番外 -しずく

「やぁふーくん」


 扉を開けると見慣れた顔が。


「遊びに来たぜ」


「……部屋何もないぞ」


「ふーくんで遊びに来たぜ」


 特に遠慮もなく彼女は部屋に上がってくる。


「なにしてたの?」


 彼女は部屋の隅に置かれたソファに飛び込み聞いてくる。


「本読んでた」


「これ?」


 と、彼女は机からそれを取り上げる。


「図鑑だ」


「新装版が出たんでな、確認してた」


「マメだねぇ」


 彼女もぱらぱらとめくるが、真面目に読んでいる様子は無さそうだ。


「お茶!」


「はいはい」


「あとお菓子!」


「そこにあるぞ」


 彼女はソファに座り直し、本を構える。


「読むのか? それ」


「重要なとこ教えてよ」


「今確認してたんだが」


 彼女はソファの隣を片手でポンポンと叩く。


「読んで」


「忙しない奴だな」


 淹れたお茶をテーブルに置き、彼女の隣へと座る。少しだけ低い位置から、彼女はくいと頭を傾げる。


「はやく」


「どこ読んで欲しいんだよ」


「重要なとこ」


「今確認してるって言ってるだろ」


「変わってない所でもいいから」


 と言っても、ギルド発行の生態図鑑であり全てのページに重要な所が……まぁ、最初から読んでいくか。


「ほら、ちょっと貸せ」


「だめ。私が持つ」


「……最初のページ」

 

 言うと、彼女は素直にそこを開く。


 すぐ傍に感じる彼女の体温と匂いにドギマギしながら、ページをめくり、一つ一つ指し示していく。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る