第3-6話 「軌道エレベータと堂島」

 建設参加の許可が下りると、様々な調整や現場確認のため、タカフミは一足先に宇宙に出かけた。その間、堂島1曹は「軌道エレベータ」へのシールドマシン搬入を進めていた。

 「軌道エレベータ」は、文字通り、物資を衛星軌道に持ち上げるエレベータだ。

 「星の人拠点」周辺を伐採・整地して、敷地を拡張した。そこに1枚の「鉄板」が置かれている。1辺20メートルの正方形で、中央に直径2メートルの円筒が設置されている。これが「軌道エレベータ」だ。

 この「鉄板」の上で、2台のシールドマシンの組み立てが行われていた。マシンは巨大なので、部品に分解されてここまで運ばれてきたのだ。クレーンが巨大な輪っかのような部品を吊り上げ、作業員と連携して接続していく。マシンの先頭には緑青色のカッターヘッドが取り付けられている。

 日が傾く頃、2台の組み立てが完了した。

 続いて、建設艦隊の隊員が、マシンの固定を行う。カーキ色の服を来た兵士が10名ほど。見ると全員女性だ。みんな、どういう気持ちでこの仕事を選んだんだろう?彼女たちの作業を見守りながら、堂島は4年前のことを思い出していた。


          **


 子供の頃から空手をやっていた。体を動かすのは好きだし、試合に臨む時の没入感、目の前の戦いだけに集中していく瞬間も好きだ。体と精神を鍛えてきたことは、自分の心の拠り所にもなっている。

 でも、もう少し女の子らしくすべきかな、と悩みだした高校生時代に、「星の人」とのファーストコンタクトがあった。

 テレビに映る美少年を見て、息を呑んだ。こんな美しい人がいるんだ、と衝撃を受けた。金髪の子が愛想よく微笑む隣で、超然とした態度で歩く姿も、なんてかっこいいんだと思った。

 どことも分からない異星から来た人、謎めいた存在であることが、更に関心をかき立てた。猛烈に憧れた。少しでも、ほんの少しでもいいから、出会える確率を高めたいと思って、航宙自衛隊に入隊した。

 念願かなって「記者会見」でマリウスに会えたが、長髪をなびかせた姿に愕然とする。勝手な話だが、酷い人だと思った。整った顔は更に美しさを増して、見つめられたら肌が粟立ってしまうような、凄みすら感じる。世の中から超越して存在しているような無表情も健在だ。なのに女の人になってしまうなんて、酷過ぎる!

 そう思って一人悶々としていたが、そこでふと気づいた。「マリウス」は男性名じゃないのか? 調べてみると、ローマ神話の戦神マルスが語源らしい。

 そうだ。マリウス司令は、立ち振る舞いや話し方も毅然としている。第一、「星の人」の性別は誰も確認していない。詳しいことは何も分かっていないのだ。

 ネットを見ると「マリウスは男だ」と信じる人は結構多いことが分かった。投稿を読むうちに、司令が男なのは間違いないと確信するようになった。信者によって「マリウス司令は男の子同盟」(CMBU)が結成され、堂島は(もちろん個人情報や職業は隠して)設立メンバーになった。

 駅建設を航宙自衛隊が支援することが決まると、堂島は真っ先に志願した。

 宇宙に行けば、マリウス司令と会う機会もあるだろう。一緒に食事するとか、休みの日に話すとか、出来るかもしれない。何とかして性別を確かめたい(できれば、男と証明したい)。

 不安はある。なにしろ宇宙なんて初めてだ。トンネル掘削だって分からないことばかり。でも、不安よりもマリウスのことを知りたい気持ちが勝った。

 堂本は拳をぎゅっと握りしめた。いざとなれば、障碍はこの拳で粉砕するのみ!

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