2.Lv.35 -2 依頼内容

「飛び級試験っていうのを受けてるんです」


「飛び級試験?」


「はい! レベル20の!」


 彼女は今、レベルは13だと言っていたか。


「受かる見込みは?」


「概ね大丈夫だと思います!」


 自信はまぁ、ありそうだ。ならレベル20前後の実力は見込んでいいか。


「なんで受けようと思ってる」


「きらりちゃんとよくパーティー組んでるんですけど、やっぱり私のレベルが足を引っ張ってて……」


まぁ、初心者帯と、初心者抜けて中級者入ったくらいか。


「他の子と組めば? あんま差があるようなら、どっちにとっても良い事ないぞ」


「同年代の女の子って、あんま居なくて……ここに来た時、初めてきらりちゃんの方から、声を掛けてくれたんです……それから、右も左も分からない所から教えてくれて……」


 あいつも大概お人好しだな。


「冒険者には、最近なったのか」


「はい……だから、きらりちゃんの他に組んでくれる人も、居ないかなって……」


 魔物の討伐をする以上、自ら死の危険を増やす奴は居ない。異性に飢えてる奴はまぁ、居るだろうが。


「きらりちゃんのレベルに、追いつきたいんです」


 実力がレベル20前後あるなら、ギルドからの評価なんて有っても無くても一緒じゃないかと思うかもしれないが、額面上の評価とは意外と馬鹿にならないものだ。特に、初対面の相手なんかには。

 だが、きらりにレベルで追いついたところで、だ。


「あいつは知能を除けばもっと高レベル帯に行けるぞ」


「あはは、だから急いでレベル上げてるんじゃないですかー。なんでそんな事も分からないんですかー?」


 落ち着け。八つ当たりは今度きらりにしよう。


「……お前は俺に、何をしろって?」


「飛び級試験の実地試験に、監督官ってあるじゃないですか。あれをはやてさんにしてもらいたいなって」


 監督官……そんな仕事もあったな。ギルドの受付が担う場合もあるし、手が足りなければ、冒険者の中で募集が掛かる事もある。もちろん、俺が受ける場合、ギルドから報酬が出る。額はそれなりに出てた気がするが、慣れてないのであまり手を出してない。

 まぁでも、今のところ俺が損をする話って訳でもない。


「俺が試験官になってどうすんだ? 内容は誰だろうと変わらんだろ」


「はやてさんが試験官なら、答えを教えてもらえるじゃないですか?」


 こいつ……。


「堂々とカンニング宣言か? ギルドの席だぞ」


 依頼の板は、ここからでも見える位置にある、受付も。


「あはは違いますよ、人聞きが悪いなー。試験時間以外で教えてくれるなら、ズルじゃないでしょ?」


 あー……つまり、飛び級試験の監督官やって、その内容の先生をやってくれと。いやどちらかと言えばズルくない?


「実地以外は、大丈夫なのか?」


「私、頭はいいんです! 地力で覚えました!」


「そりゃえらい」


「えへへ」


 冒険者はどっちかって言うとフィジカルのほうが大事だけど。


「教授の方は、私からお礼をお出しします……あんまり、手持ちはないですけど。お金がいいですか? それとも体で?」


「おかね」


「わははは!」


 何がつぼったのか、彼女はけたけたと笑う。


「即答ですかー? ちょっとくらい迷ってくれたっていいじゃないですかー」


「要らない」


「わたし傷ついちゃいますよー?」


「大丈夫だと思う」


 ウェイトレスの人が頼んでいた料理を持ってきてくれた。俺の前にアップルパイとカフェオレが並び、彼女の前に数多の菓子類の皿が並ぶ。


「そんな食べれんのか? お前」


「冒険者はカロリー使うんですよ? 運動すればカロリーゼロです!」


 せやな。代謝が良いのだろうか、だが食べてる割に筋肉質には見えない。また特異体質だろうか。


「お腹だって出てないです。見せてもいいですよ!」


「要らない」


 ……お腹か。


「それで、結局私の話は受けてくれるんですか? もう大体話せること話しましたよ」


 ……ん?


「肝心の報酬額、聞いてないけど」


 彼女が気まずげに顔を逸らす。手元に紙とペンを取り寄せ、何やら書いて、紙を伏せてこちらに押してくる。

 めくって見てみれば―


「……しょっぱい」


「甘味ならありますよ……」


「そういう意味じゃない」


「私のも、食べていいですから……」


 そう言って、皿の一つを押してくる。割り勘だぞ。


「だめ……ですか?」


「拘束時間の割に……報酬がしょぼいな……」


「ほら、最後にいっぱいもらえるじゃないですか」


「それ払うのギルドだろお前」


 彼女は信じられないという顔をしてみせる。わざとらしい。


「え……? もしや、ここまで聞いたのに、引き受けてくれない……? あることないこと……言いふらしちゃうぞ?」


「マイナス五点」


「うっ」


 額は、合計で言えば悪くはない……手間を考えなければ。なんだかんだ押し込まれた気がするが、別に俺を一方的に利用しようって奴でも無かったようだ。この子も悪い子じゃ……まぁ子悪党ぐらいはありそうだが、悪い奴ではなさそうだ。あいつも手を貸しているようだし、俺が手助けして悪い事態にもならないだろう。

 はぁ……新人の育成も、冒険者の仕事のうちか。仕方ない。


「試験の方は、一ミリも容赦しないからな」


「……え!? ってことは引き受けてくれるんですか!?」


 気は乗らない。でもまぁ、ここまで聞いて引き受けないのも、なんか気持ち悪いしな。


「あぁ」


「やったー!」


 彼女は喜ぶが、ギルドの騒がしいざわめきの中ではそれほど目立ちはしなかった。


「やっぱり押せばいけるちょろい人だったー!」


「あはは、書面で契約を結ぶまでは気を抜かない方がいいぞ」


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