第2-3話 「分裂した惑星」
翌朝、タカフミと堂島は、LAVで「星の人拠点」に向かった。
4年前の降下の後、マリウス達は「星の人」と呼ばれるようになっていた。彼らが建物を設置したので、「星の人拠点」という訳だ。堂島が命名し、「保存地」より実態に合うので、以後、そう呼ぶことになった。
現在、種子島宇宙センターは関係者以外立ち入り禁止となり、「星の人拠点」を貫通する道路は、柵のところに宙士が立って警備している。
0950に、建物が再び降りてきた。昨日の会談後、マルガリータは建物を再び浮上させ、「回収」したのだ。夜間は警備の必要がないので、タカフミにとっては、とてもありがたかった。
着地した。ハッチが開いて、マルガリータが顔を出す。
「おはようございます。今日もいいお天気ですね」
「おはようございます! マルガリータ。これ、つまらないものですが、どうぞ!」
堂島が元気に挨拶して、手土産の箱を渡す。
「ひゃー、ありがとうございます!」
マルガリータ、両手で箱を押し頂く。すごく嬉しそうだ。
まず包装をしげしげと見つめる。アルファベットのロゴが赤い紙の上に並べられている。
「この包み紙、とても綺麗ですね! 破くのがもったいない」
「あー、うちのおばあちゃんは、こういうの大事にとってますよ」
「私もそうします。梱包箱を綺麗に飾るって、素敵ですね」
ガサガサと包み紙を外す音。
「おおっ。これはスイートポテトですか?」
「種子島産安納芋のスイーツポテトです! すごく甘いんですよ。美味しいです」
「これは、きっと『緑茶』が合うんでしょうね?」
「そう思って、緑茶も持ってきましたよ!」
マルガリータ、2人に椅子を勧める。左手に向かって話すと、奥のドアから昨日の少女が出てきた。電気ケトルのようなものをマルガリータに渡す。一瞬、スイートポテトを眺めてから、微笑んで、下がった。
ケトルのスイッチを入れながら(コンセントに接続しなくても使えるようだ)、マルガリータが言った。
「今日は2人に、いろいろと教えて欲しいことがあります」
**
「まずはこちらです」
大型の空中ディスプレイが出現し、堂島が驚いてのけぞる。世界地図が表示された。国旗が記載されている。市街地でマリウスが選んだ本に載っていた地図だ。
「旗がいっぱいありますよね?これは、行政区画の旗ですか?」
「行政区画というか、それぞれの国の旗、国旗です」
「この、小さいのも国?」
「そうです」「いくつあるんですか?」「200くらい」「200!?」
マルガリータが目を瞬いた。
「国連、というのが統一政府ですか?」
「いや、統一政府はないです。あそこは国が集まって話し合う場なので・・・」
「この国とこの国は仲が悪いんですか?」
「まあ、対立しています。そうした対立は他にもあります。仲の良い国同士でも、資源をめぐって競争しています」
「そうですか。じゃあ、仮にどこかの国だけが、私たちの技術を手に入れたら、どうなりますか?」
「多分、その国がすごく有利になって、バランスが崩れると思います」
マルガリータがうーんと唸る。
「言葉も国ごとに違うんですか?」
「数千種類あるって聞きました!」
「数千!!?」
「実態としては、20種類程度の主要な言語で、人口の大半に伝わります。日本語は日本だけですけど、英語や中国語、フランス語、アラビア語といった言葉で話す人が多いです」
「・・・あの、日本語で『記者会見』したら、他の国にも伝わりますか?」
「それは大丈夫です。翻訳されますから」
マルガリータは、国や言語がばらばらなのにショックを受けた様子だった。
「銀河系には、国は一つしかないのですか?」とタカフミが聞く。
「いえ、そんなことはありません。国はたくさんあります。惑星一つの国もあれば、複数の恒星系に跨る国もあります。私たちが知らない国もあるようです。
なかには、私たちの国の資源を、盗んでいく人たちもいるんですよ。いわゆる海賊、という感じですね」
ふう、と小さくため息を吐く。
「4年前は、まあ何とか言葉は通じるだろう、と思って降下したのですが、さっぱりでした。まさか、ここまでバラバラに分裂しているなんて・・・」
やがて拳を握り締めて、気合を入れた。
「でも、地球に国がたくさんあるということは、美味しいものもたくさんある、ということです!」
すごいポジティブシンキングだな、とタカフミは思った。
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