4.Lv.35 -6 他愛もない

「ねぇ、これ何しに行ってる最中なの?」


 空気が澱んできた、空は灰に濁り、生ぬるく、湿った風が頬に当たる。山の中も薄暗い、まだ日は高いはずだが、日が落ちた後だと言っても差し支えないくらい光は閉ざされている。


「ギルドの依頼」


「聞いた」


 詳しく言えと?


「未開域の現生調査。目的地点は、人界の拠点になりそうな、古い山城の跡地まで」


 しずくは首を傾げる。


「もう帰っちゃダメ?」


 いいわけねーだろ。帰るなら一人で帰れ。


「依頼終わってないから駄目だよ」


「その子だけ返してさ、もう一回とか」


 しずくは、どうやらこの子だけを一度返したらしい。まぁ、しずく目線で言えば、あそびの同行はそこまで重要には見えないな。


「それだと一回失敗扱いになるな」


「でも、危急の依頼じゃないんでしょ?」


「やだよ。失敗したら信頼度下がるじゃん。それでレベル下がったらどうすんだよ」


 彼女は膨れる。


「別にいいじゃん。三十いくつかあるんだし、少しくらい」


「35だ」


「あれ、36じゃ無かった?」


 覚えてるじゃねーか。


「下がったんだよ一回」


 ぶっきらぼうに返すと、「んー?」と、彼女は首を傾げる。


「ふーくん何やらかしたの」


「シーズン終わりの切り替えで、期間内の貢献度が足りなかったから下がったんだよ。別に何も悪いことはしてない。……強いて言えば、ちょっと手間の掛かる割に、効率の悪い依頼を受けてた、とか」


 彼女がにやーと俺を見てくる。


「また手伝ってあげよーかー?」


「……レベル二十いくつが、何を手伝うって?」


「そんなんじゃ深層入りはまだまだ遠いねー」


 何がそんなに楽しいのか、彼女はけらけらと笑う。


「私はだって、本業は勇者だしー?」


「そんじゃ、お偉い勇者様のお前は、一体どれくらいのレベルに居るんですかね」


「勇者にレベルとかないよ。勇者は実績しか見られない」


 彼女はすんと澄まして答える。


「その実績とやらは? お前のは華々しいものなのか?」


「魔王の討伐数? なら、3だけど」


 聞いてもピンと来ねーな。あそびの方を見れば、おれに聞かれても、といった顔をされる。


「すごいのか?」


「全然。討伐したのも全部獣型だし。私の立場はサポートよりだしね。関わった現場でいえば、もっと多いけど、直接はそれだけ」


 まぁ、そうだな。勇者と聞けば最前線のがちがちの武闘派を思い浮かべがちだが、彼ら彼女らをそこに送り出すまでにも様々な人の力が要る。あれサポートさんさっき制圧に来てなかった?


「でも、討伐はしてんだな」


「危ない子はそりゃね」


 討伐出来てるんならすごいじゃん、の意味で言ったつもりだが、彼女には別に聞こえたらしい。


「……お、おれは、危なくないぞ」


「え? あぁうん、もう大丈夫だから。もう襲う気はないって」


 しずくがあそびの方を見たようだが、まだ警戒は解いてないらしい。あそびは俺の陰に隠れるように移動する。まぁさっきの今だしな。しずくとあそびの間に微妙な空気が流れる。


「晩御飯何にするかなー」


「ふーくん空気」

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