第6-4話 「不明艦」

 アウロラの上空で、星々が急に動き出した。実際に動いているのではなく、空間の歪みで、星から届く光が屈折したのだ。

 そして、その歪みの中に宇宙船が出現した。

 カーレンは、空間の歪みで不明艦の出現を検出。映像でもその存在を確認。地球の衛星軌道上にいたエスリリスを通じて、艦隊司令であるマリウスに通報した。

 不明艦は3隻とも全長100m。所属不明。艦種不明。建設現場に高速で接近中。約2時間でアウロラに到達すると予想される。

 司令室にいたマリウスは、カーレンとの通話に、ステファン、ジル、マルガリータを呼集した。

 マルガリータから、地球文化の調査について相談を受けていたタカフミも、マルガリータの空中ディスプレイで会話に参加。

 なお、ジルはレール組み立ての監督でアウロラ近傍にいる。堂島はトンネル掘削の監督中。

「建設現場に不明艦が出現した。倒しに行くぞ」

「ついに対艦戦闘か。この前の戦いは地上砲撃ばかりだったからね。これが僕にとって真の初陣だよ。燃えるね~」

 戦争する気満々の2人を前にして、マルガリータが慌てる。

「ちょっと待ってください! こちらに被害が出ていない状況で、いきなり攻撃はNGです! そんなやり方じゃ、際限なく戦線が拡大しますって!

 まずは停船を命じて、向こうの正体を問い合わせましょう」

「えー。せっかく不明艦がいるのに・・・」

「人は誰しも、殺されても仕方がない理由を、2つや3つや持っているものだ」

「ふざけるな!(怒)」

「仕方がないな・・・じゃあマルガリータ、誰何(すいか)してくれ」

「はい。じゃあエスリリス、通話を要求して」

 会話を聞いて、タカフミは危機感を覚えた。

「猛スピードで建設現場に向かっています。敵と想定して行動すべきです」

「いきなり撃てってことですか? もう、地球人は野蛮ですね!」

「いや、そうではなくて・・・、

 敵の方が数が多くて、正体も目的も不明です。

 ここは用心して、エスリリスの存在を秘匿すべきです。

 マルガリータではなく、カーレンから誰何させましょう」

 マリウス、画面の中のタカフミを見つめる。

「タカフミの案を採用しよう。私はブリッジに行く。マルガリータとタカフミも来てくれ」


          **


 カーレンは銀河標準語で誰何。帝国軍の誰何用として普及したプロトコルなので、とてもそっけなく、横柄に聞こえる。

「停船せよ。こちら『帝国』のカーレン。貴船の識別コードを要求する」

 ザッカウ-1側は誰何を受信すると、予定していた対応を実施する。

 若い士官「前方の自動機械から識別コードの要求が来ました。返信します」

 艦長「よし」

 ダハムは提督席でつぶやく。「カーレンか。さて、どんな美女なのかな」

 返信されたのは、無効な識別コードだった。

 カーレン、ビデオ通話をオープンした。ザッカウ-1側は固定ディスプレイで、経年劣化で映らない場所があちこちにある。そこに、普段とは違って、厳しい表情をしているカーレンが映し出された。

「帝国のカーレンです。停船しなさい。所属と船名を要求します」

 ダハムはビデオ通話画面を見上げた。カーレンの顔は、これまで訪問してきた駅MIとよく似ている。威厳があり、駅MIよりも少し年上に見えた。

 ダハムは、彼女もMIであること、そして「これなら上手くいく」ということを確信した。

「我々はカリウスの者です。船名はザッカウ-1」

「カリウスは滅びました。あなた方がカリウス所属のはずはない」

 ダハムは苦笑いした。「古文書」で見つけたコードでは誤魔化せなかったか。

 まあいい。すんなりだませるとは思っていなかった。

「我々のことは、あなたを頂いたら、ゆっくりお伝えします」

 ダハム、手で合図。通話が途絶した。


          **


 カーレンは、大急ぎでマリウスに報告した。「狙いは私です」

 マリウスは退避を指示。カーレンの表情が動揺しているのを見て言う。

「落ち着け。半径1万光年内に、お前を収容できるような構造体はない」

 タカフミはステファンに質問した。

「敵は我々に気づいていないですね?」

「気づいていないね。でも、こちらが亜光速で航行すれば気づくよ」

「タカフミ、何か策はあるか?」

「敵進路を妨害して時間を稼ぎ、その間にカーレンを地球へ向かわせましょう」

 カーレンの操作する作業船が展開。3隻は進路の変更を余儀なくされる。一部の作業船は、レール組み立てに立ち会っていた隊員を回収して、アウロラへ移送。

 カーレンの大エンジンが稼働し、巨体からは想像し難い加速でスピードを上げる。

 しかし、敵に追われて亜光速航行に入ったため、ワープは出来ない。

 約3時間後、カーレンが地球の衛星軌道に到達する頃には、3隻は再びカーレンに接近していた。

 今度はダハムから、ビデオ通話をオープンした。

 立ち上がり、腰を折って深々と頭を下げた。

「船に障害が発生しており、救助をお願いしたい」

「障害? 元気いっぱい、全速力で飛んでるように見えますけど?」

「エンジンではなく、船体構造に問題が生じているのです。我々の船は--」

 ダハムの言葉を遮るように、金属がきしむ大きな音が響き渡った。

 突如、ザッカウ-1の隔壁が吹き飛び、人や物が外に吸い出される。

 士官の体が吹き飛ばされてカメラに当たり、ビデオ通話に顔が大写しになる。

 ヘルメットはない。恐怖に開かれた瞳。酸素を求めて苦悶する表情。額の傷から流れる血。そして映像がブラックアウトする。

「きゃー! 与圧事故!」カーレン、悲鳴を上げる。

 緊急事態と判断し、ザッカウ-1の進入を許可する。

「作業船のドッグを解放するので、そちらに入って下さい!」

 外殻の一角が開く。ザッカウ-1、ドッグに向かう。他の2隻もついていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る