4.Lv.35 -5 混ざる道中

「……」


 曲がりくねった山の道。頂上に着いたかと思えば、また次の山へと続く道がそこから伸びる。


「……」


「……」


 土の道を踏む足音は三人分。俺が先頭を歩き、あそび、しずくと続く。


「……」


「いつもこんな静かじゃねーだろ」


 振り返り二人の顔を見るが、不自然に顔を逸らして周囲の警戒への振りをする。まぁいいや。あんなことあった後だし、無理に表面だけ取り繕えと言っても、後からガタが来るだけだろう。


「……なーはやて」


「なんだ」


 声を掛けてきたのはあそびの方。


「さっき使ってた、あれなに」


「あれってどれだ」


「あの、おれを……かばってくれた時に。一瞬、体が、ぶんってなったやつ」


「あぁ、あれな」


 咄嗟だから使っちゃったけど。まぁあれは見られても問題ない部類か。


「陽炎式っていう秘跡の一種だな」


「……秘跡?」


 あー……何て言えばいいんだ?


「武芸版の魔法? みたいな」


「ふーん」


 あそびはそれで納得する。


「それで、そのかげろーしきってのは?」


「聞いたこと無いか? 薄葉一門がよく使ってる流派の一つでな、簡単に説明すると、相手の認識をずらす技だ」


「認識をずらす?」


「例えば、お前の真正面に敵が居たとするだろ? お前はそれに切りかかる、けど、実際に居る場所はお前の斜め前、お前の攻撃は外れる。そういう技だな」


 ととと、と彼女は少し歩みを早め、俺の傍に寄ってくる。


「じゃああの時、はやては最初からおれの目の前に居て、攻撃を食らったから位置がばれたってこと?」


「あー……」


 まぁ、ここまでは話してもいいか。


「俺が使ったのは、それのちょっと発展形でな」


「はってん?」


 んー……どう説明したものやら……。


「陽炎式の流派を極めていくと、相手の認識をずらした上で、相手の認識と自分の居場所が逆転するっていう効果が使えるようになる。俺が使ったのは、そっちで」


「……?」


「んー……起こることから言えば、”自分は瞬間移動して、相手の認識は元に位置のまま”って感じ」


「ふーん? にーちゃん、すごい技使ったんだな」


 上手く伝わっている気がしないな。あそびは面倒くさいと思ったのか流したようだ。


「そうでもないぞ。陽炎式は、割と汎用的な技だし」


「ほんとか? じゃあおれでも使える!?」


「使……えるんじゃない?」


 知らんけど。


「ほんと? じゃあおれにも教えて!」


「あー……習うなら、ちゃんとした一門の人間に学んだ方がいいかも。あと、誰でも使えるって言ったけど、簡単なのは認識をずらす事までで、瞬間移動の方は才能が必要かもしれないな」


 言い募って行くと、段々と、彼女の興味が引いていくことが分かる。


「なんか面倒そうだからいいや」


「……そうか。まぁ、機会があれば覚えると便利かもな」


 と、ぐいと反対側の腕を引かれる、そっちを向けば、しずくも斜め後ろまで来ている。


「私に教えてよ」


「……えっと、どれを? 陽炎式?」


 彼女はいったん間を開けて答える。


「……うん」


「薄葉に聞いた方がいいんじゃない? あっちプロだし。神音ちゃんでもいいぞ」


「は?」


「すみません。でも俺は実演しか出来ないし、ノウハウとか教えられないから見て学ぶしかないぞ」


 しずくはすいーと視線をスライドさせ、空を眺める。


「やっぱいいや」 


「あぁ、そう」


「幻術崩しでまとめて対策されるし」


「がっつり知ってるじゃねーか」


 それで覚えるのやめるならどこ想定で覚えたいと思ったんだよ。

 と、今度はまた反対の手がぐいと引かれる。


「はやては他にもなんか使えるのか?」


「あぁ……まぁ、うん。大体十個くらい」


「十個!? 十個もさっきみたいなすごいのが使えんのか!? ほかに何が使えるんだ!? みせてみせて!」


 あそびが食いついてくれてから思うのもあれだが、話すべきじゃなかったな。


「疲れるからやだ。秘跡……技の発動には、代償が必要なんだ。魔法だって魔力を消費して放つだろ? それと同じ」


「魔力は寝てたら回復するぜ」


「こっちは中々回復しないから駄目だねぇ」


「えー?」


 と、また反対の手がぐいと引かれる。


「何が使えるの?」


「え?」


「秘跡。今、何が使えるの?」


「き……企業秘密です」


「なんで?」


「なんでって……あてにされても困る。常用はしないし出来ない」


「聞くだけならいいでしょ」


「……言っても分からないだろ」


「陽炎は分かったけど」


 なんとなく手の内は隠しておきたいというか……まぁ、こいつ相手ならいいんだけど。と、話しているうちにもう一つの手がぐいと引かれる。あそびちゃん? 一度に両方引っ張らないで? 歩きにくいよ?


「どうしたの?」


「教えて」


「どれを?」


「にーちゃんのそれ」


 どれだよ。奥の手か?


「……教える気はないぞ。もう使う気もない。さっきのは非常時だ」


 と、しずくが腕を引っ張る。 


「ふーくん今日のご飯なに?」


「言ってもいいけどいったんこの陣形解除しない?」

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