4.Lv.35 -2 滑り出し

「でかい荷物だな」


 待ち合わせ場所に着くと、彼女は先にそこで待っていた。まんまるパンパンのリュックを背中に背負って。


「遠近法だろ」


「同座標だろ。まぁ小さいお前が背負ってるから、でかく見えるってのはあるかもしれんな」


 彼女が歩きだし、俺も続く。


 ここはラテリアから少し離れた未開域の連山地帯。深い緑の山々が幾重にも連なって続いていく。


「そういうにーちゃんは荷物少ないな」


「俺は不要なものはほぼ持たない」


「にしても少なすぎじゃないか?」


 彼女は振り返りながら話しかけてくる。緑の合間に土の道が続いていく。道はうねりながら上へと上がっていって容易には見渡せない。

 

「体力がない。その分軽くしてる。身軽な方が動きやすいし」


「ふーん?」


 道を覆いかぶさり広がる緑の合間から、青空が見える。今日はいい天気だ、予報によれば晴れで安定しているという。


「にしても、他に呼ばなくて良かったのか?」


「あー?」


「神様からの頼み事だか何だか知らないが、俺と二人だといろいろ不安だろ」


「なんだー? 襲う気かー?」


「そういった心配も含めてだ」


 振り返り、彼女はふんと笑う。


「伊達に勇者やってるんじゃないぞー。魔物の身体能力は常人じゃ遠く及ばない。にーちゃんくらいなら組み伏せられる」


「平時は勝てたって、今回の旅路はそこそこ長い。ずっと気を張ってられるのか?」


「人数増やしたらそれこそ安心できないだろ」


「俺一人ならどうにかなるって?」


 彼女の様子はどこ吹く風だ。なめられてるな……レベルは俺の方が結構上なのだが。まぁ来てから言うのもあれだが。


「にしても辛気臭い道だなー」


「廃道だからな」


 枝葉の下を続く道は、途切れてはいないが所々枝が落ちたり木が倒れていたりと散々だ。


「俺は風情があって好きだぞ」


「虫さえ湧かなけりゃなぁ……」


 風が吹けば木々がさざめき、通り抜けていく。そよそよと揺れる枝葉は見ていれば心を落ち着かせる。


「どんくらい歩くんだ?」


「……道案内は俺任せか? 順当に行けば片道で三日程度」


 うへーと、背中で彼女の感情が伝わってくる。


「乗り物でもあればよかった」


「こんな悪路を行けるような動物は、今の人界には居ないなぁ」


「魔物には?」


「魔物? さぁな。居るかもしれないし、居ないかも」


 どっちみち普及はしてない。ギルドの巨鳥は回収専門だし。


「にーちゃん冒険者だろ。魔物に詳しいんじゃないのか?」


 彼女は挑発的に言ってくる。


「友好的な種に関してはあんまり。危険な方なら」


「ここらで出る魔物は?」


「未開域はギルドの管轄外」


「使えねーなー」


 言ってくれる。


「まぁある程度下調べはしてきてるよ。とはいえ、目的地が飛び地過ぎてな。そもそも、ここら辺の生態がまだ安定してない。何が出るか分からん、慣れててもな」


 ざくざくと、土を踏む足音が二人分。枝を踏めば小気味よい音が鳴る、火照る体を気まぐれに吹くそよ風が冷ましていく。

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