番外 -しずく

 緑の屋根が空を覆う。青く茂る枝葉は若々しく光を散らし、地面には揺れる影が映る。遠くに見える青空は深い色をしていて眩しい。少しじれったいような熱を風が運んでくる。青臭い木々の匂いが俺たちの間を流れていく。


「もうすぐ夏だねぇ」


 彼女もまた空を見上げてぼやく。


「また暑くなるのか」


「ここらは涼しい方だよ」


「夏は暑いから夏なんだよ」


「ふーくんが訳分かんないこと言ってるよ」


 去年の落ち葉の残りを踏みにじり、木々の合間を歩いていく。


「今年も一緒に居たねぇ」


「……なんだよ」


「いやぁ、来年も一緒にいるのかなと。去年は考えていた訳ですよ」


 まぁ、何かあった訳でもない。何も無かったから、去年と一緒だっただけで。


「来年も一緒に居れますかいねぇ」


「努力は?」


「しなーい」


「なら、まぁ」


 草葉の間においしい茸を見つけたので、屈み、籠の中に放り込む。


「運が良ければ、また一緒に居るんじゃないのか」


「運が良ければ?」


「悪い方か?」


 問いかえると、彼女はあらぬ方を向きながらにひひと笑う。


「来年も一緒に居るよ。運が良ければ」


 わさわさと、二人の足音が地面を砕く。


「さっき何拾ったの?」


「食べるキノコ。美味いやつ」


「幸先いーじゃん」


「大事だと願った途端、叶わなくなる気もするけどな」


「また縁起でもないこと言うー」


 見つけた茸が一人分だったことは、言わなくてもいいか。


「まぁ、運が良ければ来年も一緒だろ」


 立ち止まり、彼女が振り返る。気の抜けた笑みを浮かべていた。


「運が良ければねー」


「……あぁ」


 草木の合間を、自然に見つめられながら歩いていく。


「努力はー?」


「しない」



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