり何ですか?」
「お前こそ誰だ」
声を掛けてきたのは一人の女の子。背丈は俺より頭一つ分小さく、豊富な金髪を頭に蓄えている。きらりのイメチェン……ではないだろう、声が違った。
「俺はお前みたいな後輩は知らない」
「先輩なら依頼を手伝ってくれるって、きらりちゃんに聞きました!」
……あいつ。人を安く売るんじゃねーよ。
「……レベルは?」
彼女は元気よく答える。
「13です!」
「そうか。頑張れよ」
「あっ、ちょっと待ってください!」
「すまんが足手まといを育てる趣味はないんだ」
切り上げようとしたが掴まれる。
「で、でも! きらりちゃんは手伝ってくれたって……」
「あれはレベルは低いが戦闘力で言えば俺にないものを持ってる。お前もそうか?」
「いえ! レベル相応です!」
「そうか。じゃあな」
「あ、あ、あの!」
ぎゅーっと、金色のもふもふが俺の服を引っ張って止める。冷たい目を向けてやる。
「あの……きらりちゃんが……きらりちゃんが、わたしのような足手まといでも、手を貸してくれる優しい人だって……言ってたんです」
「そうか。だが俺はそんな都合の良い人間じゃない。あいつの見込み違いだったな」
「そう……ですか」
彼女は俺の服から手を離す、握られてしわしわになっている。彼女はそのまま力なく項垂れる。
「お手を煩わせてしまって……すみません……また、他の人に当たってみます……」
……えぇと。状況としてはこうだ。
きらりに何やら俺のことを吹き込まれたふわふわは、藁にも縋る思いで俺の手を借りに来たようだ。だが勘違いだと分かり手を引いた。
見た所、そんな不躾な人間ではない。あれと違って。今回の件は俺を甘い汁だなんだと教えたきらりのせいだ、この子は悪くない。だが俺は冷たく振り払い、この子は徒労に終わることになる。
「あの……行かないんですか?」
犬みたいにしょぼくれた少女を見る。俺はこのままこの子を返してしまっていいものだろうか……もちろん俺に過失はないのだが、この子だって悪くない……はぁ。
「何しに来たんだ」
「え?」
「話は具体的に言え」
「え、てっ手伝ってくれるんですか!?」
「俺に利があるようだったら―」
「ありがとうございます! そちらの席に座って話しましょう!」
え、いや、手短に、てか俺の話を聞いてくれない、ぐいぐいと羊みたいな金髪の少女に引っ張られ、併設されたテーブル席へと座らされる。
「あの、わたしゴールドシープって言います! ぴちぴちの冒険者やってます!」
名乗っちゃったよ、どんどん帰りづらくなるな……。
つい、もふもふにウェーブの掛かった、彼女の豊富な毛に目が行く。
「まんまだな……」
「この髪なら遺伝ですよ。ご先祖さんがそう呼ばれていたんですかね」
ふーん。今日のご飯何にしようかな。
「聞いてます?」
「お前の話を聞いて、俺にも利があるようなら乗ってやる。そうじゃないならお前を置いて、俺はいつもの依頼を受けに行く」
「りがある?」
「お前は13、俺は35レベル。普通に依頼を受けたなら俺一人の方が稼げる。お前の話に俺が乗ったことで、どんなメリットがあるか考えて話せってことだ」
金羊は肩に手を当てて、自分の体を見下ろす。
「からだが目当てですか?」
「帰っていいか?」
「おや熟女好きだったか」
「話は終わりだ」
「まぁまぁ待ってくださいよ。あっすみませーん! 注文いいですかー?」
俺が脇に置いた荷物を勝手に彼女があっちに寄せる。足で。ぶっとばすぞ。不躾でないという評価は誤りだったようだ。
「はやてさんも何か食べますー?」
名を知られている。
「奢りますよー」
「……要らん。お前に貸しは作りたくない」
「じゃあ割り勘ですねー。あ、これと、これと、これとこれとこれと―」
いくら食べる気だよ……まぁいいや。
「さっさと話せっつってんだろ」
「ここのアップルパイ美味しいですよ?」
彼女がメニューを見せてくる。
「あったかーい生地に、冷たいアイスが乗ってくるんです。ふわふわで甘くて、口の中幸せになっちゃいますよ?」
……聞いちゃいねぇ。また面倒なのに捕まったか?
「……それ、俺にも一つ」
「あ! はやてさんも甘いもの食べるんですね!」
「うるさい。割り勘なら俺も何か頼まなきゃ損じゃねーか」
「あはは! さすがに何も頼まなかったら、それは私が一人で払いますよー」
「……」
彼女はけらけらと笑っている。店員さんは和やかな雰囲気で彼女を見守っている。なんだと思われてるんだろう。まぁ……いいや。
「あとカフェオレ一つ」
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