第3-5話 「空に叫ぶ」
タカフミは、「建設への参加」許可を上官の梅田一尉に求めた。
現場で判断できる内容ではなく、上層へエスカレーションされて、最終的には政治判断となった。
異例だが、タカフミ自身が首相に報告することになった。実際に「星の人」に会ったタカフミの意見を直接聞きたい、と首相が希望したからだ。
総理官邸の一室で待っていると、光村首相が入ってきた。首相は着席。タカフミは気をつけの姿勢で立つ。会話はすぐに始まった。
「『星の人』は、なぜ君を指名したのか?」
「これまでも対応して自分の人となりを知っているのと、接触者をなるべく増やしたくないからだそうです」
「ふむ。しかし君は自衛官だ。自衛官が参加する以上、国にも責任とリスクが生じる。君が適任だ、と説明する根拠はあるかね?」
「自分が航宙自衛隊員だからです。宇宙活動の訓練を受けています。それに異星人対応は航宙自衛隊のミッションです」
「そうだな。陸自よりは宙自の方が適任ではあるな」
そう言いつつも、首相の煮え切らない態度だった。
タカフミは、用意していた理由を述べることにした。
「日本国としても、メリットがあるのです」
「国としてのメリット?それは何だ?」
「1つは、航宙自衛隊が宇宙での活動経験を積めることです。2つ目は、航宙自衛隊と帝国の建設艦隊との間で、部隊間交流の確立です」
光村首相が「それだけか?」という視線を向ける。
「そしてもう一つですが。私が参加するなら、今後も地球とのやり取りには日本語を使い、窓口も日本に置く、とマリウス司令が約束してくれました。引き続き種子島を活動拠点とするそうです」
これには光村首相も驚いたようだ。
「なるほど。我が国が、『星の人』の情報に真っ先に触れることが出来る訳だな。意思疎通も楽だ」
「日本の宇宙進出にも、帝国とのやり取りの上でも、大きな利点と思います」
首相は顎に手を当てて考え込む。
「彼らのことは、分からないことばかりだ。例の『外交方針』も、今の約束も、守られる保証はない。会ってみて、君はどう思った?彼らは信用できるかね?」
「自分の率直な感想は、彼らはとても真っすぐで・・・少々単純な人たちだと思います。陰謀を巡らせて、相手を陥れようとはしていない。そういうややこしいことを考えるのに慣れていない、という気がします。
今の時点で、彼らが言うことを、疑う理由はありません」
「あの、黒い髪の司令官。あれは随分と冷淡そうじゃないか。地球を見下しているのか?地球人には何もくれてやらん、という気持ちなのか?」
「技術や製品を提供しないのは、地球の国際関係に影響を与えないように、というのが理由です。地球のことは地球人が決めるべきであって、帝国は干渉しない、という考え方に基づいています」
「能面のようだが・・・もしかしてロボットではないのか?」
「自分も無表情には戸惑いましたが、話していると、感情はあると分かりました。
しぐさやため息で、そう感じます。だからロボットではないと思います。
他の人たちは、しっかり人間です。ロボットではないと断言できます」
「そうか・・・」
光村首相は、中空を見つめて沈黙した。
タカフミは、航宙自衛隊での「事前打ち合わせ」で、隊の上層部から光村首相の人となりについて聞かされた。
実は光村首相は、航宙自衛隊には否定的だという。宇宙での活動が必要になるのは、ずっとずっと遠い先、と考えているそうだ。
航宙自衛隊のタカフミが参加することが、気に食わないのだろうか?
「だがしかし、超電導バッテリーは、既に日本の企業に貸し出されている」
会話ではなく、独り言でつぶやく。
「あの黒髪が決めれば、彼らはその通りに動くのだな」
そして光村首相はタカフミを見上げた。
「分かった。建設への参加を認めよう。今回の件で、日本が帝国との交流の窓口になることは、計り知れないメリットがある。前例のない任務であるが、気を付けて遂行して欲しい」
「了解いたしました!」
「任務中に見聞きしたこと、気づいたことは、全て報告するように」
「肝に銘じます」
敬礼し、退出する。
**
タカフミは総理官邸を出ると、寄り道せず、真っすぐに種子島に戻った。
空路で鹿児島、そして種子島へ向かう間、ずっと無言だった。
「星の人」ほどではないが、その周辺に付きそう自衛官として、タカフミも何度かメディアで報道されている。悪目立ちは避けたい。
ジェットフォイルに揺られて西之表港に到着すると、彼はしばらく海を眺めていた。他の乗客や船員がターミナルに吸い込まれるのを見守る。
埠頭に一人になったことを確認すると、バッグを地面に置いた。
素振りをするように、腕を上げ、振り下ろした。何度も繰り返す。
それでも、沸き起こる興奮を抑えることが出来ない。
諦めた。
拳を握り締める。
「やった」
ガッツポーズをとって、空に向かって叫ぶ。
「やったぞ。行くぞ、ついに行くぞ、宇宙!」
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