番外 -しずく
氷のような石、透き通った結晶、触れれば冷たく、しかし指の熱に溶けて水が滲む様子はない。
「美味しそー」
「間違っても食べるなよ」
清流で石を漱ぎ、ぱっぱと水を切る。
「食べるとどうなるの?」
「魔物になる」
「魔物に?」
「魔石が体内で定着化して最初のコアになる」
ふーんと、彼女は分かったような分かってないような返事をする。
「魔物はみんな、そうやって魔物になってるの?」
「さぁな。ただ、龍脈の浸食による体の変異の対策に、魔物化は有効なんだ。分かっててそうしたかは分からんが、きっとそうやって魔物になったやつが多く生き残ってる」
「てきしゃせーぞん」
「急にどうした?」
彼女は清流に足を浸し、ぱちゃぱちゃと水を散らす。
「人間も?」
「人間の多くは、変わらない事を、今まで通りである事を望んだ。今も、好まれているのは純度の高い人間だ」
「どうして人間の魔物は増えなかったのかな」
「さぁな。案外向いてないのかも。俺たちは、魔物には」
水の底をさらい、敷き詰められた岩や石の中から透明な石ころだけを摘まんでいく。
「ふーくんはどう思う?」
「何が?」
「ふーくんは、魔物になりたいって、そう思う?」
見上げると高い位置に太陽があり、雲一つない青空が枝葉の切れ間から見える。
「今の人界で生きていくには、魔物はまだ生きづらい」
「でも、冒険者として生きてくなら向いてるかも。強い冒険者の中には、自分から魔物化を進める人も居るんでしょ?」
気になって、彼女の顔を振り返る。
「強くなりたいのか?」
彼女も俺の目を見ていた。
「魔物になれば軽く強い力を手に入れられる。お前はそれを知って、魔物化に興味を持った。だからそれがどんなものか、俺に聞いてきたのか?」
彼女は何も答えなかった。
「だとしたらやめとけ。俺はやって欲しくない」
「なんで?」
「なんとなく」
彼女はすいーと視線をずらす、その先には、恐らく枝の先にとまった小鳥の姿が見えている。黄緑の体毛に白黒の斑点、森の深いところでよく見かける種だ。
「別に。きょーみなんて無いし」
「そうか。ならいいんだ」
ちちちと小鳥が飛び立ち森の中を過ぎ去っていった。すぐに森の緑に紛れ、分からなくなる。
「あっ!」
「どうした」
「見て見て!」
彼女が手のひらにそれを乗せて見せてくる、それは今回の納品指定の魔石なのだが。
「ハート形!」
まぁ、そう言われればそう見えなくもない、特徴的な形をした石だった。随分と丸々としたハート形だ。
「買取の価格に形の良さは関係ないぞ」
「いやいや。これ私のだし」
「……持ち帰る気か?」
「あげませんけど」
……まぁいい。こいつが一つ二つくすねた所で俺の買い取り額は変わらない。
「食べるなよ」
「何言ってるの? これは大切に愛でる為にあるんですけど」
「人それぞれだろ」
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