第4-2話 「選ばない性」

 2階の制御室や居住区を見た後、2人は詰所を出て、トンネル掘削の現場を見て回った。

 アウロラの表面に、50㎞の距離を置いて2か所、爆破で縦穴が掘られている、そこにシールドマシンが2台ずつ配備され、前後に掘り進む。4つのトンネルが連結すると、全長100㎞のトンネルが完成するという寸法だ。

 時折、建設艦隊の隊員がすれ違う。マリウスを見て会釈する。敬礼ではない。

「そういえば、女性の隊員しか見ないですけど、男性はいないんですか?」

「いない。女性しかいない」

「それは、調査や建設は女性の仕事、ということですか?」

「帝国は女性しかいない」

 タカフミ、思わず隣のマリウスに向き直る。

「ええ? 子どもはどうするんです?」

「病院に行けばいいだろう?」

 タカフミはマリウスを凝視する。何か決定的な隔絶がある。

「あの、パートナーはどうやって選ぶんですか?」

「パートナー? 選ぶ?」

 マリウスがタカフミを見上げる。

「地球人も同じと思うが、出産は時間がかかる。リスクもある、そうだ」

「自分もそう聞きました」

「だから、自分の意志で決める。軍は出産勧告はするが、生むのはあくまで自分の意志だ。そこに他人は関係ない。

 自分の腹の中に一人抱えるんだぞ。他人に口出しされてはたまらない」

「病院に行くとどうなるんですか?」

「私もまだ経験はないが、呆れるくらいたくさんの検査項目があって、注射や採血も何本もされて、終わると出産までのスケジュールを渡される。

 上官はそれを見て、任務や訓練を調整する」

「相手を選ぶ、なんて要素は微塵もないんですね・・・」

「だから、自分の体のことなのに、相手ってなんだ?」

 タカフミは、マルガリータが「彼と彼女」で戸惑っていたことを思い出した。

 言葉にジェンダーが無いのは、そもそも区別する必要がないからか。

 それだけではない。パートナーを選ぶ、という思想そのものが存在しないようだ。

「このことは地球では言うなよ。我々は、価値観や文化を押し付けるつもりはない。地球人が男女で暮らしたいのなら、そうすればいい。

 なのに、我々が単性と知ると、勝手に男性を否定されたように思って、反発が起こるんだ。やっかいだ」

「ちなみに男が帝国に行ったらどうなるんです?」

「人扱いされない」

「奴隷扱い?」

「奴隷は人だろう。人ではないんだ。動く肉、かな。切っても焼いても捨てても、何も言われない。報告の義務すらない」

「ええと、この現場で自分は大丈夫なんでしょうか?」

「タカフミは士官待遇だから大丈夫だ。外国から来た軍事顧問だな。兵士は士官には手を上げないから大丈夫だ」

 もう一度、タカフミを見上げる。

「それにタカフミは、体格もいいからな。一度、ジルやスチールと試合したらどうだ? 機動歩兵と互角に戦うと分かったら、歩兵や艦隊派は怖がって近寄らなくなるぞ」

「いや、遠慮しておきます」

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