第5-14話 「対話の終わり」

 襲撃者を一か所に集め拘束してから、タカフミはジルに尋ねた。

「敵を吹っ飛ばしたのは、何なんだ? 爆薬とかではなさそうだが」

「あれこそ、機動歩兵の象徴さ」

 ジルが得意げに答える。

「エスリリスやポッドが飛ぶのと同じ原理だ。空間を歪める。俺たちは、個人携帯の重力制御装置を持っているのさ」

「重力で吹き飛ばす?」

「俺は、『マイクロブラックホールみたいなもの』って習った」

「そうか、吸い込んでるのか」

「携帯だとエネルギーが限られるから、短い時間しか使えないが」

「じゃあ、『筋肉』っていうのは?」

「予め設定しておいた、体の動きや言葉で、装置を起動するんだ」

「なんでそんなやり方なんだ?」

「そりゃ、お前」右腕の力こぶを撫でる。

「その方がカッコいいからだ! 俺の筋肉で吹っ飛ばしたみたいに見えるだろ!」

「あー、なるほど」

 装置の起動を悟られずに、奇襲するのが目的ではないだろうか。

 でもジルにとっては、カッコよさが一番の理由なんだろうな、とタカフミは思った。


          **


 ユヴァルは呆然と、エスリリスの艦体を見上げていた。

 銃声がして、対話メンバーたちは自室で息をひそめていた。

 それから急に船が動き出し、傾き、止まった。

 襲撃者が拘束されたことが船内に放送されて、様子を見にデッキに出てみたのだ。そうしたら・・・

 これほど大きな塊が、音もなく空中に静止していることを、感覚が受け入れようとしない。夢を見ているかのような、非現実感に捉われていた。

 オープンデッキに降りてきたマルガリータに、あれは何ですか?と聞く。

「えーと、こういうの、日本語でなんて言うんでしたっけ」

 マルガリータは呟き、こめかみに指をあててしばらく考えていたが、思い出した。

「幅寄せ」

「ハバヨセ?」

「いえーすざっつらいと」

 襲撃者の身柄確保のために、海上保安庁の船が近づいてくるのが見えた。


          **


 対話は初日で中止となった。

 左手に包帯を巻いたマリウスを見て、対話メンバーも中止はやむを得ないと悟ったようだ。

 ジルに急き立てられるようにして、「星の人」一行とタカフミ、堂島は、ポッドでエスリリスに移乗し、そのまま大気圏外に離脱した。

 ソレイユ号は、海上保安庁の船に寄り添われ、那覇クルーズターミナルに帰投。

 3日分の食材とワインは、マルガリータが全てお持ち帰りした。

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