エピローグ
駅機能の艤装や試験が進む間、タカフミは建設の現場から離れて、探索計画を考えていた。もちろん試案であって、決定するのはマリウスだ。
それにしても、観戦武官扱いなのに、ここまでやっていいのだろうか?
だがマリウスは涼しい顔で(表情がないだけだが)、「全部私がやったことにするから、大丈夫だ」と言った。
襲撃者がどこにワープしたのかは、予想がついている。隣の駅だ。ステファンによると、ワープ時に発生する空間の歪みから、おおよその転移先が推測できるのだという。
「地球重力圏での強引なワープで、艦体も破損している。ワープ先で遭難、全滅していてもおかしくない状況だよ」
修理やエネルギー補給のため、駅に向かう可能性が高い。
「とはいえ、同盟国でない彼らは、駅施設を利用できないんだけどね」
タカフミはまず、隣駅の周辺を捜索することにした。
**
地球駅の稼働と時を同じくして、探索艦隊の編成が完了した。戦闘艦はエスリリスを含めて3隻。マリウスが探索艦隊の司令に、正式に任命された。
艦隊旗艦は、引き続きエスリリス。身軽で、かつ調査用に観測機器や通信機能が強化されているためだ。
隣駅へのワープには、地球駅の真新しいレールを使用することになった。
3隻とも星間航法エンジンを搭載しているが、ワープは莫大なエネルギーを消費する。駅のレールにワープゲートを発生させて、「飛ばして」もらう方が、転移先での行動の自由度が高まるからだ。
「駅があるなら駅を使え」というのが、「星の人」の流儀だった。
**
既にワープまでのカウントダウンが開始されているが、エスリリスは地球の衛星軌道上に留まっていた。
「ポッドはまだか?」
珍しく、厳しい口調でステファンが艦隊派スタッフに質問する。
「今、格納庫に入りました」
「ポッドの固定が終わり次第、移動開始する」
マリウスとタカフミも、ブリッジにいた。ジルは歩兵の待機エリアにいる。
ブリッジにマルガリータが駆け込んできた。
「ひー。遅くなってごめんなさい」
手を合わせて謝るマルガリータを、ステファンや艦隊派スタッフが苦笑して見つめる。マルガリータは、マリウスとタカフミの間の席に着いた。
「何かあったんですか?」
「地球からの荷物の受取に手間取ってしまいまして」
マルガリータは、組んだ両手の上に顎を乗せて、ニヤリと笑う。
「マリウス牧場に必要な物です」
「・・・何ですかそれは」
ステファンの命令で、エスリリスが移動を開始した。先行している艦に追いつき、一緒にワープゲートを潜り抜けることになる。
遠ざかる地球が、ブリッジ中空の大型ディスプレイに映し出された。
座って地球を眺めながら、タカフミは後頭部の髪を触った。首筋まで伸びている。
「士官は髪を伸ばすのが慣習だ。ジルみたいに一部を流すんだな」
「なんだか落ち着かないです。自衛隊では、許されなかったので」
「私の『戒め』に比べたら、なんてことはない」
マリウスが首を振り、黒髪が揺れた。
星を掘る、黒髪が揺れる 蒼井シフト @jiantailang
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