星の世界へ

第6-1話 「稼働後の予定」

 対話は中断されてしまったが、それでも「星の人」への懸念は薄らいだ。

 メンバーと対話するマルガリータの姿が報道されたことで、「同じ人間である」という共感が広がったのが、奏功したのだった。

 一方で、謎もまた深まっている。

 「播種船」を送り出したのは、どんな人々だったのか?

 植民は、いつから行われているのか?

 そして、どの星が、人類の生まれ故郷なのか?

 「星の人」への関心は、再び大きく盛り上がった。

 マリウスの負傷については、左手に包帯を巻いた姿が報道されたが、返り討ちにあった襲撃者側の詳細は何も公表されていない。

 襲撃者がPSS("太陽系の守護者")のメンバーであるという噂や、C国がPSSに資金援助を行っている疑惑が浮上した。

 しかしC国は、PSSへの援助も、対話の襲撃に対しても、関与を否定した。

 そのうえでC国は、「星の人」の大型艦(エスリリス)が大気圏内に降下し、ソレイユ号とニアミスしたことに、「深刻な懸念」を表明。

 「星の人」の活動に伴い被害が発生した場合、それは活動を支援する日本の責任である、と主張するようになった。

 外圧を受けて、日本政府は揺らいだ。この主張をきっぱり否定することが出来なかったのだ。

 その結果、タカフミには、「トンネル掘削が完了したら、直ちにマシンを引き上げ、撤収するように」という命令が下された。


          **


 対話襲撃事件の後の、エスリリスでの士官会議。

「襲撃者は、引き続き警察で取り調べを受けています。慎重に調べる必要があるということで、当面は情報が公開されることはないそうです」

「怪我した人は大丈夫ですか?」

「天井にぶつかった人が一番重傷でしたが、なんとか回復したようで」

「それは良かったです」

「それで・・・」と言葉を濁して、タカフミは手元のノートを見た(紙のノートを使っているのは、タカフミだけだ)。

「トンネル掘削が終わったら、マシンを引き上げて、撤収するように、命令を受けました」

 そう言って、マリウスを見る。

「困りますか?」

「困る。前にも言ったが、トンネルとレールの他にも、作らなくてはならない施設がある。アウロラを掘削してそうした施設を設置する時に、シールドマシンを使いたい」

「そうですよね!」

 なんだかタカフミは嬉しそうだった。

「トンネルだって、いざレールを設置しようとしたら、追加の掘削が必要かもしれないですよね」

「そうだな」

「分かりました! ちょっと上と交渉してみます」

「なんだよ。やけに物分かりがいいな。『星の人』を怒らせないように、とかいう条件が付いているんだろ?」

「いや、そういう訳では」

「タカフミは嘘をつくのが下手だね」

 ステファンが冷やかした。

 マリウスは無言で、にやけているタカフミの顔を見つめていた。


          **


 年が改まった1月2日。作業進捗の確認のため、建設艦隊の士官(タカフミを含む)が、再びエスリリスに集合した。トンネルの掘削開始から半年が経過していた。

「トンネル掘削は、各工区、それぞれ13㎞前進しています。あと6ヵ月で4つの工区が接続し、100㎞のトンネルとして完成する予定です」

「いいぞタカフミ。ジル、レールの製造はどんな感じだ?」

「原料の鉱石は十分採掘されて、カーレンの中の工場で部品を製造中だ。出来た部品からアウロラの近くで組み立てが始まってる」

「了解だ。ステファン、周辺宙域の掃海は?」

「浮遊物を作業船で集めている。鉱石採掘が終わったから、掃海に回す作業船の数が増えた。来月には集約が終わるだろう。そうしたらエスリリスを回して、一度に片づける予定だよ」

「うん。順調だな。嬉しい。これからも気を抜かずに進めて欲しい」

 マリウスは一同にお礼を言った。

 皆で作業予定や図面をチェックして、必要なアクションの確認を行う。

 こうして会議アジェンダが完了したので、雑談になった。

 マリウス、タカフミを見る。

「昨日は実家に帰ったそうだな」

「はい。鹿児島で両親に会ってきました」

「1日だけで良かったのか?」

「大丈夫です。自分の顔を見て安心してました。しっかり任務を達成しろと言われました」

「そうか。ジル、隊員の体調は問題ないか?」

「みんな元気だ。けれど、ずっと船暮らしが続いているからな。地球に遊びに行かせられないか?」

「遊びに行くって、どこに?」

「例えば、種子島の市街地とか海とか。機動歩兵を護衛につけて」

「気持ちは分かるが・・・市街地に大勢で押し掛けるのは危険なんじゃないか?

 それに今、地球側と揉め事があっては困る」

「じゃあ、工事が終わったら、艦隊休暇を申請しましょう! で、日本のリゾート地とか貸し切りして、みんなで行きましょう!」

「いずれ休暇は必要だが、場所は地球ではないだろ」

 その言葉を聞いて、タカフミはハッとする。

「司令、工事が終わったら、どうするんですか?」

「まだ未定だが・・・

 突貫工事で駅を稼働させるのだから、その時点での異動を希望している。

 稼働後の追加工事はカーレンだけで出来るだろう」

「異動というのは、どこに?」

「私は・・・建設ではなくて、戦地に行きたい」

 マルガリータが、ちょっと不満そうな顔で言う。

「建設の護衛が必要ですよ? 地球だって、まだまだ調査すべきことがたくさんあります」

「護衛は、もっと小規模な、他の部隊に任せたいな。

 調査は今でも続けているだろう。駅が稼働した後も必要か?」

「もちろんですよ! 地球はものすごく、文化の多様性があるんですから!」

 ここまで話して、会議は終了となった。

 タカフミは、詰所の自室に戻り、考え込む。

 工事が終わったらマリウスは地球を去ってしまう。

 自分はどうなるのだろう?追加の工事で手伝えることはあるだろうか?

 いや、そもそも、追加工事に参加出来たら、自分は満足なのか?

 宇宙に来て、活動できる。それはラッキーだが、それでいいのか?

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