番外 -ふたりその2

「ふぃー……今日は疲れたな……」


「あぁ……体中泥だらけだしな……」


 疲労困憊の体でギルドまで帰ってきた。服は泥をまとい水を吸い、足は重く体も重い……。今日は想定外の事が連続して、肉体的にも精神的にも疲れた……。


「査定頼む」


「おう」


 収集した袋を受付まで届けると、見慣れた顔を見つける。


「やぁはやて君」


「さくらか……なんだ、また金をせびりに来たのか?」


 黒髪の少女はにこにこと俺を見る。


「人聞きの悪い。いつも対価は渡してるでしょ?」


「すまんが今日は疲れてんだ。このあと帰ってゆっくり眠る。納品が済んだら帰る」


「うん。だから、私が必要でしょ?」


 彼女はにこと笑いかけてくる。


「ゆっくり眠りたいでしょ? 疲れてるでしょ? ほら、身の回りのお世話をしてくれる優しいお姉さんが、ここに居るよ」


 どこで聞きつけたのか、ずいぶん都合のいい時に現れるものだ。澱んだ体と脳では、つい手を伸ばすことを考えてしまって―


「何してんだ?」


 と、金髪の少女もこっちに来た。さくらの顔を見つけて、お互いぴくりと動きが止まる。

 きらりは、何事も無かったかのように俺を向く。


「査定は済んだのか? 報酬分けてさっさと帰ろうぜ」


「ものは渡した、後は呼ばれるのを待つだけ」


 つまり待ち時間がある。きらりが、ちらとそちらを見た。


「そいつは?」


「家政婦の押し売り」


 ふん、と金髪の少女は向こうを向いた。


「きらりちゃんも、どう?」


 と、意外にも、さくらはきらりに声を掛けた。きらりは怪訝に振り返る。


「あぁ?」


「初回なら、サービスで無料にしとくよ」


「お前が、なんで」


「汚れた道具の整備とか、その服のお洗濯とか、今日のご飯とか。何でも任せてくれていいよ」


 きらりは小馬鹿にしたような態度で彼女を出迎える。


「ちげーよ。なんでオレがお前にものを頼むかって言ってんだよ。オレがお前を頼ると思うのか? オレの家のことを、お前に?」


 彼女はすいーと視線をずらす。


「ほら。前回あんな感じになっちゃったじゃん」


「……」


「つい……言い返しちゃったけど。あとで振り返ったら……違うんじゃないかって。ああしたかったんじゃなくて……きらりちゃんとは、仲良くしておきたいなって……思って」


 ほんとにー?


「ゆっくり話したらさ。また、なんか変わるんじゃないかって」


 きらりは、落ち着いた声を彼女に向ける。


「オレとお前が、何を話すんだよ」


「何でもいいよ。好きな食べ物の話でも、冒険の話でも、好きな街の話でも、何でも。きらりちゃんのこと、まだ全然知らない訳だし、知りたいなって」


 きらりは黙り込む。


「嫌ならいいよ。別に、押し売りじゃないし」


 きらりは少しの間思案する。


「……友達になりたい、ってことかよ」


「分かんない」


 きらりは冷めた声で続ける。


「普通ならお金取んのか? オレのとこの家事をお前がして、それがお前の求める関係か?」


「仕事が欲しいからあなたに言ってる訳じゃないよ。でも、私はあなたの都合のいい女じゃないから。……別に、対等とは言わないけど」


 さくらは、上手く言葉を紡げずにいる。


「でも……ほら。他に、近づき方が分かんなくて。分かんないけど、きらりちゃんに何かしてあげられたら……何かが、よくなるんじゃないかって、思って」


 金髪の少女は彼女をじっと見つめる。

 やがて、きらりは口を開いた。


「ただって言うんならまぁ、今日の所は使ってやるよ」


 黒髪の少女はそれを聞き入れ、俄かに、少しだけ照れたような笑みを浮かべた。


「うん。ただで使えるのは、今日だけだからね」


 互いに距離を保ったまま、二人の少女は対峙しあう。

 ……ん? あれ? ということは、


「ね、ねぇさくら。じゃあ俺のとこのは?」


 思い出したように彼女は俺の顔を視界に入れる。


「あぁ、はやて君ごめんね。そういう事だから」


 え……俺のとこはなし? あの、俺は楽する気満々だったんですけど! じゃあこの泥だらけの装備誰が洗うんですか? 俺が洗うんですか? 今から自分で!?


「な、なぁきらり、今日の所はうちに泊まらない? そしたらさくらも二人分の仕事出来るしさ、俺とお前が一緒だったら、さくらも楽に作業を―」


「失せろカス」


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