第6-5話 「戦闘」

「ちょっと落ち着きなさい!」

 人命尊重、安全第一の行動原則に従い、救出を行おうとしたカーレンを、「倫理モジュール」が制止した。

 倫理モジュールはMIの良心、という訳ではない。

 高度なMIの中では、様々な(時には矛盾する)タスクが稼働している。各タスクは、得てしてリスクを過大に評価し、過剰な(過激な)対応策を取りがちだ。

 それをなだめる役回りなので「倫理」の名がついたのだが、実態はタスクを監視し、バランスを取るのが役割だ。

 カーレンとカーレン(倫理)は、改めてザッカウ-1からの画像を分析。士官の両目に映る光の反射から、偽造された動画と見抜いた。

 カーレンは解放したドッグのゲートを反転。開口部がゆっくりと閉じていく。

 ダハム、それを見て舌打ち。くそ、気づいたか。駅MIより立ち直るのが早いな。

「接舷急げ!突入用意!」


          **


 カーレンは、3隻が艦内へ侵入しつつあると報告した。

 事故の演出で一瞬、騙されたことを説明する。

「明確な敵対行為だ。撃破する」

 とマリウスが宣言。マルガリータが、仕方がないですね、という感じで頷く。

 ステファンが3隻を敵性に指定した。


          **


「早く追っ払ってちょうだい!」カーレン、機械語でまくし立てる。

「今、あなたの艦底側を微速前進中。もう少しで到着します」とエスリリス。

「でも、かなりの旧式艦のようです。なんとか星間航法で飛べます、という程度の。カーレンの外殻を壊す力はなさそうですが」

「作業船ドッグのゲートを開けちゃったの(半泣)」

「馬鹿なんですか!?」

 すぐに敵艦がカーリンに接舷することを察知し、エスリリスは戦闘シーケンスへの移行を宣言した。ここからは、人間の承認を待たない、MI同士の高速な戦いとなる。

 ステファンがディスプレイに触れるのを待たずに(形式上は、このタッチで戦闘シーケンス移行を承認したことになる)、エスリリスはエンジンの出力を上げた。

 慣性中和機構で乗員を守りつつ、一気に加速し、カーレンの陰から飛び出す。

 6門ある主砲のうち、4門が敵艦を射界にとらえた。

 ステファンが主砲斉射を命令。エスリリスは命令を尊重し、主砲4門を発射。レーザー4発がザッカウ-3に命中する。照射された外殻が気化し、艦体に亀裂が入る。艦内の空気が高温で一気に膨張し、爆散した。

 マリウスがつっこみを入れる。

「4門同時は、無駄じゃないか? チャージにも時間がかかる」

「思っていたより、脆弱だったんだ」とステファン。

「もしかして、主砲斉射って言ってみたかったのか?」

「・・・」

 次の砲撃でザッカウ-2も沈黙。船体が二つに折れる。窒息より先に、灼熱の高温が乗員を包み込んだ。

 ダハムはこの攻撃で、「駅の建設者」と遭遇したことを悟った。

「ご先祖から引き継いだ、骨董品とは違う。あれは現役の、本物だ・・・」

 ザッカウ-1の艦長が、ワープのため地球重力圏を離れるルートを指示。

 だが、そのルートは予想されているはずだ。ダハムは地球を見た。奴らはこの星に何か用があったのか?

 ダハム、勘で、地球とエスリリスを結ぶ線上に移動するように命令した。艦の位置が遷移し、ザッカウ-1は地球に向けて急降下する。

 エスリリス、残る敵艦に照準を合わせる。するとマルガリータが叫んだ。

「今撃つと、ユーラシア大陸に着弾します! だめ!」

 エスリリス、火器管制を一時停止。地球に向けて降下する。

 すると敵艦は、すれ違うように上昇に転じた。

 強襲降下艦は、艦体上部の兵装が薄い。

 エスリリスが姿勢を制御する隙に、ザッカウ-1はカーレンの背後(地球から離れる方向)に隠れることに成功した。

 エスリリスが、再度進路を変更し、カーレンをよけて敵を追尾しようとした時、

「カーレンを貫通させて撃て」とマリウスが攻撃を指示した。


          **


「ちょっと!撃つ気じゃないでしょうね!?」

 カーレンが機械語でエスリリスに叫ぶ。

 稼働1千年のベテランで、これまで危険な事態は何度もあった。

 彗星や小惑星やマイクロブラックホールにぶつかったこともある。

 ワープに異常が発生して、艦体の大部分を失ったこともある。

 しかし、戦闘に巻き込まれたのは、今回が初めてなのだ。

「撃ちますけど? 艦長がOKなら撃ちますよ」

 エスリリスは、そんなの当然でしょう? という感じで答える。その間も2艦は、敵座標とカーレン内部の構造を共有。

 味方を撃つ行為なので、艦長に確認する。主砲を1門ずつ発射して、削り取るようにカーレンに穴をあけていくプラン。ステファンが了承した。

 カーレンの上空。艦長の巧みな操船で、うまくカーレンを間に挟むことが出来た。このまま惑星重力圏を離れて、ワープで離脱だ・・・そう考えていたダハムは、カーレンの外殻が爆発して穴が開くのを見て、背筋が凍るのを覚えた。

「ワープだ! 今すぐだ!」

「し、しかし、まだ重力圏内です」

「待てん!」

 ダハム、地球重力圏内でワープを敢行。星間航法で生み出された歪みへと落ちていく。艦体を守るシールドが、重力の影響で十分に展開されない。シールドから外れた艦尾が、特異点まで引き伸ばされて消滅する。

 だが艦体の大部分はこの試練に耐えた。艦尾を破損し、部品をまき散らしながらも、太陽系外にジャンプし、姿を消した。

「敵消失。戦闘シーケンスを終了します」

 エスリリスが自在に動ける時間は終わった。「戦闘時間、48秒」

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